第4話 彼女は、それで俺のことを好きらしい。


 「きらり。ど、どうしたの?」


 「やっぱ、忘れちゃったんだ? あのね。わたし高一の頃、チカンにあったの」


 「大丈夫だったの?」


 「今、そうくんがしてるみたいにお尻を触られて、怖くて。何もできなかった」


 俺は痴漢役だったのか。

 勘違いして恥ずかしい。


 すると、きらりが変な声を出した。


 「ひゃんっ……ん」


 気づけば、俺はきらりのお尻を鷲掴みにしていた。その力でスカートがたくし上がり、俺の中指は、いつの間にか、お尻の下からパンツ越しに、きらりの股間のあたりに触れていた。


 きらりは俺を見上げて口を尖らせた。


 「さすがに、彼氏さんでも恥ずかしいかも。そうくんの……えっち」


 全くトゲがない口調でクレームされた。

 俺は、きらりのお尻から急いで手を離した。


 周りを見ると、こっちを気にしている人は居ないようだった。よかった。


 「そ、それでどうなったの?」


 「わたしが困ってると、少し離れたところにいた男の子が、人混みを分けてこっちにきて、わたしをグイッと痴漢から引き離したの」


 あれ。なんか記憶があるかも。

 デジャヴか?


 「それって、もしかして」


 「うん。そうくんだよ。わたしを助けてくれた。わたし、すっごく嬉しくて」


 きらりは、耳を赤くしながらも、嬉しそうな顔をして続けた。


 「そしたら、そうくん。こう言ったんだよ?『次は、ちゃんと周りに助けを求めること。自分を大切にするように。君、可愛いんだから。わかった?』って」


 まじかよ。

 過去のオレ、めっちゃキザ野郎なんだけど。

 聞いているだけで、こっちが赤面したくなるぜ。


 「それが俺だったのかぁ」


 きらりは頷いた。


 「うん。それから、そうくんを電車で見かけると、いつも離れた所から見てたんだよ?」


 なるほど。

 なんとなく全体像が見えてきたぞ。


 きらりは続けた。


 「それでね。あの時、わたしに告白してくれた。すっごく嬉しかった。ちゃんと話したこともなかったのに、そうくん。強引」


 俺は頷くことしかできなかった。

 すっかり運命の出会いモードじゃん。


 マジで。

 いまさら断るとか絶対に、きらり泣くし。

 無理ゲーだわ。


 とにかく、きらりが好いてくれる理由は分かった。俺はきらりの顔を見つめた。


 きらりは、まん丸の目で俺を見返して、笑顔になった。仔犬のような濁りのない表情だ。


 俺なんて、彼女ができただけでも奇跡なのに、この子じゃイヤなんて言ったら、永田にぶっ飛ばされそうだな。


 おれときらりは同じ沿線に住んでいるらしく、俺が降りる手前の駅で、きらりは降りた。


 きらりは、振り返ると少しだけ前屈みになって言った。


 「そうくん。帰ったら、メッセージ送ってもいいですか?」


 きらりは、すごく不安そうな顔で、リュックのベルトを握っている。


 ……そんな態度されたら、断れないよ。

 

 俺が頷くと、きらりは嬉しそうな顔になって走り去った。


 

 帰ると、すぐにきらりからメッセージが来た。


 「一緒に帰れて嬉しかったです。それでね、今日、学校でね……」


 それから、寝る直前までずっとメッセージをやりとりした。きらりは、見た目通りの明るい性格で、学校であったことを沢山教えてくれた。


 見返すと、メッセンジャーの画面が、きらりからのメッセージとスタンプで埋め尽くされている。


 ……女の子とこんなにメッセージでやりとりしたのは、生まれて初めてかもしれない。


 最後のきらりからのメッセージは「おやすみなさい。また明日」だった。


 ……なんかこういうの良いな。

 おれは自分がニヤニヤしていることに気づいた。



 俺は自分の右手の掌をみた。

 心なしか、まだきらりのお尻の感触が残っている。


 めっちゃ柔らかかった。

 それに、きらりの股間のとこ、肉厚でぷっくりしてて割れ目あったし。なんかスッと指が収まったし。


 おれは、自分の右手を眺めると、思わず中指の匂いを嗅いだ。

 

 「……」


 残念ながら、さっき食べた夕食の豚カツの匂いしかしなかった。

 ……あれから風呂も入ったし、当然か。



 キスもしたことがないから当たり前なのだが、女の子のそういうところを触るのは、初めてだった。


 『もし、あのまま下着の中に指を入れてたら、許してくれたのかな……』


 想像するだけで、下半身に血液が集まるのを感じる。おれは部屋の電気を消すと、毛布をかぶって、自分のパンツを下ろした。


 その日から、夜のおかず劇場にキャスト(主演)が追加された。神楽坂さんとキラリが交互に出演することになったのは、言うまでもない。


 

 


 


 


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