第11話 

 配信タイトル:

「ホドさんの旅路 #4 雪狼がうざい」

#翠雪花SUISETTKA #戦闘幼女



「人間系統は好きなんだけど、こういう狼はほんとすばしっこくて嫌い」


 :わかる

 :激しく同意


「とはいえ、ギミックとか技がかっこよかったら許してやらんこともない」


 :それな

 :わかる、ビジュアル大事


 そうかっこよければ全て良し。

 ビジュアルが悪ければ――叩き潰す。



 手に握るのは【群青・翠雨】

 透き通るような青緑色の刀身に、雪の結晶を思わせる繊細な装飾が散りばめられている。


 鋭い冷気が漂い、握る手を凍えさせるほど。 

 装備した瞬間、体に青色のオーラが纏わりつき、ほんのわずかに動きが軽くなったのを感じる。


 これがこの武器特有の「軽雪の加護」だ。

 序盤とは思えないほど強く癖のない武器だと思う。




 暗雲が低く垂れ込めた峠を越えると、風が切り裂くように耳元で唸り、雪が舞い上がった。


 洞窟を踏み締めるその先は見るからに極寒の世界そのものだ。



 洞窟内部はわずかに濡れた地面が薄い氷の膜に覆われており、壁面に浮かび上がる淡い青白い光は、微細な魔力鉱石が光を反射しているものだろうか。


 視界を遮るものはないが、この不気味な静寂は、嵐の前の静けさを思わせる。


 BGMが鳴り止み、風と、足音が反響する。


 静かに……

 静かに……


「そろそろか」


 刹那――遠吠えがよく響き、だんだんその幻影シルエットが近くなくなってきた。


 洞窟の奥から、一匹の雪狼が現れる。

 その銀白色の毛並みは、まるで初雪を纏ったように美しく、瞳は燃えるような赤。


 爪先まで研ぎ澄まされた筋肉と、無駄のない動き――どう見ても歴戦の個体だ。


「さて、やろうか」


 刀を抜き放つと同時に、ボスの雪狼が一瞬、筋肉を収縮させたかと思うと、猛スピードでこちらに突っ込んでくる。

 その速さは視覚で追うには難しく、まるで閃光のようだが――こういう敵は慣れている。


 :うお、ボス戦が突然に始まった

 :か、かっこいい……!

 :こいつがどれだけかっこよかろうと、何十回も殺されたからもう見たくないんだけどなぁ


 うんうん。

 ビジュアルは上々。


 俺の好みのモンスターだ。

 

「――霜華陣!」


 初手、雪技を使う。


 冷気を纏った刀が煌めき、足元から氷柱が立ち上がり、その場にいるものに一定のダメージを与えるものだが……


「あれぇ、効かないかぁ」


 雪の技がそもそも効かないのか、フィールド効果の技が効かないのか……あるいはまた別の要因か。


 どれかは分からないが検証が必要だな。


 しっかし――初めて使った技が効かないのは少し残念。


「どうすっかなぁ……」


 狼は瞬時に軌道を変え、氷柱の間をくぐり抜けるが、その動きの一瞬の隙を見逃さない。


 パリィ――


 :初見で毎回パリィしてるよこの幼女

 :こわ

 :本当に精密機械みたいな動きしてる


 

 体を低く沈め、刀を横一閃に振る。青緑の閃光が洞窟内を照らし、狼の白い毛並みに細かな切り傷を刻んだ。


 鮮血が辺りを飛び散る。


「雪刃は効くのかな?」


 とりあえず回避できない所まで追い詰めて、放ってみる。

 すると体力ゲージがわずかに削れた。


 うーんなるほど、単純な攻撃系統の技は効くのか。


 ただ……


「なんていうか、技効きにくいなぁこいつ」


 翠雪花の目玉機能である「技」が効きにくい敵は練習相手にならないなぁ……


 仕方なし。


 :こいつ氷系統の技効きにくいし嫌い

 :継続ダメージも効かないし嫌い

 :このワンコロくそくそくそくそくそ


 コメント欄荒れてる。

 このボス……相当嫌われてんな。


 にしても、せっかく試そうと思ってた雪刃と霜華陣が使えないのは残念。


「はあ、出鼻挫かれた」


 うっきうきでボスに試したかったのに……


 まあ、愚痴愚痴いうのもあれだし、通常攻撃と基本モーションだけで相手してやるか。


 ただし……


「お前はハメ殺す」


 まずは――相殺。

 翠雪花で言うところの『合わせ』。


 パリィの完全上位互換であり、決まれば敵を完全硬直させ、反撃が確定し、通常技の威力が2.5倍になる。


 猶予1フレームで、なおかつ……

 『位置』『角度』その他全てが完璧に噛みあわせないと発動しない特別なモーションである。


 この相殺の機能は前作からあるものの、あまりにも難しすぎて熟練者たちが狙って出すことが不可能と結論付け、奇跡的に決まればかっこいいロマン技程度に成り下がってしまった。



 ただ……


 ただな……


 ロマンは追い求めるもの。


 何百何千何万と練習に練習を重ねた果てに――俺は狙って相殺を出せる。


「なあ、ワンコロ、ハマってるよおまえ」


――『合わせ』



 :うわぁ……えぐ

 :前、奇跡的に『合わせ』たのかと思ったけど、もしかして……ホドちゃん狙ってやってる?

 :いやいや、そんなわけないでしょ。猶予一フレームとか謳ってるけど、不可能じゃんあれ

 :まさか……ねえ

 :かわいい声なのにがなりと狂気がにじんでて、愛おしい


 

 あーそれは、ダメダメ。


 前戦ったあの爺さん『氷の剣聖』――東 宗一郎はモーションも速く、低速攻撃ディレイもあってかなり相殺を狙いにくかったが……

 このワンコロは攻撃のタイミングもワンパターンで、モーションもただ速いだけ。


 低く響く狼の咆哮が洞窟全体を揺るがし、一瞬こちらを睨むと、銀白の毛並みを逆立てながら低い体勢を取り此方に噛みつこうとしてくるが……


「狙ってくださいっていってるようなもんだぞ」


 二連続で『合わせ』、怯んだうちに攻撃を叩き込む。


 :は?

 :まじで狙ってるの!?


 狼は氷柱の隙間をすり抜けるように移動し、瞬時に新たな軌道を描く。

 その滑らかな動きに目を細めながらも、一瞬の隙を見逃さない。


「まあ……どれだけ動きを変えようが、タイミングが似てるからやりやすいなぁ」


 だからこうして、簡単に相殺を取られちゃう。


 さて、最後はどう調理しよう。


 ビジュアルはカッコよかったし、最初は良いなって思ったけど……

 戦いも魅せてくれないと、なんだか煮えたぎらない。



 ボスの体力がどんどん削られていく。

 

 :……なんだ、これ

 :わからん

 :本当に、やってることが人間じゃないんだが

 :こっわ

 :おかしい、おかしいって! おれ、何回ここで死んだと思って……

 :可愛い幼女だと思ったらただの戦闘狂だった


「嗚呼、もう終わりかぁ……」


 刀を仕舞い、絶えた狼を横目に解放された所へ向かう。



 残念だけど……こいつは俺の好みじゃなかった。

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