第10話

 技システム

『翠雪花』の目玉システムには「技」と呼ばれる特別なアクションがあり、これを発動するには、キャラクター固有のゲージである「魂魄」を消費する必要がある。



 ステータス:PN『ホド-LV.7』


 魂魄-10

 体力-10

 筋力-13

 技量-5

 敏捷-5




 『魂魄』


 自然回復:魂魄は一定時間で自動的に回復する。


 コスト管理:技を使用すると消費されるため、無計画に乱発することは危険だ。


 ゼロのリスク:魂魄値が0になると、代わりに 体力が大きく削られるペナルティが発生する。



「魂魄は時間が経てば回復するけど、無闇に使いすぎると痛い目を見るなこれ……」


 技の発動は強力だがリスクも大きい。

 特にこの説明を見る限り連続使用には注意が必要で、対策として、レベルアップによる魂魄の最大値増加が重要になってくる。


「うーん、沢山練習と検証がしたかったんだがなぁ」


 それは当分先の話になりそう。



 一応他のステータスの項目も見ておくと――


 『筋力』


 武器の扱いや攻撃力に影響を与えるステータス。特に重量のある武器には必要な筋力値が設定されている。


 筋力不足のペナルティでは、必要な筋力値を満たしていない状態で重い武器を装備すると、移動速度が低下し、回避行動も遅れる。


 重量武器を使用するため、筋力は真っ先に強化しておくべきか。


「まあ前作にもあったけど、重い武器を装備するとき、筋力が足りないと回避が遅れる……とりあえず上げといて正解だった」



 『体力』

 戦闘の持久力を左右するステータス。

 魂魄が枯渇した場合の保険にもなる。


 『技量』

 命中率やクリティカル率に関わるステータス。特に遠距離武器や精密な攻撃に重要だ。


 『敏捷』

 移動速度や回避性能に影響。特に回避アクション主体のプレイスタイルでは、重要性が高い。



「ふむふむ、おおまかなところはどのゲームも変わんないか」


 ステータスを眺めながらぼやく。


「……でも、この『翠雪花』ってやっぱり魂魄の使いどころがめちゃくちゃ重要なんだよな」


 敵を一掃するド派手な技もあれば、状態異常を付与する便利な技もあるけど、どれもこれも魂魄を消費する以上、無駄遣いはできない。


「練習不足で実戦中に魂魄が枯渇したら最悪だし、かといって練習しすぎて体力が尽きるのもヤバい……バランス取るの、難しいわぁ」


 そんなことを考えている間にも、次のエリアへの道は目の前に広がっている。気を取り直して、進むことにした。


 



 足を踏み入れた先は、雪の結晶が舞い落ちる幻想的な氷の洞窟。

 凍てつく空気が画面越しにも伝わってくるようで、思わず「おおっ」と声を上げてしまった。


 だけど、そんな感動も束の間、奥から狼型のモンスター――雪狼が姿を現した。


「うげぇ、狼系統かぁ……他の作品でも相当厄介だったし、RTAでよく邪魔されるから嫌いなんだよなぁ」


 ビジュアルは確かにかっこいい。

 しかし、それよりもうざいのだ。


 すばしっこいし、群れるし、ほんとさ……


「とりあえず《雪刃》使ってみて様子見るか……魂魄の消費がどんな感じか確認しておきたいし」


 敵がこちらに気づき、雪狼たちが鋭い鳴き声を上げながら突進してくる。すばしっこい動きに反応し、慌てて技を発動する。


「《雪刃》、発動!」


 画面上のキャラクターが剣を振り抜くと同時に、冷たい白い光が刃から放たれ、前方に広がる。吹雪のようなエフェクトが一瞬で雪狼を包み込み、数体がダメージを受けて倒れた。


「おお、結構効くな! でも……」


 視線をステータス画面に移す。

 魂魄ゲージは、発動前は10だったのが一気に7まで減少していた。


「3も減るんだ……連発は無理だな。こりゃ慎重に使わないと」


 残った雪狼たちは怯むどころか、さらに攻撃を仕掛けてくる。やっぱり群れで来られると面倒だ。ここで再度雪刃を使うか、それとも通常攻撃でじっくり削るか――判断を迫られる。


「……魂魄温存でいくか。体力まだあるし、慎重に……」



 慎重に?





 うーん。


 普通にぶっころそう。


「ちょいと鬱憤晴らしに付き合ってくれよ」


 最近宿題やら何やらで詰めること多かったしね。

 

 というわけで、通常攻撃で応戦することにする。

 ステップ回避を駆使しながら、間合いを詰めたり離したりして戦う。


 攻撃を加えるたびに雪狼の数は徐々に減っていくのは見てて気持ちいなぁ……


「嗚呼……快感」


 恍惚とした表情を浮かべながら、辺りを走る。


 ――走る。踏み込む。斬る。


 雪狼の白い毛並みが真紅に染まる様子を見て、口元が自然と緩む。


「これだよ、これ……やっぱこうじゃないと生きてる気がしねぇな!」


 敵の群れがいくら攻め寄せてきても、むしろ、その緊張感が心地よい。


 片手で振り抜いた剣が再び雪狼の一体を引き裂く。白い毛が宙を舞い、地面に倒れ伏す音が響く中、群れの残りが一斉に飛びかかってくる。


「軽ロリは、いいねぇ」


 装備を着てないからローリング回避行動が長い。

 

 体を低く沈めてからステップで回避する。その一瞬の動作が、雪狼たちの動きを無駄にさせる。そして、そこから反撃――


「そこは雪刃のリーチ内なんだよなぁ」


 詰んでるよ。

 お前ら。


 剣を振り抜くと、再び冷たい光の刃が放たれる。吹雪が巻き起こり、残った雪狼の数匹を吹き飛ばす。


 視線を奥へと向けると、洞窟の奥からひときわ巨大な雪狼――ボスモンスターと思しき存在が現れる。


 その瞳は鋭く、毛並みは銀色に輝いている。体の大きさも他の雪狼の倍以上で、威圧感たっぷりだ。


「ボス……か。これ配信つけようか……」


 一応、裏で進めてレベル上げするだけにしとこうかと思ったけど……ここでボスに会うなら配信したほうがよさそうか。


 配信の準備をしながら、ボスに目をやる。


「ひとまずレベルは……いやこのままでいいや」


 レベルを上げたらきっと楽しくない。

 攻撃を喰らったら一撃で死ぬくらいにはヒリついた勝負がしたい。


 とはいえ……


 宝箱で拾った刀武器――【群青・翠雨】、これ攻撃力高くて特にモーションがかっこいいから使おっと。


 縛りプレイはほどほどに。

 かっこいい武器は使ってなんぼだ。




 狂ったような笑みを浮かべ、再び剣を構える。


 いざ……お眼鏡に叶うボスであって欲しいと願いながら、勝負を挑む。



 氷の洞窟に響く咆哮と高笑いが混ざり合う。

 そして、戦いの幕が切って落とされた――

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