第7話

 配信タイトル:

「ホドさんの旅路 #3 終わらない雪指南」

#翠雪花SUISETTKA #戦闘幼女





「……次はどう来る?」


 爺さんの第二形態は、以前の動きと全く異なっていた。

 ただでさえ反応速度が問われる攻撃だったのに、その範囲やパターンがさらに多様化している。画面の隅には「形態変化」の文字が小さく点滅していた。


『剣士殿、まだまだ楽しませてもらうぞ。次の一手を見せよ!』


 瞬時に間合いを詰める爺さんの姿が視界に映る。その速度は尋常ではなく、こちらの通常回避では捉えきれない。


「それ、ガー不かよ!!」


 ガード不可。

 パリィはシビアすぎて、まだ慣れてないから狙ってできん。


 状況を見極める。

 爺さんの攻撃には新しいパターンがいくつも追加されているが、それらの全てが絶対回避不可能というわけではない。


 うーむ、ヒットアンドウェイに徹するか。

 ちょい見栄えは悪くなるが仕方なし。


「……地道に削らせてもらう」


 :無理ゲーなはずなのに……なんで避けれてるんだよ

 :ホドちゃん冷静すぎ

 :また理論詰めしてるよ、この人

 :これでまだ小学生って……将来有望すぎ

 :うわぁ……


 爺さんの攻撃を観察し続ける。

 追尾する氷刃、広範囲の雪の爆発、低速から高速へ移行する連撃……

 それらを全て、ギリギリのタイミングで回避し、パリィからの一撃を試みる。


『よくぞここまで粘る……剣士殿、少し本気を出そうかのう』


「え、まだ本気出してなかったのかよ!」


 爺さんが杖を掲げた瞬間、周囲が凍りつくような冷気に包まれる。

 筆書き文字で雪崩と表示されたその刹那……巨大な氷柱が次々と降り注いだ。


「はぁ!? ちょ、それは聞いてない!」


 : うわキツい

 : ステージギミックまで追加かよ

 : これ完全に初見殺しじゃん


「ッチ、次の攻撃をはやく予測しないと……」


 氷柱が落ちてくるタイミングと位置を見極めながら、細かくステップで移動しつつ攻撃を繰り出す。

 氷柱の影響で狭くなったフィールドだが、爺さんの動きは依然として鋭い。


「ひでえ技の配置……これ突破させる気ないだろ!」


 僅かな隙を突き、攻撃を叩き込むが、爺さんの体力ゲージは思ったほど削れない。


『良いぞ、剣士殿……その調子でわしを倒してみせよ!』


 そう言い放つと、爺さんは再び杖を振り、広範囲を凍らせる一撃を放つ。







 ただ……




「見切ったぞ」


 攻撃のタイミングを完全に読み切り、回避ではなく正面突破を選ぶ。

 爺さんの杖をパリィし、反撃の一撃を叩き込む。


 : うそ、パリィ成功!?

 : これ勝てるんじゃね?

 : マジで天才すぎる……


『見事! だが、まだ終わりではないぞ……』


 爺さんの体力ゲージがついに赤く点滅する。画面には「最終形態」の文字が現れ、フィールド全体が暗転する。


「第三形態とか、爺さんラスボスかよ……」



 爺さんの姿は変わり果てていた。

 手にしていた杖は巨大な刀へと変貌し、身体を包む氷の鎧が鈍い光を放っている。

 そして、ステージ全体が徐々に凍り付き、滑る地形が新たな障害となっていた。


「うわ、地形まで変わるのか……嫌な予感しかしない」


 : もうラスボス確定演出じゃん

 : 氷のステージとか絶対滑るでしょこれ

 : 爺さんどんだけ形態持ってんだよ


 足場がツルツルと滑るため、これまでのような素早い回避は難しい。

 さらに、爺さんの巨大剣による広範囲攻撃が新たに追加されていた。


 剣を振り下ろすたびにフィールド全体が揺れ、ランダムな位置から氷の刃が飛び出してくる。


『どうした? 動きが鈍いぞ、剣士殿』


「地形に慣れさせる気ゼロだな、ほんと……おしゃべりなジジイめ」


 仕方なく、滑る足場に合わせてスライドしながら動くことに集中する。

 観察を続ける中で、氷刃の発生タイミングが攻撃の後の僅かなモーションに連動していることを見抜く。


 とはいえ……


「無理やり距離取らせられるから、相当きつい」


 空間や距離、タイミング、全て狙って噛み合わせないと――攻撃すらできない。








 

 ただな……




「嗚呼……」


 

 それでこそ――待ち侘びた甲斐があった。



 : また理論詰めタイムきた

 : ホドちゃん、冷静さがバケモン

 : これが、狂気……か


 

 体力が一定量減ると、爺さんが新スキル「氷牢」を発動。

 フィールド上の至るところに巨大な氷の柱が現れ、自分の行動範囲を制限する。


『剣士殿、いいぞ剣士殿。其方は、良き剣士なりや!』


「あはははははは!!」


 氷牢によって視界が悪化し、爺さんの姿が見えづらくなる。柱に隠れながら、高速移動でホドを翻弄する爺さん。

 その間にも、遠距離からの氷刃攻撃が襲いかかる。


「見えなくても、大抵分かる』


 柱の配置を利用し、爺さんの移動パターンを逆に制限。氷刃攻撃の軌道を見切りながら、隙を作り出す作戦を取る。


 爺さんの動きを巧みに誘導し、柱の間に閉じ込めた瞬間、一気に接近し攻撃を叩き込む。


 : やば、囲い込みうますぎ

 : こんなの初見でできるわけない

 : ガチプロの動きなんだが



 さあ、耐久しようぜ?

 一つでも間違えたらすぐあの世逝きの狂気の沙汰を、今――


 魅せてやる。


 ここで終われば全てパー。


 おそらく負けイベだから負けたらつつがなくストーリーが進行するだろう。


 そしたらやり直しは効かない。

 だから、この一回で突破する。


 渾身のタイミングで爺さんの攻撃をパリィし、丁寧に一撃を叩き込む。



 繰り返し繰り返し―――


 斬る。避ける。

 守る。攻める。


 逃ける。

 見極め、合わせる。



 :うわ、えぐ!

 :集中力途切れないのバグだろ

 :猶予1フレームジャストで『合わせ』やがった

 :完璧な角度、完璧なタイミングによる相殺――『合わせ』をそんな連続で出せるはずないだろ

 :人間じゃねえ……人間じゃねえよ

 :これがいわゆる、人力TAS……

 :辞めてるって人間



 嗚呼、汗が目にかかって、見えんな。

 

 でも、もうパターンは覚えた・・・


 :目つむりながらパリィ!?

 :は?

 :なんだよ、それ……



 続け、続け。

 この戦いを、もっと……


 さあ、さあ、さあ……さあ!


「嗚呼、参る!」


 楽しい。

 これは屈指の良ボスだ。


 最終形態により名前が見えた。

 氷の剣聖――「アズマ宗一郎ソウイチロウ

 

 こいつは倒せる。

 負けイベなどでは断じてない。


「楽しいな!」


 削って、削って……







 そうして四十分の死闘の末――


 爺さんの体力ゲージが徐々に徐々に削られていき、ついにゼロになる。


「勝った……まじギリギリだった」

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