第6話

 配信タイトル:

「ホドさんの旅路 #2 雪指南の試練に挑む」

#翠雪花SUISETTKA #戦闘幼女




「……よし、準備できた」


 深呼吸して気を整える。

 目の前の爺さんNPCはただのチュートリアルキャラじゃない。

 全身から漂う威圧感が、彼の底知れない強さを物語っている。

 でも、そんな相手だからこそ――勝ってやる。


『準備はできたか? 剣士殿』


 剣を構え、地を蹴る。


『それでこそ剣士殿。来るがよい!』


 爺さんの杖が風を切り、刃のような雪を纏った一撃が繰り出される。その動きは速く、そして重い。


「……ッ!」


 反射的にパリィを試みるが、杖が剣に叩きつけられた瞬間、重さに押し負けて吹き飛ばされる。


 まじか……


 :パリィ不可攻撃……

 :うわぁ、性格わっる!


「ほぼゼロモーションの癖に殺意高すぎだろ」


 跳躍から回避を入れて、間合いをとる。


「どうするか……」


 正直なところ、これ負けイベでは? なんて脳裏によぎったが……


「らしくねえな。おーけー、やってやる」


 普通の敵と違い、この爺さんは手加減なんてしてこない。

 次々と繰り出される攻撃に、かろうじて回避やガードを挟みながら、わずかな隙を狙う。


 ただ――連続攻撃、終わると思った瞬間技入れ込みやがった……


 俺だけ「技」使えないから、相手が圧倒的に有利すぎる。


『嗚呼、いざ……参る!』


 その問いと同時に、氷の刃が追尾して、回避モーションが少しずれたから、初の被弾をした。


「は? なんだそれ!?」


 ラグか?

 いや、違うな……


 :若干ずらした低速攻撃

 :クソすぎる


「まーじか、終わってんな」


 とはいえ技はゲージ『魂魄』を使用するらしく、クールタイムがある。


「隙がある、とはいっても普通のモーションもいかれてらぁ」


 だが……


「ゼロってわけじゃねえな……」


 じりじりと距離を詰めながら、爺さんの攻撃を観察する。

 確かにこの敵は理不尽な強さだが、動きにはある程度の規則性が見える。


 追尾氷刃のタイミングや、単純な連続攻撃の終わり際には微妙な硬直がある。


 回避で様子見。

 パリィできる攻撃もある。


『ほう……まだ立ち上がるか。なかなかやるのう』


 爺さんが杖を振り、またもや刃のような雪を纏った攻撃が繰り出される。だが今度は、動きを完全に読み切っていた。


「ここだろ?」


 横薙ぎの攻撃が来るタイミングでステップインし、一瞬の隙に剣を叩き込む。攻撃が成功し、ほんの僅かだが爺さんの体力ゲージが削られる。


 攻撃は問題なく当てられる。


 ならばここからは……


「一度のミスもなく、全ての攻撃を読み切り、最速で攻撃を当て続けるだけで勝てるな……」



 :は?

 :ホドちゃん……?

 :それさ、理論上はそうだけど、無理って言うんだよ?

 


 いやでもさぁ……

 攻撃が通るのなら――勝てるじゃん。



 冷静に状況を分析し、次々と繰り出される爺さんの攻撃に対し、確実に反応していく。

 だが、ただ反応するだけでは足りない。何度も繰り返し、攻撃パターンを覚え、対応していく。


「落ち着け、冷静に……」


 冷静に一度のミスも許されない状況を自分に課し、反射的に動くことなく、全ての動きを確認しながら戦う。


 :パリィ通った!?

 :うわキャラコンきも!

 :それ普通に暴言だから、とはいえきもいな

 :お前も言ってんじゃん


 爺さんの攻撃が少しずつ速く、重くなっていく。だが、それでも確実に読める隙がある。

 攻撃の後、爺さんの動きが一瞬遅れる。


 くそっ、そこフェイントかよ……危うく攻撃して反撃されて全てが終わるとこだった。


 もういっかいパターンを洗い出そう。


「その攻撃の後はだいたい技か……併用する時もある、と」


 そして連続攻撃。

 突きや払いを織り交ぜたソレの対処は、有効手段が少ない。


 やられてる間は、反撃不可だからだ。

 

 攻撃は焦らない。


 よく見てよく見て……


「ああ、そこね」


 軽く当ててやる。

 なあ爺さん。

 

『なるほど……わしの動きが、見えておるか……これは少々本気を出さねばならんな』


「は?」


 急にステップで後退していき、白衣を脱ぎ捨てると、筋骨隆々で傷だらけの体が顕になった。


「まじかよ……体力回復!?」


 相当頑張って削ったのに……

 全回復とか、こいつ倒させる気無いだろ。


 でもまじか……


 挙動とかモーションとか使ってくる技とかも変わってきそうだしもっかい、読み直し。


 はいはいわかりましたよ。


「存分に相手してやる」



 爺さんが何かをしようとした瞬間、画面の視覚が一瞬揺らぐ。

 明らかに、彼の動きが加速したのが分かる。


 画面の切り替わりモーション。

 吹雪で視界もめちゃくちゃ。


 :うわなにこれ

 :きっつ……

 :まじで負けイベでしかないじゃんこれ



 冷や汗がにじみ出る。

 今までの流れで、あの僅かな隙を見逃すことなく攻撃を叩き込んでいたが、今の爺さんの姿勢、動き、すべてが格段に鋭くなった。確実に、反応速度が違う。


 AIも相当良いの積んでるようで、此方の動きに対処してきてまるでプレイヤーみたいだ。



「うそだろ、それはちょっと話が変わってくる」


 爺さんの目が鋭くなるのが見える。その瞬間、杖が一気に振り下ろされる。


 そのまま瞬時にステップを踏みながら回避するが、杖が通り過ぎると、雪の刃が鋭く追尾してくる。


「さも当然かのように追尾機能ついてくんじゃん!」


 これは避けるの手こずるな。

 だいたい猶予フレーム2とかその辺か。


 まあ避けないと死ぬから……


「避けるんだけど」


 素早くスライドして回避をする。


 そうして爺さんをみながら、待ち構えていると……


 次の瞬間、視界が一気に明るくなった。爺さんの攻撃が強烈に爆発し、雪の刃が空中で煌めきながら四方に飛び散る。

 その一閃が画面を一瞬、雪景色に染め上げる。


 :いや、えっぐ……

 :殺意高すぎだろ! というかこの初見殺しなんで避けれてるんだよ!


 思わず目を細めて画面に集中する。氷の粒が周囲を飛び交い、視界が遮られる。

 それでも、爺さんの動きを見逃すわけにはいかない。攻撃の軌道を見極めながら、次の反撃を試みる。


「多分……」


 俺の経験上、こういう挙動をした後は……


 氷の粒が消えた瞬間、爺さんの攻撃がまた来る。それを予測し、瞬時にパリィを決める。


「そうだよなぁ! パリィできるよなぁ!」


 杖が剣と激しくぶつかる音が響き、すぐに後退しながら次の攻撃のタイミングを計る。


「あは、最っ高だわおまえ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る