第5話

 配信タイトル:

「ホドさんの旅路 #1 初雪の里を攻略する」

#翠雪花SUISETTKA #戦闘幼女



「ういー、ではでは、今日もやってきます。今回の配信では、ゲーム画面とオレがプレイしてる映像を並べて写してるけど……見えてる?」


 :見えてるよ……

 :うん、見えてはいるんだけど

 :なんか、違和感ある?


「何だ君ら? その反応」


 コメント欄がざわつき始める。

 もしかして、ゲーム画面がちゃんと写ってないのかと慌てて確認する。しかし画面に問題はない。


「んー、大丈夫そうだよな。じゃあ何だ……?」


 :え、ホドちゃんって、何歳?

 :声可愛いなーとは思ってたけど、まさか、いや、まさか……

 :ねえ、もしかして、子供なの?



 ああ、なるほど。

 俺のビジュアルが気になるらしい。


 確か今の年齢は8歳だけど、一応伏せとくか。


「まあ小学校に通ってるとだけ」


 一瞬沈黙したコメント欄がさらに騒がしくなる。


 :いやいや、待て待て! ガチ幼女!?

 :え、嘘でしょ……小学生で、あのプレイングはちょっと英才教育がすぎないか!?

 :ぅわぁよぅじょっょぃ

 :年齢制限……


「年齢制限は推奨だから、別にオレがやっても問題ないだろ?」


 :ダメとは言わないけどさ……衝撃がデカすぎる

 :この年齢で翠雪花やるとか、すげぇな……

 :普通はここで心折れるよね!?


「折れない折れない。それよりほら、準備整ったし、初雪の里攻略始めるぞ」


 画面に霧深い雪景色が広がる。

 山道の奥にぼんやりと光る祠のような建物が見え、和チックなBGMが流れる。


「うわ……すげぇ綺麗だなこの雪、画面越しでも伝わるくらいリアルだな。霧の演出もすごいぞこれ……!」


 :相変わらずグラフィック良すぎだよなー

 :初雪の里の雰囲気最高すぎる


「うーん、発売前のPV見たときから思ってたけど、このゲーム、マジで雰囲気に全振りしてるな。で……あ、いたいた」


 画面に薄汚れた白い毛並みの小型モンスターが数匹現れる。

 鋭い爪を持つ雪妖せつようだ。


 PV情報に載ってたし、気になってたけど、こんなすぐ対面できるとは……


 次第にゆっくり近寄ってくる。


「あー……出たな、雪妖。群れるとめちゃくちゃ強いって噂の……でも一匹ずつならそこまで怖くないだろ。おい、かかってこいよ!」


 :おいおい、待て待て、いきなり挑発!?

 :ホドちゃん死ぬぞ!?

 :群れたら終わりなのに……無謀すぎる


「大丈夫だって。この程度、パリィで余裕――っと、よし!」


 雪妖が一匹、爪を振り上げて突進してくる。その動きを正確に見切り、タイミングよくパリィして弾き返す。

 続けて反撃で一刀両断。雪妖が崩れ落ち、雪に血が滲む。


 囲まれる前に、一対一で対処すれば……


「ほらな、簡単だろ?」


 :おれ、ここで何回も殺されたんだけど

 :動きが熟練のそれだわ

 :プロゲーマーかよ……

 :いやいや、次がやばいだろ!群れてきた!


 奥から3匹、雪妖が連携して襲いかかってくる。


 とはいえ……


「楽勝」


 一匹目の攻撃をパリィで弾くと同時に、次の一匹の攻撃をローリングで回避。

 体勢を立て直し、冷静に反撃を仕掛ける。


「一匹ずつ片付ければ問題ない!」


 :冷静だぁ

 :すげえな、無駄な動作ひとつもない



「ふぅ……いやぁやっぱ翠雪花楽しいな。ほんと、この時を待ち侘びてた」


 良い。


 動きも綺麗だ。


 キャラのビジュアルも最高。


 俺の求める全てが、此処に詰まってる。




 雪妖せつようを倒し、周囲を見回すと、血に濡れた雪の中に光るアイテムが転がっている。


 拾い上げると、翠結晶すいけっしょうと呼ばれるこのゲームのお金のようなアイテムだ。


 :あれだけ強いのに翠結晶三つかよ……しけてんな

 :まあ、しゃあない。なんせ雑魚敵だからね

 :問題は雑魚敵が雑魚敵じゃないってことだ

 :哲学かな?


「おっ、出たな翠結晶。序盤の稼ぎにはこれが欠かせないんだよな……っと、もう一つ落ちてるな」


 もう一つのアイテムを拾い上げると、それは「雪の指南書」だった。


「これ前情報で見たけどどんなやつだったっけ……」


 :「技」の熟練度上げに必要なやつでしょ

 :雪系統は攻撃技だから、序盤に雪の指南者が落ちるのはラッキーやね


「ああなるほど、これはいわゆるスキルの強化素材か」


 このゲームには「雪」「月」「花」と名付けられた3種類の指南書が存在し、それぞれ独自の戦闘技術を学ぶ手がかりとなる重要なアイテム。


 にしても技ってどうやって覚えるんだ?


 まだ俺「攻撃」と「防御」「回避」「パリィ」「跳躍」の基本モーションしかできないから、やることすくないけど、「技」まで覚えられるとなると、戦闘が結構ややこしくなりそう。


 とりあえず画面に専用のPVが流れて『初雪の里』って表示されたから、目的地についたな。



『おや、剣士殿……旅はいかがかな?』


「嗚呼、強制イベントか」


 杖をついた眼帯の初老NPCが話しかけてくる。

 身にまとった雪のように白い羽織と、どっしりとした立ち姿に妙な威圧感がある。


 :この人めっちゃ強いって噂の爺さんじゃん!

 :ちょ、あんまりネタバレすんなって

 :まだ初見もいるんだから、なるべくネタバレ禁止だぞ。



『剣士殿、雪の指南書を持っておるのか。これはまた、数奇な運命よ。少し見せてみろ』


 そう言われ、手持ちの「雪の指南書」を差し出すと、爺さんはしばらく眺めた後、ふと笑みを浮かべる。


『ふむ、なるほど。この程度の技ならば剣士殿もすぐに習得できるだろう。だが――』


 瞬間、爺さんの杖が宙を舞い、空中で鋭い音を立てると、地面に突き刺さる。


『ただ覚えるだけでは駄目だ。技を真にものにするには、実際にその身で使いこなさねばならぬ。いかがかな? わしが相手をしてやろう』


「……なるほど、そういう展開ね」


 好きだわこういうの。


 こうやって「技」を教えてくれるのか。



 :来たぞ、ガチで強い爺さん

 :負けイベきた

 :勝てるわけがない相手だこれw

 :おい、ネタバレすんな!

 :幸いホドちゃんゲームに集中してるから見てなくてよかった



『さあ、構えよ! 雪の技を学びたいのならば、わしの一撃を見切ってみせよ!」


 爺さんが両手に杖を構えると、吹雪の中にいるかのような錯覚に陥り、彼の周囲に漂う雰囲気が一変し、空気が凍りついたように感じる。


 グラフィックが綺麗だから、すごい惹き込まれる。


 それと……


「BGMかっこよすぎだろ!」


 素晴らしい。

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