いざ安息の地へ
「はあ、、、。ヒナくん、紹介するよ。こいつはセシリア、俺の所属していたパーティーの元リーダー」
「パーティーは解散しちゃったけどね〜」
ヒラヒラとセシリアはヒナに小さく手を振った。
「この人が最強の冒険者、、、」
ヒナは軍服の男を見てそう呟いた。
「お前、なんで騎士団なんかになってんだよ」
「ヒカゲちゃんも分かるでしょ?やっぱ冒険者ってもう儲からないじゃん?だからさぁ、安定した収入が欲しくってさぁ。国のために働くようになっちゃった!」
「妖魔王を倒した男が国に仕えた?よくバレなかったな」
「いやこれが意外とバレないのよ!ヒカゲちゃんだって畏怖殺しの斥候ってバレてないんじゃない?」
セシリアはヒカゲの肩を掴んで強く揺さぶる。当然そんなのは鬱陶しいのでヒカゲはセシリアの手を肩からどかした。
「まあ、上級冒険者だったやつとかに会わない限りはバレないな」
「だろ?そういう奴らはもうこの街をとっとと出ていって別のところで働いてるわけよ」
セシリアが働けている理由をヒカゲは理解した。それは理解できたのだ。だがヒカゲはセシリアが姿を消すように別職についたおかげで嫌な思いをしている。
「でもさ、ひとつ言わせてもらっていいか?お前が消えたせいで俺が化け物扱いされているんだよ」
「化け物?」
「、、、妖魔王を殺した後はパーティーメンバーを殺して夜な夜な人を殺して回ってるって」
「あはは!!何それ!」
「笑い事じゃねえよ!」
ヒカゲは起こっているがセシリアは大笑いしている。何も和むような話はしていないのに。ヒカゲは彼のこのような、人の気持ちを汲むことができないところが嫌いだった。
「魔法使いのルアは?弓使いのゼフは?シーフのハロルドは?」
「えっと、ルアはゼフと結婚して事業を立ち上げようとしてたけど借金抱えて愛想尽かしたルアが他の男と逃げた。んで、ゼフは借金取りから夜逃げ。ハロルドはたしか、農家の娘さんと付き合ってたけど浮気しちゃったことがバレてその子に射殺されたらしいよ」
「なんでそんな悲惨なことになってんの!?」
「俺に言うなよ〜。君はどうなの?」
「どうなのって、、、」
ヒカゲはチラリとヒナの方へ目をやった。
「今ちょっと困ったことになってる」
「困ったこと?なんなら俺、全然助けるが!」
任せとけというようにセシリアはドンと胸をたたいた。
「妖魔王をあなたが倒したんですよね?」
ヒナはセシリアに質問をした。
「お?気になっちゃう感じ?いいよー、何か質問あったらお兄さんなんでも答えてあげる」
ヒナの目線に合うように、セシリアはテーブルに顎を乗せた。
「てゆーかさ、この子何者?マジで君の子供?」
「お前誰にも言わないな?」
「え?うん」
「お前を信用していいんだな?」
「もちろん、嘘ついたら締め殺してもいいよ」
「分かった、教えてやる」
ヒカゲは誰も聞いていないから辺りを見回しチェックをした。
「この子は妖魔王の娘」
小さな声でヒカゲはセシリアに教えた。
「すみませんでしたぁぁぁぁ!!」
セシリアは突然ヒナに頭を勢いよく下げた。
「あなたのお母さんを殺してしまいました!」
「あ、いえ。全く怒ってないんで大丈夫です」
ヒナの言葉を聞いてセシリアは顔を上げた。
「え?そうなん?」
「マジだよ。ヒナくんは怒っていない」
「なんだ安心、、、。いや安心なのか?その子の家庭環境がよくわからんのだが」
「魔王が死んだ後、村で育てられていたらしいんだけど村が滅びちゃってさ。だから逃げてここに来てしまったらしい。今これからどこに行けばいいか話し合っているところ」
「なるほど。じゃあ君の家に住ませてあげれば?それで解決じゃん」
確かにセシリアのようにそう考えるのが普通である。だが、ヒカゲの家は崩壊したのだ。
「いえ、ヒカゲさんに迷惑をかけたくはないですし、私はここじゃない場所に一人で住みます。それにいずれにせよここにいるのは無理ですし」
「無理?無理って何?」
セシリアは首を傾げた。
「命を狙われている」
ヒカゲはそう答えた。
「は?この子が?」
「ヒナくんが言うには村を滅ぼされたのは自分を探しているかららしく、それに今日も俺の家にヒナくんを探しに元冒険者が攻めてきた」
「そいつらどうした」
「殺した」
「おぅ、、、」
さらっと始末済みの発言をしたヒカゲに若干セシリアは引いた。
そしてセシリアは腕を組んで考え始めた。
「うーん、、、。ヒナちゃんだっけ?早いとこ君はこの国を出た方がいいよ」
「え?」
「だって元冒険者はヒカゲちゃんの家を攻めてきたんでしょ?冒険者の情報伝達力は結構異常でね、俺は知ってるんだよあいつらヤバいって。あそこにはどんな魔物がいるとか洞窟のマップはこんなんだとか、あそこでは誰がどのように死んだとか、仲間同士で情報共有をして生きてきたようなもんなんだ。多分もうこの街でチンピラとなった冒険者達は君のことをほとんど知っていると思うんだ」
セシリアはそう予想した。
「今こうしている間に君は狙われているかもしれない。ヒカゲちゃん、この子を連れて旅に出なよ」
「俺が!?」
ヒカゲは突然セシリアにそんなことを言われたので思わず驚いた。
「安全な場所を見つけてあげるんだ、絶対に誰もヒナちゃんを傷つけないような場所」
「それはダメですよ!迷惑はかけたくないです!それにどこに行けばいいかも分かっていませんし、、、」
「魔王城」
「え?」
「魔王城ならどうだろう」
セシリアはそう提案した。
「あそこなら誰も近づかない。今のチンピラまがいの元冒険者達じゃ魔王城周りの魔物は倒せなさそうだし、いままで魔王城に入れたのは俺らだけだ。畏怖殺しの斥候であるヒカゲちゃんがいたから城の中のトラップとかは怖くなかったけど他のやつは無理だろう」
「お前が連れてってあげなよ。俺より強いでしょ?」
「あー、無理無理!俺、魔王と戦って以来体やばくてさ!すっかり弱くなっちゃった。それに仕事があるから無理だね」
思いっきり拒否するようにセシリアは手を横に振った。
「、、、よし!行こう!」
ヒカゲは決心した。
「はあ!?何言っているんですか!ダメですよ!」
「いや、君を一人では行かせられない。それに俺は暇人だ、ちょっとスリルがあっていいじゃないか」
いうほど嘘でもないので特に強がったり気を使ったり、無理に動こうとしているわけではないのでヒカゲにとってはその決断は苦しいものではなかった。
「いやでも、、、」
「まあまあ!ヒカゲちゃんもいいって言ってるんだから!」
セシリアはヒナの言葉を遮った。
「よし!じゃあヒカゲちゃんはどうやっていくかは分かる?一回行ったから覚えているとは思うけど」
「いや、忘れた」
「はあ!?まったく、、、」
セシリアが指を鳴らすとヒカゲの前に何回かに折られた紙が現れた。
「え!?もしかしてヒカゲさんと同じ能力、、、」
「同じ能力?もしかしてヒカゲちゃんのキリングオールのこと?違うよ、収納魔法だよ。ヒカゲちゃんとは根本的に違う」
「そうなんですか、、、」
収納魔法とやらをみるのはヒナにとって初めてのことである。今まで自分もいくつか基礎魔法は使えるが。
「これは?」
ヒカゲは自分の前に置かれた紙を指先でトントンと叩いた。
「それは魔王城へのマップね、ここのお代は払っておくよ。今すぐにこの国を出るんだ」
「ありがとう。何から何まで」
「おうよ、親友のためなら当たり前よ」
席から立ち上がったヒカゲにセシリアはにっこりと微笑んだ。
「ヒナちゃん!頑張ってね!」
「はい!ありがとうございます!」
ヒナは感謝を込めて頭を下げた。
「ヒカゲちゃん」
「ん?」
「死ぬなよ」
さっきとは違った表情でセシリアはヒカゲに言った。
「この世界はビビったら死ぬ。畏怖殺しの斥候が死ぬと思うか?」
「だよね」
聞くこと自体野暮であったようだ。セシリアはそう思いながら水を飲んだ。
「じゃあな、また会おう」
ヒカゲはそう言ってヒナを連れて店を出て行った。
「いいなぁ!俺もヒカゲちゃんと冒険したかったなぁ〜!!」
出て行った二人を見てセシリアはため息をついた。
元冒険者の日陰者は禍なんか怖くない!! 相原羽実 @gotaw
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