第12話 目覚め
悪魔は修の変化に戸惑いを隠せず、一歩後ずさる。
「何だ……お前……。」
修は拳に魔力を込め、悪魔をまっすぐ見据える。
「行くぞ。」
次の瞬間、修は悪魔との距離を詰めた。
悪魔の反応は早かった。鋭い爪が空を裂き、修の肩口を狙う。
「単調だな。」
修は悪魔の動きを見切り、流れるように身をひねって爪を紙一重でかわす。そのまま魔力をこめた拳を鋭く突き出し、悪魔の腹部に深く叩き込んだ。拳が沈み込む確かな感触、魔力の衝撃が悪魔の体内で炸裂する。
「ぐっ……!」
悪魔は反射的に飛び退くが、修の拳の余波で体が大きく揺れる。地面を滑りながら何とか立て直すが、その表情には明らかな動揺が浮かんでいた。
「どうした?さっきまでの威勢は。」
修は軽く拳を振り、残った魔力の余韻を確かめるように笑みを浮かべた。
「ぐっ……!」
悪魔は後方に吹き飛ばされる。地面に滑りながら立て直すが、その顔には明らかな動揺が浮かんでいた。
「何だ……こいつ……。」
悪魔は信じられないものを見るような目で修を睨む。だが、修はその視線すら意に介さず、ゆっくりと構え直す。
もっとだ!僕はもっとできる!
拳にさらに魔力が集中する。体温が上がり、修の周囲に赤い光が揺らめき始める。悪魔は直感的に理解した。
「こいつ……止めないとまずい!」
悪魔は距離を取って魔法の猛攻を仕掛ける。魔法が次々と放たれる。しかし、そのすべてが修には届かなかった。修は滑らかな動きで攻撃を避け、最短距離で接近してくる。
修の拳が悪魔の顎を跳ね上げ、強烈な衝撃が走る。悪魔はそのままよろめき、膝をつく。
「馬鹿な……こんなはずじゃ……。」
悪魔の顔には焦りが滲み出る。だが、修の拳は止まらない。その一撃一撃の増していく威力に、悪魔は次第に追い詰められていった。
「待て……!俺の負けだ。ゲームは終わりだ!」
悪魔が怯えた声を漏らしたが、修は迷うことなく拳を振り下ろした。その拳には、これまでの戦いで積み上げた経験、そして確かな成長が宿っていた。
「そんな約束した覚えはない。」
拳が悪魔の胸を貫き、激しい衝撃とともに魔力が爆ぜる。悪魔は苦痛に顔を歪め、体が霧となって崩れ落ちていく。
「グアァァァァッ!!」
悪魔の悲鳴が周囲に響き渡り、最後にはかすれた声とともに完全に消滅し、その場には紫色の核が残った。
修は拳を握り締めたまま、ゆっくりと深呼吸をする。
高ぶる感覚をなんとか維持しようとしたが、悪魔を倒したことで張り詰めていた緊張が一気に解ける。
その瞬間、膝から力が抜けてその場に崩れ落ちた。
「くそ……まだ力を……自分のものにしてない……のに。」
視界がぼやけ、意識が遠のいていく。
それでも、その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。
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周囲のほとんど低位悪魔をかたずけ終わり、思ったより迅速なシールドの救援を確認すると、避難民がいることを伝え、祈と修に皆を避難させているところに誘導した。白翔は修の姿が見当たらないことに気付き、わずかに焦りの表情を浮かべる。
「修は?」
「それが、大変で向こうの方に連れ去られた少年を追っていったの。」
祈も修のことで焦っていたが、目の前で苦しむ負傷者の治癒を優先せざるを得なかった。白翔は修が向かった方角を確認し、すぐに駆け出した。
昨日マナレギュレーターの存在を知ったばかりのB級魔導士が、武器なしで実戦って……。
最悪の考えが脳裏をよぎるたび、不安が襲ってくる。ゲートの方角からは、激しい戦闘音が響き渡っていた。
急いで加勢しようとした白翔だったが、視界に飛び込んできた光景に足が止まった。
体のあちこちが傷だらけでぼろぼろの修が、素手で中位悪魔を圧倒している。拳を振るうたびに、悪魔の体が弾き飛ばされ、修の動きには迷いがなかった。むしろどんどん洗礼されていった。
「何や……あの身体強化の精度は……。」
白翔は遠目から修の戦いぶりを観察していた。自らも全魔法陣に対して高い親和性を持つ魔導士だが、あのレベルの力をマナレギュレーターで引き出すことはできない。
「まるで魔力そのものを拳に流し込んでいるようや……。」
悪魔は徐々に動きが鈍くなり、命乞いをするも、ついには修の一撃で霧散する。修が止めを刺した瞬間、ゲートがゆっくりと閉じ始め、辺りには静寂が戻り始めた。
「修!」
我に戻った白翔が駆け寄ると、修はその場に崩れ落ちるように気絶した。
「よかった...意識が飛んでるだけか。」
白翔は安堵の表情を浮かべるが、その視線は悪魔の霧散した後に残された核へ移った。この核の大きさは中位悪魔。遠くからでも見たものに間違いはなかった、シールドの隊員も1人で対抗するのに難しい相手だ。昨日魔法を使えるようになった人が到底戦える相手じゃない。
「一体どうやって?」
修の体をそっと抱え起こし、白翔は少年を探す。すぐそばで倒れている年を見つけた。少年を保護しつつ、中位悪魔の核を回収する。白翔は、気を失った修と少年を背負い、シールドの元へと急いだ。
祈は修の傷の深さに顔を曇らせながら、すぐに治癒魔法を施した。修の体から一瞬で傷跡府がきれいに消え、安らかな寝息を立て始めると、祈はようやく安堵の表情を見せた。
「まったく、無茶しすぎだよ……。一体何があったの?」
白翔はシールドの隊員に囲まれながら、先ほどの光景を淡々と語っていた。祈はその話にじっと耳を傾けていたが、途中で驚きを隠せずに口を挟んだ。
「身体強化だけで……?」
祈の表情には、明らかに「ありえない」と書かれている。魔力を纏う装備も、特別な武器も使わず、ただの身体強化魔法で中位悪魔を倒したというのだから無理もない。
ゲートが完全に閉じたことを確認したことを報告し、証拠として回収した中位悪魔の核をシールド隊員に手渡した。
「これ、証拠として渡しておきます。」
核を受け取った隊員は、思わず息を呑んだ。
「……これを……あの子がやったんですか?」
核から伝わる魔力の強さを感じた瞬間、隊員の目が大きく見開かれる。驚きと疑念が入り混じったその視線が、修の顔をまじまじと見つめる。
「嘘だろ……アカデミーの学生だって?」
白翔は軽く頷き、さらりと答える。
「はい。でも特進クラスの生徒です。」
その言葉を聞くと、隊員たちは一瞬納得したように頷いたが、それでも驚きは隠せないようだった。
「特進クラスか……。噂には聞いていたが、ここまでやるとは。」
「現役のシールド隊員以上だな。」
周囲の隊員たちは口々に感嘆の声を漏らしたが、その中で隊長らしき人物が一歩前に出て、真剣な表情で口を開いた。
「アカデミーの学生がこのような現場で勝手に救助活動や戦闘を行うことは極めて危険な行為で、本来あってはならない。君たちを危険に巻き込まないように、私たちがいるんだ。……それを忘れないでくれ。」
「……はい。」
「すいませんでした。」
白翔と祈りは素直に頷いたが、その声には少しの後悔が滲んでいた。修があそこまで一人で戦うことになったのは、自分の力不足のせいでもある。
「注意は必要だが、感謝もせねばならないな。皆を助けてくれてありがとう。」
隊員の言葉に、白翔はわずかに表情を緩めた。
「今の状況を救えるのは、自分たちしかいないと感じました。でも、友人を巻き込んでしまったことには、私たちも少し思うところがあります。今後はこのようなこと少し控えようと思います。」
祈は修を戦いの場に連れ出した責任を感じているよう反省を見せた。
「……ごめんね、修。」
あたりはすっかり暗くなり、夜風が肌寒く感じる。修は安らかな寝顔で静かに眠っていたが、他の2人の表情にはどこか不安感が漂っていた。2人は特進クラスへ進んだ特別感に、どこか自分が強くなったと錯覚していたことを身にしみて感じ。より一層危機感を強めたのだった。
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