第13話 気づき
シールドの基地と学園に隣接している病院で、柔らかな朝の光がカーテン越しに差し込む中、修はゆっくりと目を覚ました。天井の白さが目に映り、自分が無事であることに気づくと、大きく息を吐いた。
最近よく病院で目覚める気がする。
視線を横に移すと、窓際に置かれた花瓶の花が揺れていた。風もないのにわずかに花が揺れていることに気づくと、修は自分の手に残る魔力の余韻を思い出した。拳を握ると、わずかに指先が熱を帯びる感覚がある。
あの戦いの記憶が鮮明に蘇る。悪魔の攻撃をギリギリでかわし、魔力を拳に集中させて放った一撃──確かに自分の中で何かが弾けた瞬間だった。魔力が流れ、悪魔にダメージを与えたときのあの感触は、まだ肌に焼き付いている。
「魔力を自由に制御する感覚……。」
修は呟きながら目を閉じ、あの瞬間を反芻した。拳を振るうごとに魔力が流れ込み、それが自分の意志とシンクロしていた。まるで自分の身体と魔力が一体化するような感覚──。それは訓練場では得られない、戦場でしか掴めないものだった。
しかし、胸の奥から込み上げてくるのは恐怖ではなかった。むしろ、もう一度あの状況に身を投じたいという渇望だった。死と隣り合わせの緊張感。あの一瞬一瞬が、自分を研ぎ澄まし、高みに引き上げてくれる気がした。
修はシーツの上に置いた自分の拳を見つめる。あの感覚を再び味わいたい。ギリギリの戦いが、自分を成長させてくれる。勝つか負けるか──その境界線に立つことこそが、自分を進化させる最高のツールなのだと確信する。
限界を超える感覚──あれがたまらない。自分がどこまでやれるのか、どれほど強くなれるのか。試してみたくなる。訓練場の枠の中では決して味わえない、生死の狭間。そこにこそ、自分が求める『本当の強さ』が眠っている。
もっと自分の能力を何段階も進化させたい。
その思いが、静かに心を満たしていく。訓練だけでは限界がある。限界を打ち破るには、実戦という舞台が必要だ。
修はそんな自分の考えを冷静に見つめ直した。戦いに身を置くことは自分を高める手段だが、それだけでは危険すぎる。安定して力を出し切るには、技術を磨き、魔力を意識的に制御する訓練が必要だった。
修は天井を見上げ、拳を開いた。ゆっくりと魔力を指先に流し込む。光がわずかに灯り、指先で揺れる。
強くなることは自由を手に入れることに繋がる。その思いは変わらない、だが理想にはまだ遠い。まだまだ鍛錬を重ねる必要があると感じていた。
そして──心の中で静かに誓う。
もっと先へ行く。
しばらくして病室の扉が静かに開き、白翔と祈が顔をのぞかせる。祈は気まずそうに頭をかき、白翔はベッド脇に椅子を引き寄せながら、申し訳なさそうに口を開いた。
「悪かったな、修。あんな危険な場所に連れて行ってしまって……。俺たち、認識が甘かった。もう少し慎重に動けばよかった。」
「私も……。完全に油断していたわ。ごめんね。」
祈はうつむいていた。その表情には、自分がもっと気を配れていればと後悔する気持ちがにじんでいた。
修は苦笑しながら手を振った。
「いや、お互い様だよ。僕も慢心してた。まさかあんな状況になるとは思わなかったし。」
二人はすごく申し訳なさそうにしていたが当の本人は全く気にしていなかったどころが、成長できたことに感謝したいぐらいだった。あの戦いの記憶が、今も頭に鮮明に残っている。拳に直接流し込んだ魔力の感触、体を駆け巡る興奮──しかし、それは紙一重の危険と隣り合わせだった。
白翔は安心したように息をつき、祈も小さく微笑む。しかし、二人の目にはまだ心配の色が残っていた。
「でもさ、どうやってあの中位悪魔を倒したんだ?」
白翔が興味津々で身を乗り出し、修の顔を覗き込んだ。白翔の表情には、修がどうやってあの窮地を乗り越えたのか理解できないといった驚きがはっきりと表れていた。
修は少しだけ目を伏せ、ためらいがちに答えた。
「実は……自分で魔力を直接制御して戦ったんだ。」
「は?」
白翔と祈の目が丸くなる。
「いやいや、それ普通できんやろ。マナレギュレーターなしで魔力を制御とか……正気か?」
白翔が呆れたように眉をひそめる。祈も驚きを隠せず、修の顔をまじまじと見つめた。
「それって……初めの頃に噂程度に話題にはなっていたけど、それ都市伝説じゃなかったんだ。やってみたことあるけど何も感じなかったよ……戦えるレベルにまで使いこなせている人なんていたんだ!」
祈の声には純粋な驚きと興味が混ざっていた。
「使いこなせているかは分からないけど、事実僕は今まで魔力を鍛える訓練を毎日欠かさずに行ってきたよ。」
修はそう言いながら、手のひらを見つめた。
「それってどうやって訓練してきたの?」
祈が興味を引かれたように身を乗り出し、目を輝かせる。修は少し照れくさそうに肩をすくめた。
「特別なことはしていないよ。呼吸と体の動きに集中して、魔力が流れる感覚を意識してゆっくり体全体に巡らすだけ。そうすると身体能力が向上するよ。」
「なるほど……魔力の流れを自分で感じて循環させるってことね。確かに今までにない発想だわ。」
祈は感心しつつも、その訓練法のシンプルさに驚いた様子だった。
「なるほど、それであの戦闘が可能やったんか。でも、それってマナレギュレーターの存在意義を完全に否定してるよな……。」
白翔は腕を組み、何か考え込むように視線を落とした。先日の戦いを思い出し、自分が目にした光景を整理するようにゆっくりと頷く。
「それって俺たちにもできるもんなんか? 自分で直接制御する感覚を覚えれば、マナレギュレーター以上の効果が得られるんやったら、やらない理由はないよな。」
「できると思うよ。時間はかかるかもしれないけど……。実際に自分で自由に扱えるようになるまで長い時間の訓練が必要だった。」
修の声には、確かな自信が宿っていた。
「だったらさ、俺らもマナレギュレーターの使い方と自分の魔力制御、両方を磨くのがいいかもな。」
白翔が提案し、祈も静かに頷く。
「私たちも成長しないといけないと分かったし、やってみた方が良いね。新しい可能性が広がるかもしれない。」
「一緒に両方のメリットを十分に使う方法を考えていこう。」
戦いの中で掴んだ新しい力は、まるで扉の鍵を手にしたような感覚だった。これからは今までよりもっと速く、遠くまで進める気がする。自分を高めるための無限の可能性が広がっている──そんな期待に胸が高鳴った。
修は拳を軽く握り、ウキウキとした気持ちを隠しきれずに微笑む。自分でも驚くほどの前向きなエネルギーが体に満ちていくのを感じながら、二人を見送り、退院の準備を始めた。
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