第4話 どうしようもないクズ
明らかに場違いだった。
「なにしに来たんだよ。どういうつもりだ?」
同級生と思わしき男が、表情を硬くしながらこちらに近寄る。
「どうって……」
周りを見渡す。皆、険しい目でこちらを睨んでいる。
手隠岐さんの言う通り、同窓会はあった。だが、俺は招かれざる客だった。
「頼む、少しの間でいい。話をさせてくれないか」
ここで引き下がるわけにはいかない。俺は俺を知る必要がある。
「なんの話をだ?」
「小学校の時の話だ。もうずいぶん昔のことだから、あんまり鮮明に覚えてないんだ。だから―――」
ピシャンッ
唐突にコップの中の液体をかけられる。
「これで、思い出しただろ。出ていけ」
ああ、そうか。
「……すまなかった」
酒をかけられた体で、その場を後にする。
そうだ。本当に、思い出した。
俺が『どうしようもないクズ』だってことを。
――――――
時間は巻き戻り、ラブホテルから再び始まる。
「どうだった?」
瑠璃が訪ねる。
「……ああ、思い出したよ」
「ほんとに!?」
そう言うと、彼女は興味津々で食いつく。
「俺は、クズだ」
素直に口にする。
「え、どういうこと?」
瑠璃が尋ねる。
俺は自分が小学生のときの話をする。
「……小学生のころ、いじめっ子だったんだ、俺は。ほんの些細な理由から、それは始まった。いじめはエスカレートしていって、ある日、その対象だった人は怪我をし、転校することになった」
「……」
「それからいじめの対象は俺になった。中学に上がっても大半の人は小学生からの顔見知りだ。俺は誰からも相手にされなくなった。自業自得だよ。俺がいじめをしていなければ、その人は傷つくことはなかった。俺がいじめられることもなかった」
「….…」
「いじめの加害者という罪を背負いながら生きてきた俺の人生は、何もかもうまくいかなかった」
「うん……」
瑠璃は相槌をうちながら、話を聞いてくれる。
「そのぐらい最悪なことをしたんだ。だから――」
「俺は、生きてちゃいけない人間なんだよ」
その言葉を口にしたとき、なぜか頬に一筋の涙がこぼれた。
「ああ、そうだよ。俺には生きる価値がない。命の価値がない」
それは自分を哀れに思ったからではなかった。ただ、涙は止まらなかった。
「なんで忘れてたんだろう。なんで俺は死ななかったんだろう。なんで、俺は今までのうのうと生きてきたんだろう」
嗚咽混じりの声だった。情けなかった。全部自分のせいなのに。
「俺はっ……俺――」
「うん、分かったよ」
突然、身体が温かく包み込まれる。それは、瑠璃の体温だった。
「あなたは、生きてる。取り返しのつかない最悪なことをしたとしても、生きてる。なら、もう生きることしかできない。一生後悔しながら、一生苦しみながら」
記憶を失くしているのに、互いに知らない相手なのに。彼女は飛日のために、言葉を与えた。
瑠璃は言葉を溜めて、言う。
「一生、あなたは生きてなきゃ」
時間がループするラブホテルに泊まってしまった話 シンタクヤ @shintakuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。時間がループするラブホテルに泊まってしまった話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます