第3話 「俺のこと、教えてくれませんか?」

「俺のこと、教えてくれませんか?」


「……え?」


目の前の女性に、そう大胆に訪ねる。


「いや……急に意味わかんないでしょ……」


瑠璃がツッコむ。見知ってる人間とはいえ、急に自分のことを教えてくれとか言われたら、戸惑うのも当たり前だろう。

ここは、俺が寝過ごした公園だ。前に会っていた俺を見知っているらしき女性がいる可能性が高いと踏んで、この周囲に目星をつけ、探し回ったのだ。


「いや、すみません急に。教えるも何も、俺のことそんなに知らないかもしれないですね。知ってることだけでいいから少しでも教えてくれませんか?実は……、えと……自分探しっていうか……そんな感じのことしてて……えー……」


我ながら苦しすぎる……。こんな怪しい奴になにも言うことなんか―――


「うーん、なんか良くわかんないけど。いいよ」


「え、まじですか!ありがとうございます!」


世の中捨てたもんじゃないな。こんなよく分からない相手にも親切にしてくれる良い人もいるんだ。



「だって、私あなたの元カノだし」



「「……は?」」


そんな彼女の衝撃的な告白に、俺と瑠璃は盛大にハモった。



―――――



「……記憶喪失?」


「ああ、そんな感じの状態というか……なんというか……」


俺の今の状況は、記憶喪失、なぜかラブホテルに巻き戻される、という意味の分からないことになっている。ので、幾分か現実的な、記憶喪失であるということだけを彼女に伝える。


「へー、ドラマでしか見たことないよーそんなの」


彼女の反応からみて、記憶喪失であること事態は信じてくれていそうだが、見た感じは落ち着いたものだった。話が早くて助かるが、その適応力に驚かされる。


「じゃあ、改めて自己紹介しないとだね」


そういうと彼女は、ベンチに座りながら、こちらに向き直る。


「手隠岐 美羽(ておき みう)です。あなたの元彼女です。よろしくお願いします」


ぺこり、と頭を下げる手隠岐さん。


「よ、よろしくお願いします」


手隠岐さんの見た目は、茶髪のショートヘア。上は黒色のタートルネック。下はジーンズ。ピアスも開けている。こちらよりも大人びた雰囲気を纏っており、大人の女性としての魅力が溢れていた。そんな人と付き合っていた事実を知った今、返答がドギマギになってしまう。端的に言うと、めちゃくちゃ照れている。


「ふーん……よろしくお願いします」


瑠璃はというと、さっきからなぜか機嫌が悪い。俺に彼女がいることがそれほど不相応なのだろうか……。まあ、“元”彼女だけども。


「でも、実は私も飛日くんのことあんまり知らないかも。3日しか付き合ってないし」


「え……?」


またもや衝撃的な言葉が発せられ、ベンチから滑り落ちそうになる。やっぱり俺ごときには不相応な相手だったらしい。……悲しいな。


「まあ、自然消滅というか……あんまり、お互いにカップルみたいなことが上手くできなくて、みたいな感じで」


ええ……バカか俺は。こんな可愛い人と付き合えたというのに、上手くやれずに自然消滅なんて……。


「でも、今なら上手くいくかも。もっかい付き合っちゃう?」


「はあああああああっ!?!?」


「ど、どうしたの瑠璃さん」


瑠璃が突然大声をあげる。そんなに俺みたいなやつに彼女ができたらおかしいのだろうか……。


「おー、びっくりした。その子は……今の彼女さん?」


「はあああああああっ!?!?」


いや、どんだけ叫ぶんだよ瑠璃さん。そんなに嫌か。そうだよな。

瑠璃はぷいっとそっぽを向き、これ以上喋る必要はないとでもいうような態度だ。悲しい。


「でも、それだったら飛日くんも同窓会行っとけばよかったかもね」


手隠岐さんは話を、記憶喪失の件に戻してくれる。


「同窓会?」


「うん。さっきまでやってたんだけどね。小学校のやつ」


小学校のやつとは……すごい懐かしい面子が揃ってるんだろう。記憶にはないが。中には俺との付き合いが長い奴もいるかもしれない。いないとしても、なにかがきっかけで記憶が戻る可能性もある。というか、


「え、俺と手隠岐さんが付き合ってたのって……」


「ん?小学生のころだよ?」


それ、もはや付き合ってたって言わないのでは……。

でも、同窓会か。今の時刻は、午後9時37分。


「その同窓会って、何時にどこでありました?」


「えーとね、午後7時くらいからかな。ここからすぐそこの、『天和』っていう居酒屋でやってたよ」


「ありがとうございます。助かりました」


居酒屋『天和』。午後7時からか……。よし。


「ありがとうございました。瑠璃さん行こう」


「待って」


立ち去ろうとした俺たちを、手隠岐さんは呼び止める。


「連絡先、交換しとこうよ」


そういうと半ば強引に、電話番号とLIMEを共有させられる。


「また私たち付き合うかもしれないし……ね?」


そうニコッと微笑む彼女に俺はドキッとさせられる。

ちなみに、瑠璃はなぜか終始不機嫌だった。


ここにきて、有益な情報を得ることができた。

次に取る行動は、同窓会への参加だ。



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