8. おまけ

『王子と姫の恋物語』

 アイゲン王子とネリタヴィア姫は、友人だった。隣国同士の交流は深く、互いに助け合って大国からの脅威に備えていた。


 そんなある日。流浪のヴァンパイアが流れ着いた。ヴァンバイアは王子に近づき――牙を立てた。

 ヴァンパイアになってしまった王子は猛る衝動に抗えず、街の人々の血を吸っていく。

 そんな時に訪れてしまった姫。心優しい姫は、狂ってしまった友人を見ていられなかった。自身の生命力を削るほどの氷魔法で、王子を閉じ込める。そして力尽き、まるで王子に寄り添うように息を引き取った。


 長い年月を経て、王子を閉じ込めていた氷が溶ける。傍らには、見覚えのある服を着た骸骨。すぐに友人だとわかった王子は、姫を抱きしめ泣き叫ぶ。失ってから初めて、姫を好きだったと気づいたのだ。

 慟哭する王子の前に、何百もの人々が集結する。そして左手を心臓に置いて言う。

「心臓は、主と共に」

 王子がその意味を問えば、いつでも王子のために命を投げ出す覚悟を示すのだと言う。


 二人きりにさせてほしいと伝えた王子は姫を横たえて、自分の左手を心臓の上に置く。

「もしまた会えたら、今度は絶対に死なせない。心臓は、ネリタヴィアと共に」

 王子が、姫の隣に並ぶ。そして姫と手を繋ぎながら目を閉じる。

 二人の上に、ヒラヒラと雪片が舞い始めた。その雪はどんどん積もり、二人を隠していく。

 いつか。いつの日にか。今度は、二人で一緒に。

 きらり、と、一筋の涙が雪に染みこんでいく。

 王子はたった一つの願いを込めて、雪の中で眠りについた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

六角形の箱庭 いとう縁凛 @15daifuku963

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画