6. 心臓は主と共に
ネリーの手を引くアイゲンは、まるで城内を知っているかのように歩く。目覚めて血が活性化しているかのように早足になっているアイゲンに追いつけず、ネリーが転びそうになったとき。
ふわりと、抱き上げられた。
「きゃっ」
「ごめんね、ネリー。ぼくの首に手を回して」
アイゲンの指示通りに動く。すると体勢が落ち着き、少し冷静になれた。
(っ、ち、近いわ!?)
人間離れした美貌が、すぐ目の前にある。思わず離れようとしたが、逆に強固な抱かれ方になってしまった。
「ネリー。危ないから暴れないで。もう少しで着くから」
「そういえば、どこに向かって……」
城内地図を頭に思い浮かべ、現在地を知る。城下の街へ繋がる、扉の前だ。
アイゲンに下ろされる。そして、アイゲンが扉を開けた。
その、瞬間。
「「「心臓は、主と共に!!」」」
心臓を左手に置く動作とともに、大合唱が聞こえた。
その迫力にネリーが驚いていると、アイゲンがネリーの肩に手を置く。
「当代の守護者だ。丁重に扱うように」
「「「はい! 心臓は主と共に!」」」
この場にいる、ネリーとアイゲン以外の全員が合唱する。どうやら何かの挨拶のようだ。数百、いや、数千はいるかもしれない。黒髪と赤い瞳の人々が合唱するものだから、その度にビリビリと空気が震える。
肩に置かれていたアイゲンの手が、ぽんぽんと動く。ネリーは、アイゲンを見た。
「ほら、ネリー。同胞達に挨拶してあげて」
促されるが、ネリーには何がなんだかわからない。しかし最前列の面々に目を向けると、何かを期待するような顔をしていた。
「えぇと……ご紹介にあずかりました? 守護者のネリーです。よろしくお願いします?」
「「「よろしくお願いします、ネリー様!!」」」
また大合唱だ。
自分の名前を敬われたのは初めてだ。三家の子供は誰かが領主の子供になるとはいえ、ネリーが領主の娘になったのは十五歳の頃。守護者として六角形の箱庭に入ってからは、リジーとヤネスしか交流がなかった。
「どうやら、あの二人が発見されたらしい」
ネリーがリジーとヤネスのことを考えていたとき、中庭の方から悲鳴が聞こえた。ネリーに昼食を運んだまま戻らない二人を心配して捜していたのだろう。城内が慌ただしくなった。
「ネリー。さあ、行こうか」
「行くって、どこに?」
「ネリーが、本来いるべき場所に」
「それって、きゃぁっ」
また抱き上げられ、慌ててアイゲンの首に手を回す。
アイゲンがネリーを連れて行ったのは、六花城内の最も権威のある場所。謁見の間だった。
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