5. ヴァンパイアの力

 わくわくしているような顔をされ、ネリーは思わず目をそらす。

 ネリーの反応を見て、アイゲンはしょんぼりと肩を落とした。まるで大型犬を苛めているような気がしたネリーは、慌てて伝える。

「ご、ごめんなさい。わたしも、あなたの名前は知らなかったの」

「でも、反応していた」

「そ、それは……。そ、その、あなたの名前が、わたしが好きな物語の登場人物と同じだったから……」

「ネリーが好きな物語?」

「そう。『王子と姫の恋物語』というのだけど……王子様がアイゲンで、お姫様がネリタヴィアと言うの。わたしの名前と似ていて、つい感情移入しちゃって」

 新刊が出る度に買ってきてもらっていた。つい熱が入って語ってしまったが、アイゲンが愛おしそうにネリーを見ている。

「その……あなたも、子供っぽいって思うかしら」

「いや。そんなこと、思うわけない」

「それなら……なぜ、そんな目をしているの?」

「ネリーが、可愛いなって思って」

「なっ……か、からかわないでっ」

「からかってなんていない。そうだ、ちょっと待って」

 アイゲンが上空に手を上げ、目を閉じる。ネリーにはアイゲンが何をしているのかわからなかったが、「なるほどね」「ふむふむ」等々、まるで誰かと話しているように相槌を打つ。

 そして何かが終わったようで、突然アイゲンがネリーの手を持ってひざまずく。そして、左手を心臓の上に置いた。

「心臓は、ネリーと共に」

「え? えっと……?」

「あれ? 響かない? おかしいな。これが最新らしいんだけど」

 先程の、誰かとのの影響だろうか。アイゲンの口調が柔らかく、まるで物語の中のアイゲン王子のようになっている。

「えっと、あなたが何をしたいのかわからないのだけど」

「ネリーが好きな物語になぞらえてみたんだけど。最新話まで読んでいるんだよね?」

「いえ。守護者として務めるようになってからは、本を読めていないの。だからわたしは、一年以上前の内容までしか知らないわ」

「そっかあ……。ん、まあ、この言葉の意味はこれから知ってもらえると嬉しいかな」

「これから……?」

「まずは、ネリーのことだね」

 そう言うと、アイゲンはネリーの手を引いて中庭から出ようとする。

「ちょ、ちょっと待って! わたしは守護者なの。この中庭からは出られないわ!」

「それなら問題ないよ。ぼくが目覚めたから」

「え……? それって、どういう……??」

 言葉の意味を理解できないまま、ネリーはアイゲンに連れられて中庭を出た。

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