3. 出会う


 自分に陰がかかったように感じ、ネリーは慌てて目を開けた。青氷柱を確認する。四本半が溶けていた。うっかり眠ってしまってから、四時間半も経っている。

 早く雪を降らせねば、と思う。しかしすぐに、天井なんてない中庭でなぜ陰るのかと疑問に思った。

 ネリーに陰を作っていた原因に目を向ける。

「っ!?」

「眠る顔も美しかったが、そなたは驚く顔も愛らしいな」

「だ、誰なの!?」

 ガタガタと慌てて立ち上がり、うっかり背もたれに手を置いてしまった。そのせいで椅子が壊れ、ネリーが転んでしまいそうになった、そのとき。

 ふわりと、優しく腰を持たれた。

「そそっかしいな、そなたは」

 体勢を整えられたネリーは、突然現れた美青年を見る。

 美青年は、例え深夜でもすぐに見つけられそうな漆黒の長い髪を背後へ流す。情熱を持っているかのような炎赤えんせきの瞳からは、目をそらせない。

 そんな魅惑的な瞳に見つめられると、異性に耐性のないネリーはすぐに顔を真っ赤に染める。

「これは、美味しそうな林檎だ。ぼくが食べちゃってもいいかい?」

「へっ!? 食べ!?」

 炎赤の瞳に見つめられたまま、美青年の形の綺麗な唇が近づいてくる。まるで本当に食べるかのように、美青年が口を開けた。

(け、犬歯!?)

 美青年にそぐわないような、逆にしっくり来るような犬歯が生えている。

 まるで獣のように尖る犬歯を見て、本当に食べられると思ったネリーは、全力で美青年を突き飛ばした。

「あっ、ご、ごめんなさい」

 尻餅をついてしまった美青年を見てすぐに我に返り、慌てて手を差し出す。立ち上がらせる準備をしていたネリーは、逆に手を引かれて美青年の胸へ飛びこんでしまう。

「ご、ごめんなさい。すぐにどきま、す!?」

「はあー。この抱き心地。生身の子女なんていつぶりだろうか」

 ぎゅうっと強く抱きしめられる。異性に抱きしめられるなんて、もちろん初めてだ。対処の仕方がわからない。

「あ、あああのっ!」

「そいういえば、そなたの名を聞いていなかった」

「わ、わたしは、ネリー・ヴァイサーです」

「そうか、ヴァイサー……。まだ残っていたのだな」

「残って……?」

 美青年の言葉に疑問を持ったが、リジーとヤネスの声が聞こえてきた。青氷柱を確認すると、もうほとんど残っていない。

「あの、申し訳ないのですが、一度小屋の中へ行ってもらえませんか」

「なぜだ?」

「それは……」

 リジーに見られるとやっかいなことが起きると、双子の感が告げている。しかし、それを上手く言い表せない。

 強引に美青年の背中を押していると、リジーとヤネスが扉を開けてしまった。

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