第13話 試練
小さくて身軽なシャーペンは、女湯の門を簡単に潜り抜けられた。
そして脱衣所を目にする…!
が、後ろを振り返って棚の奥に隠れた。
すぐそこで相棒が着替えていると思うと、緊張して見れない!
見ると罪悪感が…申し訳ないという気持ちが!
「(大丈夫、これは試練なんだ…神から与えられた試練だ。
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメなんだ!絶対に見なければならないんだ!
俺は俺の人生で一度も見た事は無い。見た事無いけど見なければならない…会った事は無いけど、会わなければならない人がいる!)」
決心した彼は棚から顔を出す。
おや、アドの姿が無い。おそらく浴場へ行ったのだろう。
決心した直後に見ないと、決心なんぞ時間経過で消えてしまう。
シャーペンが浴場へ入る頃には、すでに彼の中の決心は消えているであろう。
「(ハァ…めんど)」
しかし歩みを止めないシャーペンは、浴場の扉を開ける。
ガラッッ
アドはすでに浴槽に浸かっていたが、奥の方だ。
さすがにシャーペンが風呂場にあったら気づかれる。
誰にも見つからずに奥まで行かなくてはならない。
彼は風呂桶や壁を利用して、なんとか浴場の奥まで行けた。
だがここで一つ、肝心な事を忘れていた事に気づくシャーペン。
シャーペンなので、水の中に入ると水没してしまうではないか。
だが相手は水の中。水の中のものを見るには水の中でなくてはならない。
「(クソぉ、人間とシャーペンを切り替えられる体なら良かったのに!)」
彼は成功の目の前で立ち止まってしまった。
アドが風呂から上がる。これはチャンスなのでは⁉︎
バシャァァァァン
シャーペンはアドに突き飛ばされ、水没した。
「ゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボ…」
アドは彼がいる事に、彼が浴場へ入る前から気づいていたのだ。
じゃあなぜ声をかけなかったのか…理由は簡単、単純に恥ずかしかったからだ。
いくら覗き見されているとは言え、他にも一般人がいるのに自分だけが叫ぶのは恥ずかしい。
ただ、それだけであった。
部屋に戻った2人。
「ついてくるな、と言ったんですが?」
「はひ……」
「なんですかその声は」
呆れるアド。シャーペンは水が入って締まらない声になっている。
「とにかく、寝てる時に何かしてこないでくださいよ?
その、まだ早いですから」
「本当にすみませんアドさん」
「もう良いです、私も水没させるのは少しやりすぎた気がしますからね」
部屋の電気が消えた。
今の体の大きさにしてはデカすぎる枕の上で、シャーペンはモゾモゾしていた。
少しは反省しているらしい。
反省の仕方が独特ではあるが…アドは、なんとなく感じていた。
「わかってますよシャーペンさん、えっとその、私以外の方々はシャーペンさんに体を見られるのに慣れてないから…」
シャーペンは寝ていた。
「チッ」
グイッッ
「ギャィィィァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
◇◇◇
朝。
まさか夜、寝込みを襲うのはシャーペンではなくアドだったとは。言い方が悪いけど。
「今日はどうしましょうか、シャーペンさん」
「多分、人に聞いても無駄だろうから…ギルド的なものがあったら、そこで聞こうと思います。
さすがにギルドのお姉さんなら、話してくれるでしょう」
「なんでお姉さんだとハッキリ言えるんですか…」
「そういう決まりなんですよ、ギルドってのは。
さぁ行きますよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます