第11話 轟音

今すぐにでもケースを踏み潰して、ゴミ箱に捨ててやりたいが、今の姿では到底不可能。


そもそもこの世界では、おそらくアイテムの方が人間よりも強い。その気になれば世界を滅ぼせるだろう…あんなミサイルをバンバン撃ってこられてしまえば。


シャーペンもシャー芯をミサイルのように撃つ事ができれば…。


「(………)」


今の彼にそんな事を考えている暇は無い。彼にとって相棒とも言えるアドが目の前で色鉛筆に爆殺されてしまった。

しかも爆殺した相手はシャーペンにとって魅力的な人だったもの。


シャーペンに汗腺などあるはず無いのに、なぜか汗がかいてきた。


「あ、いた、シャーペンさん」


ゆっくりと近づく巨大な色鉛筆のケース。

カラコロと鳴り響く金属音。ギシギシと轟くタイムリミット。


自分の命が消える時が迫ってきているかのような、不思議な感覚というか…。


シャーペンは青く光る石を足元に置いた。

特に意味は無い。これはそもそも緊急用の光源であって攻撃用の魔法ではない。


シャー芯も、あんな硬そうなケースを貫くほどのものではない。刺さるとも思えない。



「じゃあ、打ち込んでいきますね…シャーペンさん」


最後に聞いたのは好きになった女性の声だが、目の前にいるのは見慣れた化け物。




「(………いや、光る石をシャー芯に刺して発射すれば、凹ます事くらいはできるかな?)」


シャーペンの体からこぼれ落ちる光る石。

その石を彼は素早くシャー芯に刺した。

そして流れるように発射!





カァァァァァァン


石は弾き飛ばされた。


でもシャーペンは石を刺したシャー芯を発射し続ける。


「なんでそんなに撃つんですか、酷い…」


アリスの声で嘆くケース。




「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァもう、腹立つゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


ついにシャーペンの心の中にあるもの全てが壊れた。


直後、ケースの体に小さな窪みが発生…。


「は?何これ……⁉︎」


困惑したケースが上を向くと、なんとシャーペンが宙を舞っていた。


彼は限界まで石を刺したシャー芯を伸ばして、ケースの体を連続で突いたのだ!


ガコガコガコと激しく金属音が火の海となった森に鳴り響く。


「(チッ、だるっ)」


ケースの体内からガタガタと色鉛筆が連射された。

全ての色鉛筆がシャーペン目掛けて猛スピードで飛ぶ!!



ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド





全ての色鉛筆が直撃し、もはやシャーペンの形など残っていない…いや、部品すら壊れずに残っているか怪しいだろう。












そんな事は無かった。


「…は?」


ケースは自分の目を疑った。なぜシャーペンは壊れるどころか傷一つついていないんだ?と。


「(なんでこんな頑丈なんだよ…このシャーペン)」


さらにケースは色鉛筆を撃ち込むが、シャーペンは壊れない。


「(これほどまで頑丈…防御魔法かな?いや、魔力は感じられない。じゃあこのシャーペンそのものが硬いのか?)」


「アリスを返せェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」



叫びながら突っ込むシャーペン。彼は同じようにケースを石の刺したシャー芯で突きまくった。



ガツンッッッ


ケースは彼を自身の体内に入れて蓋を閉めた。それでもシャーペンは突くのをやめない。


ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガ…



金属音と同時に爆発音まで、ケースの体内から聞こえてきた。






鉄の破片と鉛筆の芯が周辺に飛び散る。


凄まじい風が吹く中、横たわっていたアドが目を覚ました。

彼女はまだ生きていたのだ。


「…?……シャーペンさん⁉︎」


先ほどまで戦闘していた事を思い出し、倒れているシャーペンに必死で駆け寄る。


「大丈夫ですかシャーペンさん!さっきのアイテムは…」


かすれた声でシャーペンは、ゆっくり答える。


「あ…あ…あ、


























あいつは倒しました。俺も無事です」


「え」



「あいつに食われたので、体内で色鉛筆を爆破させて、内側から破壊したら結構すぐに倒せました」


「あ、はい…」



「そんな事より、アドさんこそ大丈夫ですか⁉︎」


「私は大丈夫です。一応シャーペンさんと出会う前から冒険をしているので、回復魔法くらいは知っていますから…」


「そりゃ良かったです…あぁ、アリス…あなたに会えないかと思うと…俺はもうダメです」


「んー……………」



火の海は消えて、黒い夜が広がっていた。


◇◇◇






朝。


昨日の激闘などを、まるで夢だったかのように清々しい朝だ。


暗闇に響く金属音は、もうどこからも聞こえない。



「さて、そろそろ出発しましょうか…アドさん」



「そうですねシャーペンさん」



2人は森を駆け抜ける。

友人と恋人候補は消え去ったものの、それでもなぜか嬉しい気分であった。

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