第5話 旅へ

1ヶ月ほど魔法の練習は続いた、雨の日も風の日も。

しばらくはアドたちと師匠の家に住む事に。


まず掌から石を出すという行為が、シャーペンを苦しめた。

シャーペンに掌という概念は無いので、どこから出すのかという疑問が思い浮かんでしまって集中できない。


「(あぁ、俺向きじゃないな…この魔法。

けどこういう雑魚そうな魔法を使って無双するのが俺の夢。耐えて耐えて耐え抜かなければ…!)」



食事の時もシャーペンは困惑していた。どうやって食器を持つのか、パンを持つのか。

シャーペン用の食器というものは存在しない。つまり彼は食器を使って食べるという固定概念を捨てる必要があった。


しかし今までの生活によるが原因で捨てられない。パンならまだしも、たまに夕飯でシチューとかスパゲッティが出てくるので、シャーペンは考えるのをやめた。


「(これは食器に顔をつけて食べるしかないわ…)」


「あの、シャーペンさん…」


アドがスプーンですくったシチューを、シャーペンの口へ運ぶ。


「え、いや、ありがとう」

↑低音イケボ


「いえいえ、シャーペンさんの体を手紙書く時に使わせていただくので…」


「そういやそうだった」


アドが好いていると思われる友人に手紙を書く際にシャーペンはよく使われた。

シャーペン自身、アドに掴まれる事は嫌いではなく、むしろ1日の楽しみであった。アドの友人への手紙を書いているという状況を除けば…。



















1ヶ月後。


「ふんっ!」


シャーペンはペン先から青く光る石を出す事に成功した。


「おぉ、よっしゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


「よくやったシャーペン。アドと一緒なら、もう旅に出ても問題無いだろう。

好きなところへ好きなだけ行ってこい」


「師匠、ありがとうございます!!」



夜は普段より豪華な食事となり、アドも喜んでいた。


「さすがですシャーペンさん!」


「ま、俺にかかれば、こんなもんチョロいよ!」



「さぁ、シャーペンの歓迎会を始めよう。

ようこそ、この世界へ…」


師匠がワインを片手にシャーペンに言う。

シャーペンは思った。


「(案外、この姿でも割とやっていけるのでは?

人間に戻るために旅に出ようとしてたけど、ずっとこの暮らしをするのも悪くない。

でも彼女らは俺が人間に戻るために、ここまでしてくれた。その期待を裏切る訳にはいかない。

俺は、絶対に人間に戻り、元の世界へ帰ってみせる…!)」


蝋燭の光に照らされながら彼は、静かに激しく決心する。




◇◇◇




夜が明けた。

小鳥の囀りが聞こえてくる。気持ち良いほどの晴天だ。


師匠が玄関に立ち、アドとシャーペンに言う。


「何かあったら戻ってきなさい。でも旅先で元の世界へ戻れそうなら、そのまま帰りなさい。

私の事は考えるな。自分の目的が目の前にあるのなら、そちらを優先しなさい。

人間に戻れるよう、頑張るんだよ…シャーペン」


「はい、こちらこそ…ありがとうございます。

俺、絶対に元の姿に戻って、元の世界へ帰ります」


「よく言った。

さて、これ以上話すと寂しくなっちゃうから、ここまでにしよう。

大丈夫、私はずっとここにいる。何かあったら戻ってくれば良い」



「「では師匠、行ってきます」」


「行ってらっしゃい」

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