第3話 師匠
目を回すシャーペン。
「大丈夫ですか?」
「はい、怪我はしてないです。この体だと出血もしないらしいので、特に手当の必要は無いかと」
「それは良かった…あ、あれが師匠の家です。
もうすぐ着きます」
アドは遥か向こうの山の上にある家を指差した。
シャーペンは絶望する。
「(もうすぐ…?)」
よく考えてみれば、異世界にバスや電車があるとは思えない。
どこへ行くにも人の足で向かうしかないのだ。そんな生活を送っている彼女たちにとっての〝もうすぐ〟と、シャーペンにとっての〝もうすぐ〟が同じな訳が無い。
「あの、あと具体的に何km先に師匠の家があるのでしょうか…?」
「約50kmです」
「(言葉にできない絶望)」
「さ、早く行きますよシャーペンさん」
1人で歩き始める彼女の後ろを、シャーペンはピョンピョン跳ねながら追いかけていった。
◇◇◇
しばらく歩き続けて。
ようやく山の上にある師匠の家へ辿り着いた。
家のドアをノックするアド。
「師匠、ただ今戻りました」
「お、おかえりアド…⁉︎」
家の中から出てきた女性はシャーペンを見ると、顔色を変える。
「こちらへ来なさいアド、後ろからアイテムにつけられている!」
「待ってください師匠。この方は、どうやら元々は人間みたいで、元の姿に戻るために私と一緒に旅に出たいそうです。
それで、師匠に魔法を教わりたいと…」
「元は人間?その証拠は?」
「それは…ありません」
「君、私のアドに何かするつもりか?」
「え、いや別に何も…」
シャーペンは少し迷った。
こんなアドとかいう可愛くて癖にも来る魔女に、何もしないだなんて考えてなかった。
いや、変な意味ではなく…と言いたいところだが、変な意味以外に何があるのかと聞かれると、何も答えられなくなってしまう。
いよいよ決心する彼。
「本当にアドさんに何かするつもりは無いです!
ですので、どうか魔法を教えてください!お願いします!」
「本当だな?」
「はい!!」
「わかった。だがまずは、君の実力を見せてもらおうと思う」
師匠はシャーペンを家の中へ入れると、庭へ案内した。
そして指差す。
「あの木を倒してみろ」
庭に生えた一本の木。
「私が向こうの山にある図書館から戻ってくるまでに、あの木を倒してなかったら魔法は教えない。良いな?」
そう言うと師匠は支度をし、家を出ていった。
残されたシャーペンとアド。何も起きないはずがなく…。
「あの、俺あんな木倒せないんですけど」
「でも倒せと言われたら倒すしかないですよ。
頑張ってください。ここで応援してます」
アドはベンチに座り、コーヒーを飲み始める。
「えぇ…」
シャーペンはシャー芯を銃弾のように発射しよう力を込めた。
「(さっきと同じようにすれば、シャー芯を撃てるはず!)」
ズバァァァァァァァァァン
爆音と共に大量のシャー芯がペン先から射出される。
ズキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ
シャー芯は木と周りの岩にズキズキと突き刺さった。
しかし倒れない。さすがに、そこまで脆くはない。
「(やっぱダメか…まずい、これを繰り返していっても倒れる気配は無いな。
何か他にできる事は無いのか⁉︎俺はシャー芯を発射する力しか無いのか⁉︎)」
針が大量に射出された事が、アドにとって衝撃的だったらしく、思わずコーヒーを噴き出した。
「ブッッ⁉︎…な、なんですかその魔法は!
大量の針が凄まじいスピードで木に刺さった。視認できないほどの速度に広い攻撃範囲!
すごいですよシャーペンさん」
「(ここでラノベの主人公だったら、噴き出されたコーヒーが顔にかかるんだろうな…)」
残念がる彼にアドが近づく。
「その魔法を逆に教えてくださいよ!
針魔法…とでも言いましょうか。ぜひ!」
「え、いや俺も、どうやって使うのかは知らないんですよ。多分これは魔法じゃなくて俺の特殊能力ですね」
「そうですか…」
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