その代わり安い部屋(すこしふしぎ文学)

島崎町

その代わり安い部屋(すこしふしぎ文学)

窓のない部屋だった。


「その代わり家賃は安いですから」


不動産屋の社員が言った。うす暗い、ただ四角いだけの部屋だ。安くないとだれも借りないだろう。


「どのくらい安いの?」


不動産屋の言った金額は想像より安かった。

心が揺らいだ。ここいらでは破格の家賃だ。


「窓のない部屋ですし、ワンルームですし」

まるで自分がデザインしたみたいに不動産屋は申し訳なさそうに言う。


見まわすと、たしかにワンルームだ。ほかに部屋はないのでドアひとつない。四方を壁に囲まれ、玄関のドアすらないただの四角い空間。


「その代わり家賃は安いですから」

決めぜりふのように不動産屋が言う。ここに決めた。


そうしていま、ひとり部屋に残されて、窓のない、ドアのない、出口すらない空間にたたずんでいる。どこかに行くことはできないが、だれかがやってくることもない完全に自分だけの空間。しかもそう、家賃は安い。そっと床に寝転ぶと、味わったことのない満足感が俺をつつんだ。

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