泉咲月

 「咲月ー、あんた遅刻するよっ!」

「うーん……」

数秒の逡巡の末、気合とともに掛け布団を跳ね除ける。

腹筋を使って上体を起こし、部屋の時計を確認する。

1月6日、6時55分32秒。

紛うことなき寝坊である。


「嘘!アラームかけ忘れてるぅ?!」


ダァン!と音を立てて着地し、勢いそのままに階段を駆け下りる。

リビングを通って、走りながら両親とおはようを交換する。

洗顔を済ませて部屋に戻り、制服に着替えて鞄を背負う。

再びリビングに躍り出ると、


「朝ごはんは?」


と母親に呼び止められので、


「今日は着いてからなんか買うよ!いってきます!」


と返し、いってらっしゃいを背中で受け取りながら玄関を出る。

残り3分。

徒歩で10分かけて通う道を走る。


 気がついたときには、息を整えながら歩く咲月の隣を、乗るはずだった電車が走り抜けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンアインシュタイン @karasu_034

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画