最初の宿場町

宿場町への分岐点で、ヒノメが突然立ち止まった。


「この道を行きましょう」


右手に伸びる細い道は、街道から外れて山裾へと続いている。ソラは街道標識を確認してから、静かに尋ねた。


「理由は?」


「ドラゴンの直感です」ヒノメは胸を張って答えた。「この道のほうが、絶対に近いはずですよ」


「おまえの直感、トカゲ以下なの?」


「失礼ですね」ヒノメは優雅に髪をかきあげた。その仕草に、かすかな鱗の輝きが宿る。「私は高貴なドラゴンの末裔です」


結局、ソラは彼女の後を追うことにした。けれども、山裾に向かう道は次第に荒れていき、やがて古い石畳が露出し始めた。明らかに廃れた古道である。


「ヒノメ」


「大丈夫です。私が付いていますから」


「橋が落ちてるんだけど」


谷にかかっていたはずの木橋は、朽ちた杭を残すだけとなっていた。対岸には廃屋らしき建物が、かすかに屋根を覗かせている。


「これも私の計算内です」ヒノメは得意げに宣言した。「冒険の要素を加えました」


ソラは額を押さえながら、ゆっくりと言葉を選んだ。「私は迷子になりました。はい復唱」


「迷子なような気もしてきました」


二人で谷を見下ろしていると、廃屋の軒先に魔術ギルドの古い紋章が見えた。苔に覆われながらも、かつての駐在所の痕跡をとどめている。


「やはり私の直感は正しかったです」ヒノメは誇らしげに言った。


「その直感、こないだ毒キノコを料理したよな」


「私は毒キノコくらい大丈夫ですよ」


「いっしょに食べる人は?」


夏の日差しが強くなる中、二人は古道に腰を下ろした。ソラがそっと取り出した水筒には、清涼な魔術が施されている。一口飲んだヒノメが、小さく笑った。


「ソラの魔術って、いつも心遣いが細やかですね」


「お前が面倒くさがるからな」


遠くで雷鳥が鳴く。谷を渡る風が、二人の間を通り過ぎていった。


「少し休憩しましょう」ヒノメが提案する。「任務は急いでいますが、私の直感が何か重要なものを見つけた気がします」


「お前の直感は当てにならないって、さっき」


「でも、この廃屋のことは見つけましたよ?」


反論の余地がなかった。ソラは黙って頷き、魔術で清めた布を二人の下に広げた。夏の陽射しが、古道の石畳をほのかに温めている。

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