第4話 信頼の試練
灰色の空の下、タクマとミサキは荒廃した街を進んでいた。略奪者たちから辛くも逃れた後、二人はその隠れ家から移動を始めた。ミサキはこれ以上ここにとどまるのは危険だと判断し、次の安全な場所を目指す必要があると説得したのだ。
「近くに知り合いがいるかもしれない場所がある。そこに向かおう。」
ミサキは落ち着いた声で言った。その目には確固たる信念が宿っていたが、タクマの中にはまだ疑念が残っていた。
「知り合いって、信じていいのか?この世界じゃ裏切りなんて当たり前だろ。」
「そうかもしれない。でも、人を信じることをやめたら、それこそ終わりだよ。」
タクマは口を閉ざし、無言で歩みを進めた。ミサキの言葉に反論する気力が湧かない。彼の中では、昨日の出来事がまだくすぶり続けていた。ミサキが自分を助けた理由、それに込められた本当の意味がわからず、心がざわついていた。
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数時間後、二人はかつて公園だったと思われる広場にたどり着いた。木々は枯れ果て、ベンチは錆びつき、砂場はゴミで埋もれていた。それでも、ミサキは目を輝かせながら周囲を見回していた。
「ここだ。この奥に隠し倉庫がある。」
タクマは驚きと疑念が入り混じった表情を浮かべた。
「こんな場所に?本当にあるのか?」
「あるよ。私が隠したんだから。」
そう言うと、ミサキは足早に廃材の山へ向かい、手際よく何かを探し始めた。タクマはしばらくその様子を見ていたが、やがて溜息をつき、自分も手伝い始めた。
数分後、ミサキが歓声を上げた。
「見つけた!」
彼女が引き出したのは、錆びた鉄板で覆われた小さな扉だった。その下には地下室への階段が隠されていた。ミサキは慎重に扉を開け、周囲を警戒しながら中へ入っていった。
「タクマ、こっちだ。」
彼は警戒しながら後を追った。薄暗い地下室の中、ミサキは古びたランタンを取り出し、それを点けた。弱々しい光が部屋全体を照らすと、中には保存状態の良さそうな物資が整然と並んでいるのが見えた。
「すげえ…」
タクマは思わず呟いた。缶詰、ボトルに入った水、乾燥食品…これだけの物資があれば、しばらくの間は飢えに苦しむことはなさそうだった。
「これだけあれば…生きていける。」
「そうだろう?でも、これを独り占めするためじゃない。ここを共有する仲間が必要なんだ。」
ミサキの言葉に、タクマは顔を曇らせた。
「仲間なんて信じられない。いつ裏切られるかわからないんだ。」
「その考えもわかる。でもね、私がこれを守れたのは、信じる人がいたからなんだよ。」
タクマはその言葉に驚き、ミサキを見つめた。
「信じる人?誰だよ。」
「…私の息子だ。」
ミサキはそう言って、少し寂しげに微笑んだ。
「この倉庫を見つけたのは彼だった。そして、これを守る方法も教えてくれた。でも彼は…もういない。」
タクマは言葉を失った。彼女の声には深い悲しみが宿っていた。それでも、彼女がその悲しみを乗り越え、誰かを信じ続けているという事実に、タクマは衝撃を受けた。
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その夜、二人は地下室で物資を分け合いながら話をした。タクマは自分の過去について少しだけ語り、ミサキもまた彼女自身の過去を語った。会話の中で、タクマは少しずつ彼女に心を開き始めていた。
「もし本当に信じられる仲間がいるなら…どうなるんだろうな。」
「きっと、もっといい未来が待っているよ。」
ミサキの言葉に、タクマは静かに頷いた。彼の中で何かが少しずつ変わり始めているのを感じた。
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翌朝、二人は新たな目的地に向けて出発する準備を整えた。物資を適切に分け、必要最低限の荷物だけを持って外に出る。空は相変わらず灰色だったが、二人の心には小さな光が灯っていた。
「行こうか。」
ミサキの声にタクマは頷いた。彼はまだ迷いの中にいたが、それでも一歩を踏み出す勇気を見つけていた。
「…あんたが信じる未来ってやつ、少しだけ見てみたくなった。」
その言葉に、ミサキは満足そうに微笑んだ。そして二人はまた、荒れ果てた街を進んでいった。信頼という絆を手に入れるために。
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