8.0 dragon attack.
ワゴン車というか、マイクロバスというのか。7人乗りくらいのサイズ。全体的に丸っこいフォルムをしている。1960年代くらいのドイツ車に似たものがあったような。スイーツな移動販売車両としても、よく見かけるやつ。この世界に自動車があることも驚きだが。
何よりも、車両全面に描かれた魔法少女らしきイラストはどうしたことだろうか?
なにこれ。
「これは、馬の必要のない馬車かしら?」
馬が必要なければ、それはもう馬車とは違うのでは?
「ターマで試作車を見たことがあるわ。実用化にはもう数年かかると聞いていたのだけど。」
ワワンサキの方が技術開発で先行しているという事だろうか。
まあ、どうでもいいや。
悪魔曰く、「これならターマ山まで、半日で行ける。」とのことだ。運賃も不要だと言うので全員乗車する。使えるものは使おう。
昼過ぎにはターマ山の街道を痛車は走っていた。2度見3度見してくる人々は居なくなったが、今度は獣だ。高速移動する未知の物体を警戒しているのだろう、襲いかかってくるやつは居ないが、こわい。セリカなんかガクブル状態だ。クリームは平然としているが、これはこれでこわい。
「なんだか様子が変ねぇ。獣が多すぎるわ。」
確かに、以前ここを通った時には、熊一体としか遭遇しなかった。もっとも、その一体がカステーラ家の馬車には致命傷だったわけだが。クリーム曰く、この山の獣は森からはあまり出てこないそうだ。出て来ても小さい獣がほとんど。それでも人類にとっては十分な脅威らしいが。今は、先日遭遇した熊以外にも、大型の獣が複数、我々の痛車を遠巻きに眺めている。
「森の中の生態系に異変が生じたのかしら?異常に強い個体がよそからやって来たとか。」
異世界ファンタジーでは、よくある話なのだが。自分が、その舞台に参加してみると、ただひたすらこわい。今はまだ車の中なので、サファリパークな気分もあるが。これから、あの中に降りるの?まじで?
「そろそろね。その先の森の開けた場所で止まってちょうだい。」
クリームの指示で、悪魔ポチが車を止める。悪魔に平然と指示を出す幼女。わしらのリーダーすごい。
街道沿いの僅かに森の開けた場所。急にそれまでいた獣達が見当たらなくなった。どうしたことだろうか、まるで結界でもあるかのようだ。警戒しつつも全員降車する。
「十字架で思いついたのがここなのだけど。ここに埋蔵金が埋まっているのかしら?」
と、クリームが言うので気付いた。ここは、熊に襲われたカステーラ家の護衛を埋葬した場所だ。なるほど。そういえば、お墓に枝で作った十字架を立てたね。風で飛ばされたのか、もう無いけど。そうか十字架か。おみくじで示されたラッキーアイテム。
「十字架であれば、もう1か所、思い当たる場所があります。」
うちのメイドさんも思い当たったようだ。
森の中に入るのであれば、日の高いうちが良いだろう、ということで、先にメイドさんの言う場所に向かうことに。先頭はポチ、最後尾がアンだ。アンは、包丁を片手に周囲を警戒しつつ移動している。やはり、このメイドさんも戦闘タイプであったか。
ポチの後ろが、わしを抱いたうちのメイドさん、セリカ、クリームの順。川に沿って進むだけなので、道案内は特に必要ない。
森の中でも、獣に遭遇することなく進んで行く。やがて、ズンダ王女を埋葬した場所までやってきた。森の中、木洩れ日を浴び、地面に屹立する短剣。まるで、伝説の聖剣のように見えるが、そのシルエットは十字架のようでもある。
「これが十字架なのか?そう見えなくもないが。」
そう言って、セリカが無造作に短剣を引き抜いた。お前、勇者か。
「うーん。結構な値打ちがありそうだけど。墓のものを盗ると女神レベルが下がるからなあ。」
と、元に戻した。目的は一攫千金なのだから、何も埋蔵金やドラゴンに拘る必要はない。それでも、女神レベルが下がるのは避けたいようだ。女神レベルとやらについては、いずれ教えてもらわないとな。
「十字架はその剣ではなく、墓の中です。」
メイドさんが言う通り、墓の中には十字架が埋まっているはずだ。王女の首に下がっていたネックレスだ。それぐらいは残そうということで、奪わずに一緒に埋めたのだ。
「といっても、墓を掘り返すわけには…。」
途中で言葉を飲んで、墓をじっと見るセリカ。何か見つけたのかな?
「…この墓、誰かに掘り返されてるな。」
「獣じゃなくて?」
「獣だったら、埋め戻さないだろう?」
確かに、ぱっと見は元のままに見えるが、一部分土の色が違うような。よく気付いたなこいつ。伊達に、うんこ漏らしではないな。
「犯人は、川上に向かって移動したようだな。」
「だなぁ。これは子供の足跡かな?」
わしには何も見えないのだけど。この人外共には、足跡が見えてるらしい。
川上に向かって更に進む。やがて、ぽっかりと丸い形で森が開けた場所に出た。この場所は、わしとメイドさんが最初に居た場所だ。かつて、全裸の幼女がメイドさんに膝枕されていた場所に、何か居る。
全裸の幼女だ。
銀髪だ。腰までの長さの銀髪に、真っ白い肌に、赤い瞳。川のほとりに座り込んで、手に提げた十字架のネックレスを、ほけーっと眺めている。墓を荒らしたのは、この幼女なのだろう。
こんな場所に、1人全裸で居るのだ、人ではない何かの可能性がある。森の生態系を混乱させているのが、この幼女なのかも知れない。この周囲に獣が居ないことと辻褄は合う。
メイドさんに下してもらい、先頭に立って銀髪幼女に近づいて行く。何故か、自分が接触せねばならないような気がするのだ。この世界に来てから、キャラの強い幼女ばかりに遭遇するのは、何かに導かれているのではなだろうか。それが、神なのか悪魔なのかは分からないが。
しかし、全裸の銀髪幼女を目前にすると、何と言って声をかけたものか分からんな。
こんにちは、だろうか。ここは、公園じゃないんだよなあ。などと思案していると、先に相手から声をかけられた。
「ここで、何してるの?」
というか、あなたこそ何してるんですかね?
「わしらは、ドラゴンを退治しに来たのじゃ。」
質問に質問を返すことはせず、聞かれたことを答える。
「そう。こっちに来て。」
銀髪幼女は、ネックレスを自身の首にかけると、森の奥へ向かって歩き出した。我々は、後を追う以外あるまい。あれは、ラッキーアイテムなのだ。
森の中を進んで行くと、程なくして洞窟があった。なお、わしは既にメイドさんに抱かれている。もう疲れた。これ以上歩くと死んじゃう。
銀髪幼女は、洞窟の前でいちど立ち止り、こちらを振り返った。ちゃんとついてきてる?って感じ。全員が居ることを確認すると、洞窟の中に入って行った。この奥がドラゴンの巣なのだろうか?ドラゴンが通れるサイズとは思えないけども。洞窟の中は一本道だった。ところどころ天井に穴が開いており、そこから入る光で、さほどの不安なく進める。前世の自宅の方が余程暗かったような気がする。
やがて、大きく開けた場所に出た。周囲を高い崖にぐるっと囲まれた、野球場程度の広さの場所だ。目立つのは空間の中心付近に見える、巨大な樹。この樹なんの樹?
銀髪幼女の後について進んで行くと、その巨大な樹の根元で立ち止った。
猫だ。
樹の根元で、丸くなって猫が寝ている。とらじまの猫。日向で幸せそうに寝ている。ただし、背中に羽がありますね。
「ニンゲンを連れてきた。」
銀髪幼女が猫に伝える。猫は人の言葉が分かるので、話しかけること自体は、別に不思議ではないが。話かけている内容は、ちょっと何言ってるか分からないですね。
あ?という感じで目を開けた猫は、くあーっと大きくあくびをすると、ぐーっと伸びをした後、ぺろんぺろんと前を舐めると、顔を洗う動作をした。猫だね。どう見ても。背中に羽は生えているけど。
ひとしきり顔を洗って満足したのか、すっとすました感じで座ると、じーっと、我々を見上げる。主に、わしを見ているような気がするので、しゃがみこんで視線の高さを合わせた。
みーっと目を閉じて開く動作をしたので、こっちも同じ動作を返す。
「ニンゲン…。ちょっと違うけど…。まあ、いいか。」
しゃべった。語尾ににゃもつけず猫がしゃべった。
「そこにいるドラゴンの幼体の世話は任せた。ぼくはもうおしまいなので。」
は?
「じゃあ、あとはよろしくね。そこの樹になっている生命の実を持って行っていいよ。ドラゴンが成体になるには1000年はかかるからね。ああ、でも君には必要ないのかな…。」
そう言って、再び丸くなって目を閉じると、やがて光に包まれて、ほわほわほわっと消えていった。
何が起こったの?
「これが、ドラゴンの代替わりか。まさか立ち会えるとは。」
悪魔が言っていることが答えなのだろうか。じゃあ、今の猫は?
「ドラゴン退治できちゃったわね。ある意味。」
あれがドラゴンなの?
「でも、ドラゴン消えちゃったわね。ひげの1本でも残っていれば、1億円にはなったのだけど。」
「どのみちあのサイズまで小さくなってたら、猫のひげとしか思われないよ。」
何てことだ。手段は達成したが、目的が置き座りになってしまった。
「お嬢様。生命の実を回収しましょう。」
ああ、そういえばなんか言ってたね。巨大な樹には、ひとつだけ実がなっていた。林檎みたいな果実だ。これが生命の実というやつだろうか。メイドさんが、無造作にむぎっともぎ取る。
「それが、生命の実ならば今すぐ食べないと!あ、でもわたしはいらないわよ!」
クリームが慌てている。ドラゴンが残す位だから、超一級品のレアアイテムなのだろうけど。賞味期限が超短いらしい。持って帰って換金するのは無理だね。
「俺もいらないぞ。女神の幼体は、成体になるまで最低でも1000年は地上で生きるからな。食べても意味がない。むしろ成長が止まるかも知れない。」
ということは、わしが食べても意味がないね?
というか、重大な情報がぽろぽろ出てくるな。
「私も不要です。人ならざるものになる覚悟はありません。」
アンも断った。ということは?
「では、いただきますね。」
もっしゃあ、とメイドさんが生命の実を齧る。もっしゃもっしゃと全部食べてしまった。
芯は残った。種がある。
「生命の実の種かあ。とんでもない価値がありそうだけども。林檎の種にしか見えないわね。」
クリームの言う通り、見た目は、ただの残飯ですね。
「これで、お嬢様が成体になるのを、見届けることが出来そうです。」
メイドさん、満足そうだ。先程のセリカの言ったところと合わせると、生命の実を食べると1000年以上生きて成長もしない、ということか。その価値は1億円でも足りないだろうけど。お金にはならなかった。
「お金いるの?」
あるのか?そういえばドラゴンはキラキラしたものを好んで集める習性があるんだった。幼体である銀髪幼女も、十字架のネックレスを墓から掘り出していた。
「こっち」
再び銀髪幼女に導かれ、ここに入ってきた洞窟とは樹を挟んで反対側へ。そこにも洞窟があった。こちらは、すぐに行き止まり。物置のような空間だ。
「これ」
そこにあった革袋を、セリカに渡す銀髪幼女ドラゴン。
軽々と持ち上げていたけど、受け取ったセリカは、ぐへっと呻いてよろけた。かなりの重量物が入っている模様。
革袋の中身は、金貨だった。発行した国家や年代が異なるのだろう、複数の種類が混ざっている。総数としては、だいたい500枚。先代のドラゴンは、金貨限定でコレクションしていた模様。
「これだけあると、ちょっと両替が大変かも知れないけれど。エタナル学園なら、金貨のままでも受け取ってくれると思うから、問題ないわね。金貨1枚で、今の相場がだいたい40万円だから、2億円ね。3人で等分しても、6,666万円だから。」
「やった!これで学園に通えるな!」
ミッションコンプリートだ。
後は、銀髪幼女をお持ち帰りするだけだ。
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