マネー
ワワンサキに到着した我々は、今後の行動について作戦会議を行うことした。
場所は、お団子屋だ。おしるこモーニングうまい。
「5か月というか期間は、遊んで暮らすには長いわ。どこで何をしましょうか。」
予定よりも早く移動出来たことで、学園の入学まで5か月もあるのだ。その間何をするのか?が議題。
議長はクリーム。会議を提案したのも彼女だ。実家が事業を営んでいる影響か、天然のリーダー気質なのだろう。クリームが、おばかさんなのであるならともかく。彼女は実に有能だ。話の理解も早いし、女神とかいう謎生物の存在にも寛容だ。
有能なリーダーが率いてくれるのであれば、ついて行くだけだ。前世では、大炎上中のプロジェクトのリーダーを引き継いでしまったことがある。前任のリーダーは失踪済みのため引き継ぎも一切無し。あれは、地獄だった。結果、納めることができたので、それなりの収入を得られる立場にはなったが。
「俺は、お金を稼ぎたいぞ。学園は、ものすごくお金がかかるんだろ?」
庶民の平均的な生涯賃金と同じくらい必要だと以前に聞いた。セリカが、それだけの大金を持っているのか?というのは気になっていたところだ。
「今いくら持っているのかしら?」
思い付きとその場の勢いで入学を決めたとはいえ、ある程度は持っているのではないだろうか?
「360円」
「さんびゃくろんじゅうえん?」
椅子にふんぞり返り、足まで組んで、堂々と答えるセリカ。ひどすぎて逆にカッコイイ。それに対して、クリームはフリーズしてしまった。360円て。今日の食費すらあやしくないか?この女神あほなの?女神の評価を貶めるのはやめていただきたい。
なお、この国の通貨単位は、円だ。価値も令和初期の日本とだいたい同じだと思う。おしるこの値段的に。
「まずはいくら足りないのか計算してみましょうか。」
クリームが再起動した。リーダーが有能過ぎて、実に喜ばしい。
結論からいうと、約6,000万円足りない。
・入学までの5か月間の生活費 100万円
・入学金 2,000万円
・9年間の学費と寮費 4,000万円
5か月間の生活費については上振れしないよう多めに見積もった。もっとも全体からすると誤差の範囲に近いが。現在の所持金360円は、完全に誤差。学費と寮費はまとめて前払いする必要はないが、学校に通いながら毎月40万円近く稼ぐのは難しいだろうから、入学前に用意すべきだろう、ということだ。
しかし、この国の庶民の平均的な生涯賃金は、6,000万円しかないのか。貧富の格差がひどい。
続いて、5か月間で6,000万円を稼ぐ手段の検討をする。まずは、みんなで思いついたものをあげていった。実現可否は気にせず自由な発想をするように、とのリーダーの言葉に従い、短時間で複数の案が上がった。
・住み込みで月収1,200万円のバイトをする
・マグロ漁船に乗る
・相場で儲ける
・博打で大当たり
・何か商売をする
・ドラゴンを退治する
・埋蔵金を発掘する
実現可否は気にしないと言ったものの。期間や元手が不足していて無理でしょう、というものを消していく。結果、残ったのが。
・ドラゴン退治
・埋蔵金発掘
どうしてこうなった。
だがしかし、無理そうな課題でも、2つ以上組み合わせてみると、不思議と解決の可能性が見えてくるもの。結果、次のようになった。
・埋蔵金を掘りながら、ドラゴンを退治する
ドラゴンというのは黄金などのキラキラしたものが大好き。埋蔵金を掘っていれば寄ってくるに違いない。寄ってきたところを仕留める。あるいは、ドラゴンの巣に財宝が溜め込まれているに違いないので、ドラゴンを倒してそれを強奪する。
「そもそもドラゴンっているんじゃろうか?」
この世界のドラゴンとは「かつて存在したが絶滅した」あるいは「今でも、居ないとは言い切れない」というのが一般的な見解なのだとか。
何とも不確かな話ではあるが。他に案もないので、埋蔵金を掘りながらドラゴン退治で検討を進める。
「埋蔵金がどこにあるかよね。ターマ山にある、というのは有名な話だけど。」
各自が聞いたこのある埋蔵金伝承のある場所を集め、片道1か月程度で行ける場所に絞った結果、4か所が候補として残った。
・ターマ山
・オタマ川
・カナマナ平原
・ナマタ村
「期間的には、行けても2か所よね。どこにしましょうか?」
多数決で決めるか、あみだくじでもやるか。
あ、そうだ。
「おみくじじゃ!神社に行っておみくじを引くのじゃ!」
おみくじは因果律がどうだかと、セリカが言ってた。他に頼るものもなし、神社へと行くことにする。
お団子屋の近くにもエタナル教の神社があったので、そこでおみくじをひいてみた。代表してセリカがひいた。お金の無い当事者だからね。残金240円。
大吉
方角:東
探し物:見つかる
敵:けもの
食べ物:お肉よりお魚
ラッキーアイテム:十字架
一部、良く分からんものがあるが。これは、特定の場所に行けとのお告げに見えてくる。
「ターマ山というわけね。」
クリームの発言に全員が頷いている。全員の意見が一致した、のだが。
「危険過ぎじゃないかしら?」
「あそこの熊は、くさいんだよなあ。」
「来た道戻るのいやなんじゃけど。」
「麓までは、電車と馬車で行けるでしょうけど。山中を進む手段が問題ですね。」
「あそこは、ターマとオタマの境界だ。軍事侵攻するのはまずい。」
全員、積極的に行く気にならない。
しかし、おみくじの結果だしなあ。うーん、セリカを放り出すか?なんかもうめんどうになってきたわー。
「貴様ら、ターマ山に行くのか?」
そこへ声をかけてきた不審者が。事案だ。
全身黒い服装に、なにかをこじらせてそうな、目つきの悪い顔つき。こいつ、どっかで会ったな?
「なんだ。うんこ悪魔か。今忙しいんだ、あっち行け。」
そうだ、悪魔だ、こいつ。悪魔が神社の境内に居る。神的な聖なる力で死んだりしないの?
「随分とえらそうじゃないか。200年前に会ったときは、うんこ漏らして泣いておったくせに。」
「うるさいな!うんこ投げるぞ!」
投げんな。うんこ女神。
「我が用があるのは貴様ではない。生まれたての女神の方だ。」
「え?わし?」
「我の名はポチ。これでも上位悪魔だ。人間の階級で言えば、課長だ。」
そんなに上位でもなくない?大企業であれば、中小の社長よりも動かせる資金も人員も上だったりするけど。そして、悪魔の名は前世の世界では犬の名前だよね。うける。
「で、その課長さんが、わしに何の用なのじゃ?」
「上に言われてな。生まれたての脆弱な女神の面倒を見てやれ、と。」
そういえば、この世界では女神と悪魔は対立構造ではないのだっけ?
「お嬢さまの従者は間に合っております。おひきとりください。」
うちのメイドさんは、謎の対抗意識を燃やしているし、セリカはうんこ扱いしているが、悪魔の課長さんだ。役に立つこともあるのではないだろうか?使えないような切り捨てればいい。うちのメイドさんに、また始末させてもいい。
「貴様には聞いておらぬ。先日は不覚をとったがニンゲン如きが悪魔を侮るな。」
不覚をとって何をされたのか興味あるんだけど。こめかみがピクピク震えてるし、相当酷い目にあったのではないだろうか?
「ターマ山まで行きたいんじゃけど。1人240円以内で。」
悪魔に何が出来るのか分からないけど、とりあえず頼んでみるよ。
「分かった。鳥居前で、しばし待たれよ。」
と言い残すと、いずこかへ走り去って行った。何かあてがあるようだね。さほど期待はせずに、みんなで鳥居前で待つことしばし。
痛車が、やってきた。
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