11人、しかいない!

「なあ、減ってない?」


休憩所に着く前まで乗客は13人居たはずが、今11人しか居ない。


「そうね。」


それがどうかしたの?って反応だな。


やがて、御者のおっさんが何かもそもそ喋ったと思ったら、学校らしき建物の前で馬車が止まり、幼女達がぞろぞろと降りて行った。


「だあぁしありあすっ」


御者がそう言って紐を引くと、乗降口のドアが閉まり、馬車は再び走り出す。


また御者がもそもそ喋ったと思ったら、やがて馬車が再び止まり、残りの乗客達が全員降りて行った。再び、呪文のようなものと共にドアが閉まり、馬車は走りだす。


車内は我々5人だけになった。おい、まさかこの旅、ようすけ的なあれじゃないだろうな?などと不安を感じていると。


「あっ!あああああああ!!」


セリカとかいったツインテールが騒ぎ出した。他に乗客が居ないからまだいいけど。静かにしろよ。


「なんじゃあ?急に。」


「うんこ悪魔がいない!」


なんだよそれ。幼女なら、うんことかおしっことか言っても許されると思うなよ?許すけど。


「アレは、こちらで始末しておきました。」


うちのメイドさん、何したんだろうか。ゴミは捨てておきました、くらいののりで何か言っているけども。


「悪魔ってなに?」


放っておけばよいのに、クリームが追求を始めた。まあ、わしも気にはなるけども。


「あー、まあお前らになら話してもいいか。悪魔を見つけたから、後をつけてたんだ。アレが地上に出てくるなんて200年振りだからな。」


うちのメイドさんも「悪魔が居ますね」とか言っていたけども。どうやら、本当に悪魔が居たようだ。


「それで、この馬車に乗ったら、もっと珍しいのが居たから、すっかり忘れてた。」


200年振りの悪魔よりも、女神の方が希少生物ということか。


「女神って、そんなに珍しいの?」


「地上には俺以外居ないと思ってたなあ。悪魔の方は、何体か会った事があるよ。今のところ2勝3敗かな。」


「悪魔は、女神の敵なのね?」


「そういうわけではない。女神と悪魔が対立しているわけじゃなくて、派閥で対立してるんだ。俺は無所属だからな。勧誘するか抹殺するか、派閥によって対応はいろいろだな。」


うーん。分からん。なんか物騒な話も混ざってたけど、理解が追い付かない。基本的な部分が足りてないんだよなあ。そもそも女神って何なの?


「その辺は、いずれ詳しく教えて欲しいのじゃけど。今は、それよりもっと気になることがある。」


「なんだ?俺ならお前の味方だぞ?初めて会った後輩だからな!なんなら成体になるまで面倒見てるやるぞ!」


やたら嬉しそうに、肩を抱いてぐいぐいくるセリカ。またなんか気になる単語が出てきたけど。それも後で確認だ。


「この馬車、朝から殆ど進んでない気がするのじゃけど。長距離バスじゃなくて、路線バスなんじゃろうか?」


やだよ、路線バスしか乗れないルールとか。


「ばす?そうね。長距離を一気に進むものではないわね。町民が日常の足に使っているものだから。最短ルートを進めればひと月だけど。乗り継ぎだと、3か月くらいかかるかしらね。」


まじか。この幼体、貧弱だから死んじゃうのでは?


「そういうことか。じゃあ、次で降りるぞ」


「何か、もっと速くて楽な手段があるんじゃろか?」


「任せろ。かわいい後輩のためだ。俺がなんとかしてやるぞ。」


セリカさんも男前だわ。幼女百合ハーレムの予感。尊い。



その後、当初の予定とは違うルートで馬車を乗り継ぎ、夕暮れ時になってオタマという町までやってきた。カステーラ家のあるターマとちょっと似てるね。

「今夜は、ここで宿をとって、明日の朝イチでニャンブー線に乗るぞ。ちょっと、そこの団子屋で待ってろ。手配してくるから。」


そう言い残すと、だだだーっと走り去って行くセリカ。


「ニャンブー線という手があったのね。でも、どうやって乗るのかしら?」


クリームに分からないことが、わしに分かるはずもない。とりあえずお団子屋さんで待っていましょう、ということで4人で団子屋へ入っていく。実をいうと、ずっと気になっていたのだ。もちもちおもっち。


おしるこうまい。

団子屋というより甘味処といった感じで、他にもあんみつとかパフェ、さらにはウインナコーヒーまであった。おしるこを半分ほど食べたところでセリカがやって来た。


「お。うまそうだなそれ。おれにも同じのくれー!」


こいつもおしるこが好きなのか。仲良くやっていけそうだ。

後から来たくせに、誰よりも早く食べ終わるセリカ。食べ終わるやいなや、さっさとレジに向かい会計を済ませる。全員分払ってくれている模様。


「よし行くぞ。今夜の最終便に乗れることになった。」


それは先に言えよ。


団子屋を後にし、オタマ駅に来た我々。セリカ曰く、これからニャンブー線に乗るのだという。ニャンブー線は貨物専用線なので、乗客が乗る車両は無い。無いのだが、料金さえ払えば、荷物扱いで人も運んでくれるのだと。ちょっとした裏技らしい。我々以外にも、何人かホームに居る。


やがて最終便が、ホームにやって来た。

先頭の気動車は、予想と違って蒸気機関ではなかった。架線は無いから電車ではなさそう?ディーゼルなのだろうか?馬車が主要な交通機関なのだから、内燃機関はまだないのかと思ったのだけど。


正解は、まさかのリニアモーターであった。といっても時速500キロとか出るやつではない。リニア誘導モーターがどうとか言っていたので、大江戸線みたいな方式なんだと思う。知らんけど。


車両は16両編成。最後尾が狙い目、だとセリカが言うので最後尾の車両に乗り込んだ。16両もあるとホームを移動するのも結構な距離だ。途中で力尽きそうになって、メイドさんに運んでもらった。


なるほど。最後尾だと後ろのデッキに出て景色を楽しめるわけか。もう日が暮れてるから何も見えないけどな。仕方ないので、車両内で寝ることにする。周りには、米の詰まった袋だとか、梨の入った木箱だとかが、山積み。これ崩れたら死んじゃうんじゃないの?


まあ、メイドさんが居れば大丈夫だろう。ということで、メイドさんの膝に抱かれて、すこーっと寝る。セリカとクリームは遅くまで起きて会話していたようだけど。元気だな、こいつら。我が身は、貧相な幼体なので夜更かしは無理。


目が覚めると、夜は明けきっており、もうワワンサキに着いていた。

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