とんでもない、わしは女神さまじゃよ

お宝鑑定が済むと、メイドさん2人は洗濯をしに行った。明日のパンツはあるが、明後日のパンツは無いので、洗濯は毎日しないとね。幼女2人は早々に寝ることにした。幼女は早く寝るのだ。


翌朝、おねしょをすることもなく目覚めると、もう結構遅い時間なのだという。旅館の朝食はもうない、と。


「寝過ぎよ?」


クリームにちょっと叱られた。幼女としても寝過ぎであったらしい。


「車のお金を受け取ってから、外でご飯食べましょう。」


とのことで宿をチェックアウトして、中古車センターに向かった。買取金額は満足のいくものだったようでクリームの機嫌が良い。


「山を越えたら、カステーラ家のはったりは効かないから覚悟していたのだけど。」


それは、もしかしたらオモッチ家のハッタリが働いたのかもね。知らんけど。アンも特に、何も言わないし。


朝食は、喫茶店でモーニングというやつを食べた。ここは岐阜県なのかな?今日もご飯はおいしかった。


ご飯を食べ終えた我々は、乗り合い馬車のターミナルへとやって来た。

乗るのは南行きの便になるそうだ。西に行くのが運命だったのでは?


「ワンコスギまでは南に向かうわ。そこから西に向かうのよ。」


なるほど。ワワンサキは西で間違いないと。今日乗るのは、ノボルトン方面行きの乗り合い馬車だそうだ。ノボルトンまで行くと、もっと大きめのターミナルがあって、他国への直行便もあるらしい。ノボルトンまでは5つの宿場町を経由し、1週間かかるとのこと。


先の事を考えると気が遠くなる。まずは今夜着く宿場町のご飯を楽しみに進むこととしよう。短期的な充足感を積み上げることが、長期間のプロジェクトを乗り切る秘訣かと思う。ドラゴンの尻尾のステーキとか無いのだろうか。食べたい。うまそう。


そういえば、この世界では魔物などの生物に遭遇していないし、魔法の類も見ていない。女神がここに居る以外のファンタジー要素は皆無。異世界とファンタジー世界は同義ではないということか。


乗り合い馬車は10人乗りで、我々以外の乗客は9人居た。定員オーバーなのでは?

もっとも、我々含め、幼女が6人も居るので、別に窮屈な感じでもない。幼女率高いな。それぞれの幼女の保護者らしき大人が6人、ソロの客が1人。

ソロ客は、20代後半と思われる男だ。細身で全身黒い服装をしている。何やらこじらせてそうな風情。そして目つきが悪い。悪人面というか、悪魔面だ。


「悪魔が居ますね。」

メイドさんが、ぼそっと呟いた。わしも同じ様な事思ったけども。言っちゃダメなやつでしょ。悪魔面がビクッと肩を震わせてるし。聞こえてるんじゃないの?


「いえ、あれは本当の悪魔ですね。」


え?まあ女神がここに居るくらいだから、悪魔も居るのかな?


「悪魔なんて、神話とか聖書の中のフィクションじゃないの?」


クリームがそう言うくらいだから、その辺を悪魔が徘徊しているような世界ではないようだけど。あれが悪魔なのだとしたら、目的は一体なんなのだろうか。


「休憩所に着いたら、問い詰めてみましょう。」


簡単にそんなこと言っているけども。あれが、ただの悪魔面の一般人だったら、どうする気なんだろうか。


「おい、お前」


そんな心配をしていると、隣の幼女から声をかけられた。金髪のツインテールだ。ロリンテールだ。縦ロールの次はツインテールか。この世界で遭遇する幼女、バラエティに富んでるな。


「わし?」


つり目がちの目で睨まれておる。ガラ悪いなこいつ。


「そうだ。お前だ。」


ロリンテールの隣のおばさんは、ちょっと顔を顰めたけど、特に窘めたりもしない。こいつの保護者ではないのかな。そういえば、全然似てないわ。こいつ、幼女のくせに一人旅なのだろうか。肩にかけたポシェットのようなもの以外に荷物を持っていないようだけど。こいつも、明日のパンツさえあればいい、とか思っている種族なの?パンツ族との遭遇率も高いな、この世界。


「お前、俺の同類なんだろう?」


やはりパンツ族なのか、こいつ。


「まあいい。人前で話すことでもない。後で顔貸せ。」


それっきり黙ってしまった。ちらとメイドさんを見ると、なんだか緊張した顔つきしてる。嫌な予感がするよ。


休憩所についたところでロリンテールに、「ちょっとこっち来い」と言われたので、メイドさんを引き連れて、ついていく。ちなみに、休憩所といっても何もない、ただの原っぱだ。


馬車からある程度離れたところで、ロリンテールは立ち止った。他の人達には会話が聞こえない程度の距離である。


「俺は、セリカだ。お前は?」


俺っ娘だった。しかし、こっちものじゃロリだ。負けてはいられない。何の勝負なのかは知らんけど。


「セリカ?あなたも女神の名前なのね。王族には見えないけど。」


答えたのはクリームだ。ついて来ちゃってるよ、この子。アンも一緒だ。


「いや、お前には用が無いんだけど。」


ロリンテールがちょっと怯んだぞ。強いぞ、縦ロール。勝つのはどっちだ。もちろん、何の勝負なのかは知らない。


「あら?私の友に用があるということは、私に用があるということよ。そして私はクリームよ。」


なかなか男前なことを言うね。幼女なのに男前。惚れてしまいそうだわ。幼女で百合、尊いと思います。


「そこまで言うならいいけど。今から言う事を聞いて、おしっこ漏らすなよ?」


脅し方が幼女だった。むしろ安心するわ。


「ええ。望むところよ。」


なんかクリームが無駄に張り合っている気がするんだけど。何なの?

メイドさんは、さっきからずっと黙って成り行きを見守っている。


「お前、女神だろ。いつ生まれたんだ?ありえない位に貧相なんだが」


クリームが、何かを言いかけたけど、口を開けたまま黙ってしまった。


「いつって、昨日じゃけど。」


クリームが、口を開いたまま、目も見開いた。特殊な人形みたいだから、やめて欲しい。


「あなた達、女神なの?」


再起動早いな。さすが縦ロールは伊達じゃない。


「さっきからそう言ってるだろ?だいたい見りゃ分かんだろ?」


言ってないし、見ても分からないだろ。


「貧相というのは、女神の格のようなものでしょうか?」


ここでメイドさんが介入してきた。ちょうど、聞きたかったことを聞いてくれた。


「まあ、そんなようなもんかな。格というより、成長度合いかな」


このロリンテール女神、案外いいやつかも。質問には、ちゃんと答えてくれる。ガラ悪いけど。


「でも、昨日なったにしては、ちょっと成長が早い気もする。何かやったのか?」


何かって何だろうか?


「例えば、昨日人を殺したとか。死者を弔ったとか。」


後者は、ともかく。前者は女神の行いではないのでは?いや、案外そんなもんかもな。ソドムだかゴモラだったかの町の話とか、ノアの箱舟とか、神は人類に対して案外厳しい。あれって、人類皆殺しって話だもんなあ。


「死者は弔った、ことになるのかのう。5人程。」


そういえば、そうだわ。考えてみれば幼女が1日で体験するような事態ではないな。


「え?いきなりそんな数を?お前、教会にでも就職したのか?それは、やめといた方がいいぞ。」


なんだ、神社だけでなく教会もあるのか?ハイブリッドが過ぎるなこの世界。でも、現代日本もそんな感じだったっけ?


「いや、教会には関わってないんじゃけど」


なんだろうか、もしかして神社に行ったのも良くなかった?


「そうか。じゃあ教会には近づくな。もし行くなら殲滅する覚悟で行け。」


物騒な事言ってるなあ。


「エタナル教には神社しかないから。学園に入ってからも、教会に関わることは無いわよ。」


クリームがフォローしてくれる。この子、この異様な話についてきているみたいだ。当事者である、わしの方が、ついていけてない。


「神社ならいい。むしろ、おみくじは因果律の確認に利用できる。」


良かった。偶然にもちゃんと女神として正しい行動ができていたらしい。こうなると、リーザの名をつけてくれたクリームには感謝するべきだろう。彼女こそ、女神なのでは?


「他にも、いろいろとお聞きしたいことはありますが。馬車が出る時間のようです。」


メイドさんに促されて、我々は馬車に戻った。


「お前、もしかしてエタナル学園に入るのか?だったら、俺も一緒に入ってやるよ。」


敵に回すよりは、味方にしておいた方が良さそうではあるが。


「そう。じゃあよろしくね。」


クリームは受け入れることにしたようだ。そういえば、おみくじに「出会いを大切に」なんて書いてあったな。そういうことか。


旅の仲間が増えました。

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