君は天使を見たか?

まだ日の高いうちに、我々の馬車は宿場町に辿り着いた。道中、獣に遭遇することなく進めたので予定よりも早かったそうだ。女神オーラによる女神バリアに守られていた、とかではなく、うちのメイドさんから強者のオーラが漏れ出ていたのではなかろうかと思う。知らんけど。


街並みには一貫性とか統一感というものがまるでない。レンガ造りの建物があれば、日本家屋のような木造建築もある。どういう進化を辿るとこうなるのだろうか。まるで現代日本のようである。


まずは、馬車の買取をしてもらうため、中古車センターのようなところへ行く。


「査定には時間がかかるそうだから、明日の朝また出直しましょう。」


とのことなので、宿探しも兼ねて町を散策することに。

宿場町なので宿だけでなく飲食店も多い。お団子屋まである。ここ日本なんじゃないの?と思えてくる。辿った街道は東海道なのでは?

お団子屋の「もちもちおもっち」なんて書かれた幟を眺めて、今更ながらに気付く。


日本語じゃん。


思えば、クリーム達とも日本語で会話している。転生時に付与された特殊能力で勝手に脳内翻訳されている、という感じでもない。「のじゃロリ」とか、そのまんまだし。


「おもっちですって。あれあなたの実家が経営しているの?アン」


「お餅は関係ありません。」


カステーラ家のメイドさんは、家名をオモッチというのだそうだ。クリーム・カステーラとアン・オモッチ。和菓子かな?

なお、家名を持つのは、貴族と王族に限られるそうだ。例外は、カステーラ家のような政治にも参加している資産家くらい。故に、クリーム曰く「なんでアンがうちのメイドなのか謎なのよね。」とのことだ。謎と言いつつも察しはついている感じだったけど。


この世界の宗教関係の施設はどうなっているのだろうか?と、それらしいものを探していると。神社があった。赤い鳥居の隙間から見える境内では、巫女さんが掃除をされている。メイドさんの次は巫女さんだよ。萌え要素多いな、この異世界。


「あら、この神社、エタナル教なんじゃない?」


どこで区別がつくのか分からないが。この世界の宗教も、いくつか宗派があるということか。


「ここに祭られているのは、リーザなのよ。お参りしていきましょう。」


自分の名となったリーザは女神の名だと聞いたけど、エタナル教とやらの御神体でもあったのか。クリームに誘われるまま、共に鳥居をくぐる。何か起きるかも?と思ったけど結界に阻まれるとか、境内の鳩が一斉に真っ白になるとかの奇跡が起こるとかもなかった。

こちらに気付いた巫女さんは、掃除の手をいったん休めて、軽く会釈するのみ。目の前に自らの崇める女神が降臨していることに気付いた様子はまったくない。


わし、ほんまに女神なんじゃろか?


メイドさん曰く、「天使がそう言ってました」ということなのだけど。なんでも転生する直前に役所のような場所で、天使を自称する役人っぽいおじさんにそのように聞いたのだとか。わしは、そんなとこに行ってもいないし、天使にも神にも会っていないのだけど。


まあ、いいか。


そのうち、なんか分かるじゃろ。


お賽銭箱に小銭を入れ、がしゃんがしゃんと大きな鈴を鳴らして、手を合わせ目を閉じて願い事をする。迂闊なことを女神が願ってしまうと、人類の歴史を変えるようなことが起こるかも知れない。取り越し苦労であればよいが、「宿でおいしい晩御飯が出ますように」と願っておいた。それくらいなら大丈夫じゃないかな。


みんなで、おみくじもひいた。

小吉だった。女神への忖度はない模様。みんな小吉だった。ただ、女神マジックかも知れない不思議なことはあった。全員のおみくじに「旅立ちの時。西へ向かうがよい。出会いを大切にすること」と、言い回しは若干異なるものの、そういった意味合いのことが書かれていた。


「私達の出会いはきっと運命なのね!ワワンサキまで一緒に行きましょう!」


きらきらとした瞳を向けられて、幼女に口説かれて断れるはずも無いだろう。今は、自分も幼女だけども。それに、この世界の地理がまったく分からない身にとっては、とても都合がよろしい。

山中で受けた護衛の任務は、この町に着いた時点で終わっていたのだが、4人の旅はワワンサキまで続くことが決まった。


神社を出て、町の散策を再開する。


「お嬢様。服を買いましょう。」


うちのメイドさんにそう言われて、そういえば明日のパンツも無かったことに思い至る。


「いいわね。私が選んであげる。」


クリームさんも食いついてきた。わしのこと着せ替え人形にして遊ぶつもりなの?でも、女子同士の付き合いはこんなものなのだろう、きっと。知らんけど。


閉店セールの幟の立つ店に入る。異世界でも衣料品店は永遠の閉店セールをやっている模様。不思議だ。


店内には、クリームの着ているようなゴスロリチックなドレスもあれば、浴衣まである。どれも生地の品質も仕立ても悪くない、ように見える。女児の服なんて選んだことないからよく分からんけど。

うちのメイドさんとクリームが2人して、ああでもないこうでもないと選んでくれた服を2着と明日のパンツと、大きめのリュックをひとつ購入する。うちのメイドさんの方こそ、わしを着せ替え人形のように思っている感じであった。

うちのメイドさんの服も買おうとしたけど、メイド服があればよいです、とのことなので、ワワンサキに着いてからメイド服を仕立てる予定。


レジで、王族の遺品である金貨を取り出すと、店員がぎょっとした顔をしたが、ちゃんと受け取って貰えてお釣りもくれた。店員さん曰く、ここは宿場町なので外貨も使えますが、両替しておいた方がいいですよ、と。なるほど、ワワンサキに着くまでに、宿場町で少しづつ様子を見ながら両替していこう。一度に出すのは危険な気がする。


買ったばかりのリュックに服と王族の遺品一式も詰めて、メイドさんに背負ってもらい、店を出る。


次は、宿探しだ。そして、老舗の温泉旅館風の宿を発見。


「わし、ここがいいんじゃけど」


温泉に惹かれて提案してみる。どうかの?とクリームを伺う。


「そうね。私もここがいいわ。アン、空き部屋があるかと、宿泊費が予算内であるか確認してきて。」


クリームにそう言われて、宿の受付に向かうカステーラ家のメイドのアン。うちのメイドさんは、幼女2人の側で待機。この辺りは治安が良くないそうなので、常にどちらかのメイドから離れないように、馬車の中でカステーラ家のメイドさんに言い聞かされた。


受付での交渉を終えてアンが戻って来た。


「4人一緒の大部屋であれば空きがあるそうです。予算的には半分で済みます。」


「じゃあ、ここにしましょう。」


チェックインの手続きも、アンがしてくれた。道中かかる宿泊費や食費については、カステーラ家がすべて出してくれる事になっている。山中で熊退治をしたお礼と、護衛の報酬ということだ。なお、件の熊肉は宿で買い取ってもらえた。宿泊費よりも高かった、とクリームが喜んでいた。


我々が通された部屋は、畳敷きの8畳間だった。庭に面した側の障子を開けると縁側まである。日本の温泉旅館の風情である。レトロなテレビこそなかったが、照明は電気、しかもLEDだった。発電については、温泉地なので地熱発電であろうか?

この世界の文明レベルが分からない。馬車で長距離移動しているところを見るに、内燃機関はまだ発明されていないか普及していないのだろうが。


前世の知識で発明無双可能な余地があるような気がするが。既に大金を手にしているので、どうでもいいや。女神が人類の進化に介入するのは良くない気がするしね。


「夕食までは、まだ時間があるので、お風呂に行きませんか?露店風呂があるそうです。」


アンの提案に全員同意し、大浴場に向かう。


転生初日から、ラッキースケベイベント発生の予感。

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