第3話

「まず、お互いを知ることからからだな。俺の名前は高木リト」

「木村ミカです。よろしくお願いします」


そう言いながら、ミカが差し出してきた手を握る。


「俺のジョブは『魔法剣士』魔術師と剣士の中間ってとこだな」

「私は『精霊使い』です。なんか精霊を呼び出せて操れるらしいです」


『精霊使い』か。強そうな名前だ。


「一つ聞きたいんだけど、パッシブスキルと最終奥義はどんな効果なんだ?」


ミカは自分のスマートフォンを取り出し画面をタップする。


「えと、パッシブスキルは『融合召喚』で精霊を融合して少しパワーアップさせる効果です。最終奥義は『大精霊召喚』ってやつで、効果が大精霊を召喚するらしいです。発動条件は⋯⋯……?」


条件を言うミカの口が止まった。そのまま眉の間隔が狭まる。


「木村ミカの全ての寿命を消費し、大精霊を召喚する。っていう条件です」

「全ての寿命を消費?」

「はい。確かにそう書いてありますよ」


そう言ってスマートフォンの画面を見せてきた。確かにそう書いてある。じゃあ、ミカは一位になれないのでは?

召喚した大精霊が残ったプレイヤーを皆殺しにすればミカの勝ちの判定になるのか?


いや、どうなるか分かんないな。


「リトさんのはどんなものなんですか」

「俺は『魔力結界』っていう2000HP分のバリアを張るスキルと、『全斬撃』っていう全属性の魔法を斬撃として放つってやつ。特に強くないよ」

「最終奥義使っても死なない時点でつよいです!」

「ご、ごめん」


これは失言だったか。


「ところで、ミカって何歳なの?」

「そんなの聞きたいですか?」

「そりゃ、デスゲームで協力するんだ、仲良くしとかないとだろ?

かの合気道の達人、塩田剛三先生も戦わないための一番の方法は仲良くすることって言ってたし」

「誰ですかそれ。……十三歳です」

「へぇ、このデスゲームの間はどうやってすごしてたの?」

「殺されないようにずっと逃げ回ってました」

「そっか、頑張ったんだな」


ミカの頭に手を伸ばし、頭を撫でる。しっとりとした黒髪が心地よい。


「あの、なんで撫でてるんですか…………」

「へ? いや、ごめん。つい」

「ついとは」

「俺の義妹と同い年だから、つい義妹いもうとに接するような感じで頭撫でてた」


そっと撫でるのを辞める。


「妹さん、居るんですか」

「あぁ、もう長くは生きられないけどな」

「そのために……ですか」


会話が途切れる。入ってくる風が頬を撫でる。髪がふよふよと漂う。


「作戦立てるか。どうすれば良いと思う」

「まず、二人という数の有利を生かせれば良かったんですけど…………」

「ガイコツのせいで依然として不利だな」


ミカがむうと唸り、髪の毛の先を人差し指で巻き取る。巻きとった髪を指から解放し、再び巻き取る。


「とりあえず、一回は攻撃してみないとなんとも言えないです」

「なら、行くか」

「場所分かるんですか?」

「ガイコツはアイツの周りから発生してたから、ガイコツ達がたくさんいる方に行けば会えるはずだ」



◇◇◇◇◇◇



「こっちに沢山いるぞ」

「本当にこっちであってるんですか」

「大丈夫大丈夫…………多分」

「今なんて言いました!?」

「なんも」


軽口を叩き合いながらも無尽蔵に湧くガイコツ達を切り捨てて行く。

ミカは精霊を呼び出し、それに命令することで攻撃をしているそう。ミカ自身の攻撃力はゼロらしい。


「精霊はなんて名前なんだ?」

「全員で五人いて、炎の精霊が『ファル』、水の精霊が『ウォル』、風の精霊が『ウィル』、土の精霊が『ソイル』、雷の精霊が『エレル』ですね。名前を間違えちゃうと拗ねちゃうんです」

「そりゃ難儀だな。それにしても名前似てんなぁ」

「ええ、でも皆可愛いです」

「そっか……………………居た」


俺の視線の先には地面に座り込んでいる志々雄モドキが居る。


「俺がアイツの注意を惹き付けるから、魔法で殺っちゃってくれ」

「巻き込まれますよ」

「大丈夫。『魔力結界』これで防げるから」

「………………ジョブ交換しても良いですか?」

「ダメ」


剣を抜いて、『魔法付与』で攻撃力を上げつつ接近する。

周りにはガイコツもいない。志々雄モドキの周りからガイコツが湧いていないのを見ると、任意で能力をオフにしたり出来るようだ。


視線をミカに送る。ミカもそれに気付き、精霊を呼び出した。精霊もヤル気十分と言った感じで、彼女の周りを飛び回っている。


剣をテイクバックし、走り出した。初級魔法を連発し、牽制しながら斬りかかった。


「セアアアアッ!」


男はようやく気付き、立ち上がって逃げようとしたが、俺の剣が届く方が速かった。男は剣の餌食になり、付与された炎の魔法によって燃やされる。背中を向けて逃げる男の髪を掴み、羽交い締めにした。


「ミカ!」

「ウィル、『ウィンドウスピア』」


不可視の槍が形成され、ミカの髪と着ているローブがたなびく。勢いよく射出された槍は過たず男を貫いた。


殺ったか?


俺の予想とは反し、魔法のダメージが通っていなかった。


「テメエ……その女寄越せえ! 」

「なんで死んでねぇんだよ!」

「なんでだろうなあ!」


男は最終奥義を再開したのか、周りからガイコツが湧いてくる。後を追おうとする俺を、何体ものガイコツが取り押さえる。


「ミカ、逃げろ!」

「逃がさねえよ!」


上にのしかかるガイコツを斬り飛ばし、男の後を追った。次の男を視界に捉えた時は、倒れたミカの上に座っている姿だった。


「オレのストライクから外れてっけどまあ良いか。オラ、服脱げ」

「何してんだよ」

「ああ、もう来たのか。おっと、近づくんじゃねえぞ。来たらこの女殺すぞ」


何か手は無いのか。何か無いのか。


「リトさん。私のことは良いですから、逃げてください」

「君を置いて逃げれるわけないだろ!」

「女を置いて行けばテメエは見逃してやるよ」


どうにかしてミカとアイツを引き離すか。


いや、考えろ、俺。俺の目的はリコを助けるためだ。このデスゲームで一時の協力関係の敵を助ける為に命を懸けるのか。そんな馬鹿なことはしない。なら、ミカを見捨てて逃げるべきだ。


そうだろ、俺。


唇を噛み、ミカに背中を向けて、走り出した。


「ざまあねえなあ! オメエを置いて逃げていきやがったぞ、あの男。魔法は使えないように口は塞いどくか」

「んむううう!」


悲鳴を聞いて立ち止まった。リコを助けてどうする。もし、俺がリコと同い年の子を見捨てたと知ったら、俺は軽蔑されるかも知れない。兄としての前に、人間として、軽蔑されるかも知れない。そしたら、俺は孤独になってしまう。リコが身近に居るのに孤独になる。二度と口を利いてくれないかも知れない。それだけは嫌だ。


「『魔法付与・フレイムカーテン』」


剣を逆手に持ち、上体を少し反らす。剣を上体よりも後ろへ。左足を前へ、右足に体重を。一気に上体を前へ倒し、右足から左足に体重を移動させる。腕を鞭のようにしならせ、剣を投げ飛ばした。


剣の切っ先が風を切り裂く音が飛んで行く。剣が男の胴体を貫くも勢いは衰えず、男の背後にあった倒木に突き刺さる。その隙に、ミカの手を引き、剣を回収する。


「逃げるぞ!」

「なんで助けに来たんですか!?」

義妹いもうとに嫌われたくなかったからだ。それに、後悔すると思ったから」


ミカの方を向くことなく叫ぶ。


「もうちょっと速く走れるか」

「無理です。速すぎます!」


剣を鞘にしまい、ミカの方を振り向いて体を抱き込んだ。抗議の声を無視し、肩に担ぎ上げた。そのまま走る。


「揺れるけど我慢しろよ!」


俺らは這々の体で先ほどの洞窟へ逃げ込んだ。



◇◇◇◇◇◇




「ごめんな。一度見捨てて」

「もう一度聞きますけど、なんで私を助けたんですか。ただの協力関係である敵なのに」

「さっきも言ったろ。義妹いもうとのためだ。それに、後悔したくなかった」

「もし、立場が逆だったら私は見捨ててますよ」


ミカは怒っているようだが、リコが怒っているようでそこまで怖くない。


「一つ気になったんだけど、ミカの精霊が攻撃しただろ。その時の攻撃は当たったんだけど、ダメージが入っていなかったんだ」

「それはおかしいですね。確かに当たりましたけど」

「あぁ。つまり、男は魔法が効かないことになる。ジョブの特性かスキルの効果はわからないけど」

「なら物理攻撃で倒すしか無いですけど」

「近づくにはガイコツの群れを突破しなきゃだもんな。今度こそ逃げられなさそうだ」


どうやって物理攻撃で殺すか。俺の剣だと一発では殺し切れない。やはり遠くから攻撃できる魔法を利用するしかない。


「あ、そういえばこの世界って物理法則が適用されてるんだ。だから、それを利用して殺せるかも知れない」

「⋯⋯だとしたら、『ウィンドウバースト』って魔法が使えそうです。攻撃力はないんですけど、任意で発動できて吹っ飛ばし力がすごくて」

「なら、それを地面とかに設置して、落下死させるか。そうと決まれば、早速やるか」

「でもどうすれば誘導できますかね」

「アイツの女への執着を利用すれば良いんだよ」


執着? と首を傾げるミカの頭を撫でる。やはり心地良い。ただ、この作戦はミカを危険に晒す必要がある。これが通用するのは一回まで、バレたらもう逃げ出すしかない。


「危険な賭けになるけど、やるか?」

「⋯⋯⋯⋯やります!」


俺は作戦をミカに話した。



◇◇◇◇◇◇



準備は整った。あとはアイツを見つけて罠の方に誘導するだけだ。あとは男を見つけるだけだが、それも簡単だ。先ほどと同じように、ガイコツがより多い方に向かっていけば良いだけだ。


すると、歩いている男を見つけた。


「おい、何探してんだ」

「あ、テンメエ、女はどこにやった」

「後ろだよ」


そう言って親指で俺の背後を指す。


「オレを怒らせやがって、今度こそお前の目の前であの女をブチ犯してやるよ」

「ご自由に。オレは助命嘆願しに来ただけだからな」

「ああん?」

「お前を殺すには一人ではできない。なら協力して、人数の有利を活かしそうと思っても、あんたはガイコツを無限に生み出せる。もうお手上げだ」


そう言って両手を上げ、降参の意を示す。


「信用ならねえな」

「そうか。なら、ほれ」


腰に帯びてある鞘から剣を抜き、男の前に放り投げた。


「これでどうだ」


それを見た男は鼻を鳴らし、俺の横を通り過ぎた。見逃すというサインだろう。俺は放り投げた剣を拾い、どうなるのかを確かめるために後を追いかけた。


男はミカのいる洞窟付近まできた。作戦通りならミカもそこにいるはずだ。

俺は木の影に身を隠し、事態を観察した。


「なんであなたがここにいるんですか! リトさんが倒してくるって言ってたのに!」

「アイツなら俺に命乞いしたぜ?『女を置いていくから自分だけは』ってな。オメエは見捨てられたんだよ」


いい終わり、下品に笑う男。


「裏切ったの⋯⋯?」

「そうだよ。オメエは今夜からオレの性奴隷になんだよ!」


宣言し、ミカに走り寄った。瞬間。


「『ウィンドウバースト』」


男の足元が弾け飛び、空高く飛んでいった。それを見て、俺は木の陰から顔を出し。


「作戦成功!」

「やりましたね。リトさん!」


俺は裏切ったわけではなく、そういう演技をしたのだ。男を完璧に騙すために。

男が飛んでいく直前の足元には百個近くの『ウィンドウバースト』を仕込んでいたのだ。


「しっかし、ミカって演技上手いんだな。「裏切ったの⋯⋯?』って言った時の顔見て、すげー罪悪感湧いたもん」


話し合っていると、ガイコツたちが空へ手を伸ばし、受け止めようとしている姿が見えた。それらが塔のように伸び、受け止めようとしている。無駄だ。なんせ『ウィンドウバースト』の一個で三メートルぐらいは宙に飛ばされるのだ。百個近くあったら、約三百メートル。いくら下でガイコツたちが受け止めようとも、助かる道理は無い。



「ぁぁぁぁぁぁあぁああああぁああああ!!」


上から絶叫が聞こえてきた。男は叫んだまま、受け止めるガイコツたちを突き抜け、地面に激突した。血飛沫のようにライトエフェクトが盛大に散る。


その時、太陽が地平線から顔を出した。その眩しさに、手を顔の前にかざす。ガイコツたちは男が死んだことにより、塵となり、風に吹かれて消えていった。


俺たちは、生き残った。

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