第3話 今日来たれり
「はぁ〜」
私はとびきり大きな欠伸と登り始めた太陽と共に目を覚ました。
今日は待ちに待った双子のお世話当番の日!
遂にあの宝石を盗めると思うとワクワクが止まらない!
『いつもは大嫌いなこの国に対しても愛国心を抱きそうな程だよ!』
お前は今日この日の為に生きてきた。
そう誰かに言われても信じてしまいそうな程、今日を私は待ち望んでいた。
「…楽しみ♪」
口端が自然と上がる。
『あの宝石とすり替える用の偽物も袖に忍ばせてある。』
準備は万端。
いざ、双子の部屋へ…!
右手首軽くコンコンと扉を叩く。
「おはようございます。楓様、心結様、起床のお時間でございます。」
寝起きのお二方はとにかく面倒くさい。
まず、楓様。
「楓様、心結様。お返事が無いようなので入られて頂きますね。」
私が部屋に入ると枕が一つ、顔にクリティカルヒットした。
「貴方…返事も待てない訳?部屋の扉は勝手に開けないで下さいよ…」
眠気眼を擦りながら怒りの滲む声でそう言う。
楓様は基本常に侍女・侍従にも礼儀正しいのだが、起床してからの三〇分程はとにかく怒りっぽくなるのだ。
「うっさ…てか、眩し過ぎるんですけど〜。カーテン全開にすんの止めてくんなぁ〜い?」
ギャル口調で文句を言うのは心結様だ。
「あ、ご、ごめんさい…あんな風に言うなんてぇ…マジで私馬鹿過ぎ…」
と言う風に〈怒る→泣き〉のような感じになってしまうのだ。
勿論、心結様も起床から三〇分程で元に戻られる…らしい。
『他のメイド達から聞いてはいたけど…話よりも大分カオスなんだけど…』
私はニコニコと笑いながら「申し訳ございません」と「そんなことございませんよ…」の二つの言葉を延々と言い続けること三〇分…
『やっと…お二人が正気に戻られた…!』
本当に起床から三〇分ぴったりで二人は正気を取り戻した。
三〇分経過すると二人は、「あ…すみません…また、非の無い方に怒ってしまった…申し訳ない……」と楓様が言い。
「マジでごめんなさぁい…私、朝起きるとしばらく情緒不安定なっちゃうんだぁ〜…ごめんね!本当!」と悲しげに心結様は謝った。
『…嘘、だな。』
私は人が嘘をついているか、そうじゃないかを見分けられる。
小さい頃、私は父から男として育てられた。
その時に金稼ぎの道具として、父の代わりに賭博場へ通っていた時期がある。
父から教えられた技術と嘘つきを長年間近で見てきたことにより、誰よりも嘘の見分け方には自信がある。
この二人は俯き、声のトーンも申し訳なさそうに見えるが、瞳孔が先程よりも明らかに開いている。
そして…ここ数日間二人をみて来て分かったことがある。
まず、楓様は嘘をつく際に右手で首の後ろを触る癖がある。
次に心結様は嘘をつく際、左人差し指の第二関節を口に軽く当てる癖がある。
今、お二人がしている動作に当てはまる。
結論。
お二方は嘘をついている。
まあ、実際どこから嘘かは分からない。
謝罪が嘘なのか、はたまた私が部屋に入ってからお二人がとった一連の動作全てか…
とにかく、こんな嘘の謝罪はしてもらっても意味が無い。
「いえ、大丈夫です。そんな(嘘の)謝罪も、要りません。」
私がそう言うと、お二人方は何かに驚くように目を見開いた。
『謝罪を断られたのが、そんなに衝撃だった?でも、双子の信者化してるメイド達なら慌てて「滅相もございません…!」とか言いそうなものだけど…』
私は少し不思議に思いながらも双子の世話をした。
髪を梳かし、お二人のお洋服を見繕い、お顔に軽くメイクを施し、雑談をする。
コレが他のメイド達から聞いた朝に私がやるべきことだ。
『──あの宝石は、飾り棚の上か。』
ターゲットの位置は頭に入れた。
雑談の後、お二人食堂へ行き朝食を摂る。
私はその間に部屋を整えるのだが…
『そこがチャンスよね。掃除をする隙に宝石を偽物と摩り替える…』
考えるだけで胸が高鳴る。
「終わりましたよ。」
私はメイクを終えて、お二人にそう声をかける。
「ありがとうこざいます。」
「ありがとぉ〜」
お二人はそれぞれ私に礼を言う。
『基本的には、お二人共礼儀正しいんだけどな〜』
さっきは何故嘘をついたのか…
不思議で仕方がない。
私がそう考えていると、心結様が私に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、私ぃ〜質問があるんだぁ〜」
「…なんで御座いましょう?」
私はにこりと笑いながら機械的に返答をする。
「ねぇ、何で君さぁ〜…
周りの子達と、違うの?」
私は少し固まった。
「…どういう意味でしょう?」
私は動揺を悟られぬよう、必死に笑顔を作る。
『宝石の力が聞いていないのがバレた…?』
『バレたなら一体どこで?』
『不自然なところはなかったか?』
『思い出せ。』
『思い出せ思い出せ…!』
私は脳をフル回転させた。
バレたなら、誤魔化し通す…!
「…」
心結様はしばらく黙ったあとに底抜けたように笑う。
「プハっ!ごめ〜ん!貴方が知り合いとよく似てたからさぁ〜、ついつい遊んじゃったぁ〜♪」
「ごめぇーんね?」と悪びれもなく心結様は言う。
『そう、似てる。〝彼女〟にそっくり。髪の梳かし方も、その作り笑いも…』
それから、心結様と楓様は食堂へとお行きになった。
「さぁてさて、お楽しみの時間がやーと来た!」
私は満面の笑みを浮かべる。
箒で掃き掃除をしながら少しづつ、少しづつ、あの宝石へと近づく。
『もう、少し…』
なるべく近づく。
腕を伸ばすと、その分だけ時間がかかってしまう。
『やるなら、一瞬でやる…!』
ハタキを持ち、宝石へと近づき…
『今!』
手首を捻り、袖に潜ませた偽物を取り出し、流れるように取り替える。
『…よし!』
「なぁ〜にが、良しなの?」
声に驚き振り返る。
「――心結、様…」
神武椿の裏事情 有栖川 花音 @arisugawacanon
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