第2話 奉公人と奴隷姉妹
ここは男性主義のイカれた思想を掲げる国。〈ストック〉
そんな国のとある屋敷に私は居た。
ジャラジャラと、金属の鎖が揺れる音が鳴り響いている。
私は椿。この屋敷の
メイドと言っても給料が出る訳では無い。
まだ奴隷よりかはましと言う程度の扱いだ。
この国で、女性の人権はほぼ無いに等しい。
奴隷制度も認められ、奴隷売買がショッピングモールの目玉になっていることも珍しくは無い。
私は部屋の汚れを目立つものから順に、綺麗に掃除をしていく。
奴隷に成らなかっただけまだましだと思わなければならない。
だって、奴隷に落ちた女性の中には酷い扱いを受けて自害を選ぶ人も少なくは無いのだから…
掃除が終わると、この屋敷の主人がご帰宅なさった。
メイドと侍従が扉の前にずらりと並びご主人様をお出迎えする。
ご主人様は新しい奴隷を連れてきた。
神秘的な髪と瞳の色をした双子の奴隷だ。
ご主人様は双子が家に入るとすぐに奴隷の証とも言える首輪を外した。
屋敷の皆、騒ぎ出した。
奴隷の首輪を自分好みの物や邪魔にならない物に変えるのはよくあるが完全に外すのは【奴隷解放】とみなされて罪に問われる可能性も有る。
貴族男性でも最悪の場合処刑されてしまう。
貴族出身の侍従長がご主人様に皆の代表の様に進言した。
「旦那様。奴隷の首輪を外すとは、その行動の意味を理解しておられるのでしょうか?」
他の侍従たちも侍従長に続き意見を述べる。
「旦那様!我々は旦那様に罪人になってほしく有りません!」
「何故奴隷の首輪を外すのですか?!」
『よく言うよ。奴隷なんてやってる時点で非人道的過ぎると思わないのかねぇ…』
そう思っても口には出さない。
出せば、簡単に首が飛んでしまうもの。文字通りね。
ご主人様は無言でその豊満な髭を摘んでいる。
その様子を見ていた奴隷の片割れが溜め息を着き、懐からサファイアの様な濃い青の宝石を取り出した。
その奴隷が何かを呟くと宝石が眩い光を放った。
するとその一瞬、空間が光に満ちた一瞬だけ場が静まり返った。
その後再び上がった声はご主人様への賞賛の声だった。
奴隷を解放した事への賛同の声と双子奴隷達への好意的な言葉の数々がメイドや侍従から発せられた。
ご主人様も満足気に頷き、私は唖然といていた。
この国では最底辺の存在として扱われる奴隷に皆いきなり好意的になった。
侍従達の意見もいきなりひっくり返った。
『あの宝石、一体何?まるで…そう、御伽噺に出てくる魔法みたい。』
今、私だけがあの奴隷達に疑問を持っているのだろう。
私がそんな風に唖然としていると、ご主人様が奴隷達と肩を組み言った。
「2人の事は我が亡き息子と同じ扱いをしようと思っている。2人も、それで良いか?」
ご主人様が2人へかける声はとても優しい声だった。
本来なら奴隷、しかも女の子がご子息と同じ扱いを受けるだなんて普通は許されない事だが屋敷の者は全員快く承諾していた。
そしてその日は数人のメイドを連れ元・奴隷の双子は屋敷で2番目に上質な部屋に通された。
私は双子の片割れの持っていた宝石についてとても気になり、あの双子へ向けられる感情(嫉妬や好感等)とあの宝石の事についてその場に居た使用人達にそれとなく色々と聴いてみる事にした。
あれから数日間聞き込みを続けご主人様にもお世話の際少し聞いてみたが、皆双子への好感度が異常に高くなっている様だった。
ご主人様の奴隷解放とも見える行為によって2人への好感度はマイナスから始まったにも関わらず、人によっては忠誠心さえ感じられる言動の者も居た。
そして何よりも不可解なのが、誰一人としてあの宝石を見ていない…覚えていないのだ。
あんなに徐ろに出されていたのにも関わらず誰一人として、だ。
『きっと双子へのあの異常な好感度は例の宝石せいね。』
私はあの宝石を盗む事にした。
悪い事だし今の屋敷であの2人の物を奪うのは屋敷中の人を敵に回しかねない危険な行為だが、恐れは無かった。
それよりもあの宝石に私はとても強く惹かれていた。
胸の高揚感。
このトキメキ…
あの双子以外はどんなに堂々と置かれていても宝石に気づいていなかった。
つまり、私とあの双子以外は誰もあの宝石が見えていない。
幸いにも明日は私があの双子のお世話をする当番の日。
盗むのには絶好の日だ。
『ふふふ、明日が待ちどうしいよ♪』
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「…この屋敷に居るはずなのだけれど、全員宝石の魔法に掛かっている様に見える。」
口元を手で隠しながら緑髪の元・奴隷「
「ねぇねぇ、本当にこの屋敷なの?エルラッテ〜私にはこの屋敷に〝彼女〟が居るとは到底思えないよぉ」
少し拗ねた様な表情でそう言う桃色の髪が特徴的な彼女は同じく元・奴隷の「
「宝石にも誰一人気付いてる様子なしいさ〜」
「でも、この屋敷から彼女の心の波動がするんでしょ?」
そう楓が聞くと眉をひそめながら心結が言った。
「そうなんだよ〜、とりあえずこの屋敷内に居るのは間違いない!って位近い距離から波動がするんだよね…」
おかしいな〜と言いながら心結は首を傾げる。
「まあ、何にせよこの屋敷の人々全員と話せば分かるでしょ。」
「そだねー!居なかったらまた別のとこ探そ〜」
双子の声と共にその夜は省けて行ったのだった。
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