神武椿の裏事情

有栖川 花音

第1話 不思議な夢

タンッ!タンッ!

『不思議な夢を見た。』

甲高いヒールの鳴る音と、白いマントを見た。

真紅の髪と桜色の頬。

愉快に笑うその口は、見覚えはあるけれど思い出せない。

『ねぇ、君は誰?』

そう問い掛けても誰も答えない。

だけど、彼女の声だけは耳にこびりついて離れないのだ。


 ⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ 


昔、日本という国を移民族が乗っ取った。

それからその国は〈ストック〉と呼ばれ、男尊女卑の温床のような場所となった。

女は奴隷か奉公人メイドとなり、酷い扱いを受けた。

男は史上、女は家畜。

そんな国は闇だらけ。

けれど、闇があるなら光も等しくあるものだ。


が現れた!」

「今度こそ捕らえろ!」

その昔、夜空を舞う一人の女が居た。

白いマントに花の模様。

舞い散る花弁は彼女を讃える紙吹雪。

世間が唯一注目した平民の女。


「空前絶後の大怪盗とはわたくしの事。」


自信に満ちた美しい声が夜空に響く。

はためく髪のなんと紅いことか。

彼女は王の住まう城の頂上で胸に手を当て、騎士のように敬礼し、静かな声で言葉を紡ぐ。


「今宵、略奪されし秘宝を頂きたく参上致しました。」


そして、ゆっくりと目を開け、前を見据えて声高らかに宣言した。


「この国、返して頂きます!」


彼女は不敵に笑うと、まるで幻だったかのようにそこから消えた。

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