第2-3話 これって転生ですか?

 数分後、少女は片手で目を隠しながら、静かに服を差し出した。


「服を着ている間、後ろ向いてるから……終わったら教えてね」


「ありがとう……」

 俺は、先程の出来事を思い出し、再び顔が赤くなるのを感じながら服を受け取った。

 自分の不甲斐なさが胸にひしひしと迫り、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 幸い、身体は少しずつ調子を取り戻しており、着替えに手間取ることはなかった。


「終わったよ…」


 俺が声をかけると、少女はゆっくりと後ろを振り返り、安心したようにホッと息を吐く。

 少し歩み寄ってきた彼女が名を名乗る。


「ボクはサリサ。君の名前は?」


「俺は零路。空見零路だよ」


 良い名前だね、とサリサは微笑んだ。


「君がどうしてここにいるのか、詳しく話すには時間がかかるけど、簡単に言うと……君は……一度死んだんだ」


 サリサの表情がわずかに曇る。


「俺が……死んだ……?」


 耳を疑うような話だったが、サリサの目は至って真剣だった。


「そうだよ。君はボクの降下ポッドに巻き込まれて……命を落とした」


 サリサは少し悲しげに目を伏せる。


「降下ポッド……?サリサは――空から来たのか?」


「正確には――宇宙からかな。零路たちの言語には『宇宙』という言葉は無いかもしれないけど、この宇宙船の即席学習で、零路は理解できるようになっているはずだよ」


 宇宙、という言葉は初めて聞いたが、なるほど確かに。

 サリサの言う通り、不思議とその概念は頭に浮かぶ。


「宇宙船ということは、他にもエヴォルピアのような場所があって、サリサはそこから来たってことか?」


 サリサは驚いたように目を見開き、すぐに大きく頷いた。


「すごいよ、零路!即席学習でそこまで理解できるなんて!」


 サリサの褒め言葉に照れくさくなりながらも、俺は少し誇らしげに胸を張った。


「話を戻すね。確かに、ボクは月から来た月の民ルナ・ルゥだよ。君たちのことは、こちらでは地の民エヴォ・ルゥと呼んでる」


「へぇ、月か……故郷のおとぎ話で聞いたことはあったけど、まさか本当にいるとはな。おとぎ話では、月の民は『月の兎ムーン・ラビット』って呼ばれていたな」


「月の兎?何だか可愛らしいね?」


 サリサは上品に口を押さえながら笑う。


「こっちじゃ、月の模様が兎に見えるらしくてね。実際、サリサにも可愛らしい耳みたいなのが生えてるじゃないか」


「ああ、これは魔力器官ミューテル・マグっていうんだ」


魔力ミューテルの呼び方は一緒なんだな」


「そうなんだ。でも、前の零路の身体には魔力器官が生えていないようだけど………」


「前の身体……?」


 俺は改めて自分の身体を見る。

 ここでようやく、違和感の正体に気が付いた。


「俺、こんなにがっしりしてたっけ……?」


 普段より視界が明らかに高く、体格もかなりがっしりとしている。


「えっと、少し説明させてね……?」


 サリサは数秒ほど沈黙した後、深く息を吸って話し始めた。

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