魔王流妖魔退治のやり方~平和を脅かすものには一切の容赦はせぬ~
あくはに
第1話 魔王転生
「本当にするのかい?」
神々しい鎧を纏い、腰には見るものを圧倒する程の神聖さを放つ剣を提げた青年―――勇者が正面に立つ者へと問いかける。
「くどい。今更、変えるつもりはない。何より、この方法が最善の一手である以上、実行しないなんてことは有り得ん」
そう答えるのは、漆黒と深紅を基調とし、金の刺繍が施された豪奢で威厳のあるローブを纏った青年―――魔王だった。
「そっか。寂しくなるね」
勇者が魔王の答えを聞き、彼らしい答えだと笑うも、その顔には悲しさも含まれている。
「クハッ。お前にそのような顔をさせたとアイツらに知られたら、嫉妬の炎で焼き滅ぼされてしまうな」
寂しそうな勇者と違って、魔王は勇者の妻達に嫉妬で滅ぼされてしまう。と笑っているのだった。
「アイツらに滅ぼされる前に、俺は逝くとしよう」
魔王はそう言って、心臓の位置に球体魔法陣を展開する。
「さぁ、来い」
魔王の言葉と共に勇者は腰の剣を抜き放ち、自らの魔力を高め、聖剣に集める。そして、球体魔法陣と魔王の心臓を貫く。
瞬間、魔王の足元に巨大な魔法陣が現れ輝き始める。
「さて、俺の命も残り僅かだ。俺は特に言い残すことは無いからな。お前から俺に言うことはあるか?」
魔王は、心臓を聖剣で貫かれているにも関わらず、自らの両足で揺らぐことなく立ち勇者に問う。
「この世界を代表してお礼を言うよ。ありがとう。君のお陰で世界は救われる。本当にありがとう。そして、さようなら。僕のたった一人の親友」
勇者は、たった一人の親友との永遠の別れに涙を流しながら友の魂に転生魔法を施す。
「あぁ、さらばだ。我が生涯でたった一人の親友よ。この世界はお前に、お前達に託したぞ」
魔法陣の放つ光が徐々に強くなり、それに伴い魔王も足元から次第に消えていく。
そうして、2人は無言で熱い抱擁を交わし、ただ一人の友との別れを惜しむ。
そして、魔王は完全に消滅する。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
日本にて、この日、一人の赤子が生まれた。
「
助産師の一人が赤子の父親を呼びに外に出る。
しばらくすると、父親らしき人物が勢い良く入って来る。
「絢香!理空は無事に産まれたか!?」
絢香と呼ばれた女性は口の前に人差し指を立てシーと静かにするように注意する。
「す、すまない」
絢香は静かに微笑んだ。
「大丈夫よ。理空は元気に産まれてきたわ。」
理空の父、浩一はホッとしたように息をつき、絢香のそばに駆け寄る。
彼は、妻の無事を確認できたこと、そして何より無事に生まれた我が子のことが嬉しくてたまらなかった。
「ありがとう、絢香。ありがとう、理空」
浩一は小さな手を握りしめ、深く息を吸い込んだ。その目には涙が滲んでいる。
赤子を抱き上げた絢香は、浩一の元に理空を差し出した。小さな命が無垢な瞳をきらきらと輝かせて、両親を見上げる。その小さな姿が、どれだけの希望と愛を凝縮しているのか、浩一には言葉にならないほど感じられた。
「理空、お前が元気に生まれてきてくれて、本当に良かった」
浩一は深く息をつく。
「お前がどんな未来を歩んでいくのか、今はまだわからないけど、きっと素晴らしい人生が待っている。お前には、どんな時でも愛があるってことを忘れないでほしい」
浩一は理空を見つめながら、絢香に微笑んだ。
「ありがとう、絢香。こんなに素晴らしい子を産んでくれて。本当にありがとう」
絢香も微笑んで、柔らかい目を息子に向けた。
「こちらこそ、浩一。理空が無事に生まれてきてくれて、本当に嬉しいわ。でも、これからが大変よ。赤ちゃんの世話は思ったよりも手がかかるから」
浩一が笑いながら答える。
「それは覚悟しているさ。二人で力を合わせて、理空を育てていこう」
そう言って、もう一度理空を見つめる。その目には深い愛情と未来への決意が宿っている。
その後、病室はしばらくの間、温かな静けさに包まれていた。理空の寝息が微かに響き、両親の顔には安堵の表情が広がっていた。
しかし、絢香の顔には少しの不安も見え隠れしていた。
「浩一…」
絢香がぽつりと言う。
「理空には、きっと何か特別な力が宿っていると思うの」
浩一は驚いたよう目を見開き絢香を見つめる。
「特別な力?」
絢香はうなずき、少し悩むように言葉を選んだ。
「最近、どうも理空が産まれてくる前に、不思議な夢を見たの」
浩一は少し警戒しながらも、興味深く耳を傾ける。
「それは、一体どういう夢なんだ?」
絢香は深呼吸をしてから、ゆっくりと語り始めた。
「夢の中で、2人の青年が出てきたの。一人は騎士みたいな鎧を着けて、もう一人は黒色のローブを纏っていたの」
それからしばらく絢香は二人の青年の交わした会話の内容を詳細に語る。
「そして、ローブを着ているの方の青年が消えると同時に私の目の前に理空が現れて夢は終わったの」
絢香の話を聞いた浩一はしばらく黙って考え込んでいた。彼は絢香の話す内容が、ただの夢だと片付けるにはあまりにも重く、現実的なものに感じた。
それに、この世界での夢は詳細になればなるほど、ただの夢だと馬鹿に出来なくなってくるのだ。
しばらく黙考した浩一はゆっくりと絢香の肩に手を置き、優しく語りかけた。
「例え、理空に特別な力があったとしても、俺たちがしっかり支えていこう」
絢香はほんの少しだけ笑い、彼の手を握り返した。
「ありがとう、浩一。でも、私たちの力だけではどうにもならないかもしれない。それが怖いの」
「それでも、二人で力を合わせれば、きっと乗り越えられる」
浩一は自信を込めて言った。その言葉に、絢香は深く頷いた。
この時はまだ誰も予想していなかった。
理空が生まれたその瞬間、すでに大きな物語が動き出していたことに。
魔王流妖魔退治のやり方~平和を脅かすものには一切の容赦はせぬ~ あくはに @Akhn496
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