関西遠征合宿

 カクキタ戦の翌週に開催された第2節――東美濃太田ひがしみのおおた総合高校との試合も3-0で勝利した。東美濃太田はカクキタほど攻撃に出てこず、守りを固める戦法であったため前半は攻めあぐねたが、またしても後半20分頃から交代で入った遥と誠のオフェンシブコンビによって堅い守りをこじ開けゴールを奪取した。それを皮切りに追加で2点を奪い試合終了という展開だった。


 ◇


「――皆さん、お疲れさまでした。リーグ戦2戦を終えて、暫定2位につけています――首位が帝嶺可児であることを考えれば、最高のスタートと呼んで問題ないでしょう」


 第2節の翌日――つまり、春の大型連休が目前に迫ったある日、部室に集まったサッカー部員に対して数原がねぎらいの言葉を投げかける。


「すでにご存じの人もいるかもしれませんが、5月はインターハイ予選がある関係でリーグ戦は一時中断となります」


 数原の話す通り、岐阜県では5月にインターハイ出場校を決める県予選が開催される。4月の下旬からゴールデンウィークの間に地区予選が行われ、各地区の代表校とG1リーグ所属の9校によるトーナメント形式の大会だ。

 前述のとおり、G1リーグに所属している場合は地区予選が免除され、いきなり本大会のトーナメントからシードとしての参加となるというわけだ。


「昨年までであれば、ちょうど今頃インターハイの西濃地区予選を戦っている最中でしたが、今年は予選免除のシード参加となるため……我々の次の試合は最短でゴールデンウィークの翌週、トーナメントの割り当てによってはさらにその翌週となり少し間が開いてしまいます」


 数原はそう前置きをし、部員たちを見渡しながら言葉を続ける。


「そこで――とある伝手を使いまして、関西の強豪校と合同で練習試合を組んでもらうことができました。そのため、このゴールデンウィークを使って関西に遠征します」


 その言葉に部員からは『遠征!?』『マジか!』等といった驚きの声が上がる。


「すでに旅館等も手配してあります。初日は午前中に移動、午後から3校合同での練習試合を行う予定です。2日目はまた別の高校と練習試合を行う予定です。タイトな日程ですので、疲労等を考慮しながら全員に出場いただきたいと思っています」

 

 未だざわつきが収まらない中で、凌が手を上げ質問をする。


「――すみません、移動はどうやってするんですか?」

「……そこなんですよね。学校に掛け合ってみたのですが、どうやらバスなどは出せないようです。ですので、申し訳ありませんが現地まで各自で移動をお願いします――もし新幹線等で移動する場合は、領収書をもらってきていただければ経費にできますので」

「……まじっすか」


 ジュニアユース時代はクラブのバスで様々な遠征を行っていた凌からすると信じられないような事態なのだが、実績のない公立高校のため仕方がない側面もある。


「詳しいことは今から配布する用紙に記載されていますので、こちらご覧ください」


 その用紙には遠征の工程表、対戦相手、集合場所、注意事項等がびっしりと記載されていた。遥はそれらを眺めながらどうやって現地まで行こうかと考えるのであった。


 ◇


 遠征の話があった日の夜、遥は楓と夕食を共にしていた。入学式の日以降、およそ週に1度の頻度で遥は楓と夕食を共にしている。というのも、楓は1週間分の食事をまとめて作り置きする習慣となっており、その作り置きを楓が食べきれなかった際に、遥の元へ持っていくという流れになっているのだ。

 今回も例に漏れず、楓の余った作り置きを遥が食していた。遥からしてみたらこの楓の料理がおいしいため、普段の料理があまりおいしく感じないという状態に陥っているのだが。


「そういえば七海くんはゴールデンウィークどうするの?実家に帰るの?」

「実はサッカー部で遠征合宿があるんだよね――」


 遥は数原からもらった用紙を楓に見せながら遠征について説明をする。


「――すごい、こんなこともするんだね!」

「今日、急に言われて僕もびっくりした――あ、ちょっと聞きたいんだけど――」

「どうしたの?」

「これさ、現地集合なんだけど……どうやって行ったらいいのかな?」

「……調べたらわかると思うけど――ってそうか、七海くんスマホ持ってないから調べられないのか!」


 そうなのだ。結局遥はスマートフォンを契約することなくここまで過ごしてきた。連絡が取りづらい等の不便さはあまり感じることのない遥であったが、調べ物ができなかったりするという点では不便さを感じ始めていた。

 そんなアナログな遥に代わって、楓が目的地までの行き方を調べてくれる。


「うーん、車じゃないとしたら電車、新幹線、電車って乗り継いでからのバスかなぁ――これナビなしで行くのは難しいかも」

「……電車はまだしも、新幹線は乗り方も切符の買い方もわかんないや……もしかして……まずい?」

「……かなり? あっ、ほかの部員の誰かと行くとか――って連絡ができないんだね……」

「……なんか……ごめん」

「――ちょっと待っててね」


 そう言って楓は立ち上がると少し離れたところへ歩いて行った。どうやら誰かに電話をかけているようだった。数分も経たないうちに戻ってきて、笑顔を浮かべながら口を開いた。


「お待たせ――私でよかったら一緒に行って案内するよ。といってもスマホのナビに頼るだけなんだけど」

「え!?いいの?――むしろ僕の方が土下座してお願いするレベルの話だと思うけど……」

「実はね、私の両親の転勤先がちょうど関西なの。お兄ちゃんは部活で忙しいみたいだから、私が関西に行くか、お母さんたちが戻ってくるかどうしようって話してたところだったから――むしろちょうどよかったのかも」

「――あなたが神か」

「あははっ――なんか前もそれ言ってたね」


 遥と楓は、お互いに笑みを浮かべあいながら関西へ出発する計画を話し合うのだった。

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