関西の龍
来たる遠征当日、遥は楓と共に関西に向けて移動を始めていた。大垣駅から米原駅まで在来線で向かう。途中の景色を見た楓が『――こっちの方はすごい田舎だねぇ』と呟いていたが、遥からしてみれば都会と呼べる
そして米原駅で新幹線に乗り換えると、そのまま終点の新大阪まで一気に移動した。そこから大阪駅まで電車で移動するところまでは順調だったのだが、さすがは日本第2の都市である大阪――まるでダンジョンのように複雑だった。
目的である阪神電車へ看板やナビを見て進んでいるのだが、なかなかたどり着かない。いくらか時間をかけて何度か地下へ降りて行ったところでようやくお目当ての電車に乗ることができた。ちなみに遥は大量の人、そびえたつ建造物、それから地下という人生で初めての体験をいくつもしたせいで若干酔い気味だった。
そのまま西宮駅まで電車で向かい、そこから更にバスで浜の方へ向かっていく。およそ15分程度バスに揺られたところで無事に目的地である西宮浜フィールドへ到着した。
グラウンド横のとあるスペースに見知った顔の集団を見つけたため、遥はとりあえず楓を連れ立ってそちらへと向かう。
「――遥!こっちだぞ……ん?」
近づいてくる遥たちにいち早く気がついたのはやはりと言うべきか、既に到着していた凌だった。
「……お前、なに女連れてきてんだよ……」
「いや、こちらは同じ寮の水瀬さん。僕、新幹線とか乗り継いで来たんだけど案内してくれたんだ」
「あぁ?そんなもんスマホのナビ見ながら来れば――ってそうか、お前スマホ持ってなかったな……」
「……うん」
「……せめて連絡くれりゃぁ俺たちの親の車で連れてってやれたんだが――それもスマホがねぇとできねえ……お前、スマホ買えよ……」
「……いやー、特になくてもなんとかなってるし……いらないかなぁって――」
「なってねぇんだよ!連絡したい側の俺等は困ってるんだよ!――今日だってお前だけ、いつどうやって来るのか知らなかったしよ――」
凌と遥の不毛なやり取りを半歩後ろで眺めていた楓だったが、さすがに口を挟む。
「……あ、あのぉ――私も何度か七海くんに言ってるんだけど全然買う気がないから無駄かも……。七海くんへの連絡を私にくれれば、寮とか近くにいる時は伝えられるけど――差し出がましかったらごめんね」
「いや、その方が助かる――後で連絡先を交換しよう。それはそうと、遥――水瀬さんどうするつもりだ?」
「ここまで来てもらったから、せっかくだし見ていってもらおうかなって思ってるけど……水瀬さんどう?」
遥は楓に尋ねる。
「……そうだね、見ていってもいいならそうしようかな」
「ちょっと監督に聞いてくるよ!」
遥は数原に事情を説明するとふたつ返事でオッケーが返ってきた。しかも、保護者たちとグラウンドの外で見ているのもかわいそうということで、ベンチに入って見てもらうことになった。
楓のことは同性である朱里に任せることとなり、遥たち選手はウォーミングアップを始めるのだった。
◇
今回、合同で練習試合を行うのは兵庫県の強豪私立である
「……さすが強豪だよな」
「あぁ、部員何人いるんだよって感じだな……」
同じくウォーミングアップをしている両校を見た誰かがそう呟いた。両校とも強豪私立であるため部員数は100人近くにもなる。その大群が一斉にウォーミングアップをしている姿は圧巻と呼んでよいだろう。
両校とも3軍まであり、なおかつ3軍にも入れないメンバーも多数いるという。総勢40人に満たない大垣高校サッカー部とは次元の違いを感じるのだった。
◇
「本日ですが、まず西宮国際と船橋光陵の試合が行われます。その後、西宮国際と、最後に船橋光陵と試合をします。試合は30分1本で交代等の制限はありません」
ウォーミングアップを終え、グラウンド横の拠点に引き上げてきた大垣高校サッカー部員に向けて数原が本日の段取りを説明する。
「おそらく我々にはセカンドチーム、あるいはサードチームが出てくると思いますが――それでも十分強いため胸を借りる気持ちで臨みましょう」
「「「はい!!!」」」
「また、今回はインターハイ予選の練習も兼ねるため、リーグ戦メンバー以外の皆さんも試合に出てもらいます」
大垣高校サッカー部の目標はあくまで東海プリンスリーグへの出場であり、インターハイや選手権への出場ではない。そのため、次に待ち受けるインターハイ予選では連係の向上や選手の才能開花を主目的としており、勝利は絶対条件ではない。
そのため、今回の練習試合においてもインターハイ予選で勝つための調整ではなく、その先のリーグ戦を見据えたものになる。
「スターティングメンバーやフォーメーション、作戦等は試合前にお伝えしますので――まずは強豪同士の試合を見て、そこから様々なことを学び取ってください」
「「「はい!!!」」」
数原がそう言うと、一旦解散となった。遥は近くにいた新太と一緒に西宮国際と船橋光陵の試合を観戦することにしたのだった。
◇
両校のプレーはさすが強豪というべきだった。デザインされた――再現性の高い連係プレーが随所に見られ、それを行う高い技術を全員が有していた。
「――上手いな」
「そうだね……飛び抜けた選手がいるわけじゃないから――組織力が高いんだろうね」
「だよなぁ――ん?誰か交代で入ってくるのか」
試合が終盤に差し掛かったところで西宮国際が選手を入れ替えるようだ。
「うわ、派手だねぇ――」
遥がそう呟いたのも無理はなく、交代で入ってきた選手は金色に脱色した髪をオールバックにしているという出で立ちだった。
彼は右のウイングに入ると早速ボールが回ってくる。そこからは衝撃の連続だった。
まるで磁石か何かでボールと足がくっついているかのような超絶テクニックを駆使したドリブルで船橋光陵のディフェンス陣を切り裂いていく。
そのままカットイン気味にドリブルをし、最後は逆デルピエロゾーンから左足のインフロントで巻くシュートを放ち、ゴール左下に吸い込まれていった。
彼の投入で試合は一変した。両チームとも、それまでの秩序あるプレーは見られなくなり、代わりに彼の個人プレーがすべてを蹂躙した。
「あいつ、すげぇな」
「そうだね――何者なんだろ、彼」
遥と新太が金髪の彼を見ながらそんな話をしていると、後ろから『彼を知らないのなんてサッカー部の中であんたたちくらいよ』と少し呆れ気味の声を掛けられた。
ふたり揃って振り返るとそこには朱里と楓がいた。
「あいつ、有名人なんすか?」
「有名もなにも、君たちと同い年の世代別日本代表――
新太の問いに朱里がそう答える。
「たしかに……主張激しそうですもんね」
「た、たしかに」
遥と楓も、彼が監督と反りが合わなさそうというところに同意する。
「見た目の通り派手だし、プレーも目立ちたがり屋そのものよ――」
「ふーん」
新太は改めて龍輝のプレーを眺める。
「……君なら彼を止められる?」
「――実際にやってみないとわかんないですけど、止めてみせますよ!」
「期待しておくわ――といってもさすがに
新太は朱里の期待へ応えるために龍輝を止めるイメージトレーニングを始めるのだった。
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