第1節 〜 vs 各務原北高校 後半パート1
ハーフタイムとなり、ピッチからベンチに引き上げてくる選手を数原は拍手で出迎える。
「皆さんお疲れ様です――すばらしい前半でした」
数原の言う通り、大垣高校の前半は完ぺきと呼んで差し支えないほどの戦い方だった。作戦としていたカウンターで2得点を奪い取る――数少ないチャンスを確実にものにした結果だった。
「後半も引き続き同じメンバーでいきますが、この状況が続けられるようであればどこかのタイミングで交代していきますので――皆さんその心づもりでお願いします」
「「「はい!!!」」」
「おそらく相手方も前線の選手を替えてくるとは思いますが、いずれにしても1年生の登録はないため、サプライズな選手はいません。前半通りの戦い方ができれば勝利は自ずとこちらが手にします」
数原はそう言って再びピッチへ駆けていく選手たちを見送った。
◇
士気の上がっている大垣高校ベンチとは対照的にカクキタベンチはどんよりとした、重苦しい雰囲気に覆われていた。そして監督である馬場も現状を打破する有効な策が見つからず、在り来たりな激励の言葉をイレブンに投げかけるしかなかった。
(……なんて統率力のあるチームだ――1年生が3人も出場していながらこの連携力、運ではなく実力で昇格してきたタイプのチームか……)
馬場はあたまに手を当てながらそのようなことを考えつつも、苦し紛れの打開策として、2トップを足の速い選手に入れ替えると同時にチームへ1つアイデアを提示する。
「いいか――まず驕りを捨てよう。相手はたしかに今年昇格してきたチームだが、実力は非常に高い。そして、相手は明らかにカウンターを狙っている……だから思い切って相手に主導権を渡そう」
「――っ!」
カクキタの選手たちが驚愕をあらわにする。
「まずは後半の序盤、思い切ってロングボールをフォワードに向って放り込む。相手が処理をミスした場合はそのままボールを搔っ攫ってゴールへ、適切に処理された場合はハイプレスに切り替えるんだ」
馬場の言葉に頷くカクキタの選手たち。そして馬場は審判団へと選手の交代を伝え、交代で入った2人を含むイレブンたちがピッチへ入っていくのを見送った。
◇
後半が始まって早々に、大垣高校イレブンは、カクキタが攻め方を変えてきたことに気が付いた。前半同様、相手にボールを保持させようとしたがカクキタ側がボールを奪うや否や、交代で入ったフォワードの選手目掛けてロングボールを蹴りこんできたのだ。
放り込まれたロングボールは精度の高いものではなかったため、康太が難なくヘディングで跳ね返すも、そのセカンドボールを回収した古川に対して激しくプレスをかけてきた。
「――くっ……康太、すまん」
堪らず康太へバックパスをする古川であったが、そのパスが少し短くなったとろに交代で入った足の速いフォワードの選手がボールをカットすると、少し遠めではあったもののそのままシュートを放つ。シュートをブロックした康太の足に当たり、シュートの軌道が少し変わったが、持ち前の反射神経でゴールキーパーの凌ががっちりとボールをキャッチして難を逃れた。
カクキタが戦い方を変えてきたことで何度かチャンスを作っている一方で、逆に大垣高校側はボールを持たされることとなり、前半のようなカウンターアタックができなくなっていた。そして、ボールを持たされていながらも、カクキタはハイプレスをかけてくるためなかなか自由にボールを運べない――紅白戦の時の2、3年チームと同じような展開に陥っていた。
◇
「……こちらがポゼッションする展開はまだまだ改善が必要ですね」
後半20分が経過したあたりで戦況を見ていた朱里がそう呟く。
「その通りですね――そこは今後の練習で少しずつ見直していくとしましょう。取り急ぎこの試合では――」
数原はウォーミングアップゾーンに目をやると、遥と、それから誠を呼び出す。
「――残りおよそ20分、おふたりには同時に入ってもらいます。まず杉浦くんは古川くんに代わってボランチに入ってもらいます」
「ぼ、ボランチ――ですか!?」
誠が得意としているトップ下よりさらに後ろで当然ディフェンス力が求められるポジションでの出場とわかり、驚きを隠せなかった。
「大丈夫です、君に求めるのは攻撃の改善――武藤くんや牧村くんと長谷川くん、あるいは前線の選手を繋いでください」
「が、頑張ります……」
そう答える誠の表情は今にも泣き出しそうに見えた。
「それから七海くん、今日は勝っているのでゴールというよりは経験を得てきてください。棚橋くんに代えてシャドーに入ってもらいます」
「……はい」
「シャドーはサイドと違って広いスペースがあまりありません――そのため、突破するには甲斐くんや斉藤くんと連係する必要があるので、そこを考えながらプレーしてみてください」
遥はこくりと頷く。そしてふたりはレガースを入れたりビブスを脱いだりして、交代の準備をする。そのままピッチ横の交代ゾーンに入ると独特の緊張感が広がってきた。
「……は、遥くん……」
「大丈夫――前と同じ。いざとなったら僕目掛けて全力でパスを出して」
「……う、うん!」
遥は誠を勇気づけながら交代を待つ。するとちょうどボールがアウトプレーとなり、審判の笛が鳴る。古川と棚橋がピッチを出るのにあわせてグータッチをしながらふたりはピッチに入っていったのだった。
『大垣高校』
古川、棚橋 OUT
七海、杉浦 IN
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