第1節 〜 vs 各務原北高校 前半
遥たち大垣高校サッカー部員は、G1リーグ第1節の会場である
天気は晴れで、人工芝のピッチに撒かれているゴムチップがほどよく熱くなっているくらいの気温だ。
G1リーグは10校で構成されているため、朝から夕方まで1日5試合が開催される。大垣高校と各務原北高校の試合は第3試合であるため、現在2試合目が執り行われている真っ最中である。
本日の対戦相手である各務原北高校――通称カクキタについての情報は昨日すでに数原から共有されている。
カクキタを一言で表すと、『長年に渡ってほどほどに強い高校』である。偏差値50の普通科高校かつ、岐阜県第3の都市である各務原市のほぼ中心に位置していることで、そもそも受験者が多いのだ。そんな中でほどほどに強いサッカー部を目指す受験者も多いため、結果として長年G1リーグに所属し続ける程度の強さを維持している。
今年のカクキタも例に漏れず、ほどほどに強い。言い換えるならば、突出した選手はいないということだ。強いて言うのであれば、キャプテンの
◇
「――ということで、フォーメーション、作戦、スターティングメンバーは昨日お伝えした通りになります」
試合開始の直前、ベンチにて数原はそう告げる。昨日の話と同様――つまりゴールキーパーに凌、3バックに恭平・康太・工藤、中盤左から宮川・長谷川・古川・吉井、2シャドーに悠里・棚橋、1トップに斉藤という並びだ。
「控えの選手も状況を見て代わって入ってもらうことがあると思いますので、いつでも代われるよう準備をお願いします」
「「「はい!!」」」
「――それでは初めてのG1リーグです……楽しんでプレーしてください。それが結果的に勝利へとつながりますので」
「「「はい!!」」」
数原の激励に選手たちが大きな声で返答し、スターティングメンバーの選手たちはピッチへと向かっていく。同じくピッチへ駆けて行こうとする凌と遥が2、3言葉を交わす。
「凌くん――頑張ってね」
「――あぁ、お前もちゃんと準備しとけよ」
「もちろん!」
そして、両チームがピッチに入り中央で挨拶をした後、それぞれのポジションへとついていく。審判のホイッスルが響き渡り、カクキタのボールでキックオフとなったのだった。
◇
試合は想定通りに進んでいた。大垣高校がカウンタースタイルを敷いているため、ボールを保持しているのはカクキタだ。しかしカクキタ側にしてみれば保持しているというよりは、保持させられているといった感覚であり、大垣高校のディフェンスを突破するような有効な攻撃はできていなかった。
前半30分に差し掛かったあたりでカクキタのイレブンに焦りが生じ始めた。リーグ戦初戦、かつ対戦相手は昇格組であることから、早めに点を取っておきたいという心情が働いたのである。
キャプテンでエースである三好が右サイドからドリブルで突破を図る。対峙していた宮川を突破することはできたが、すぐさまカバーリングに入った恭平と宮川に挟まれる形となり、三好はなすすべもなくボールを奪われる。
「――カウンターっ!!!!」
康太がピッチに響き渡る大きな声で叫ぶ。
ボールを奪った恭平は少し持ち上がり、相手をひとり引きつけたところで長谷川へとパスを出す。
長谷川もマークにつかれていた相手をトラップで剥がし前を向くと、ピッチ中央右に斉藤、中央左に悠里、そして右の大外に吉井の姿がそれぞれ目に入った。
その中で、最も早く目が合ったのは――悠里だった。
「――っ!」
「足元っ――!!」
悠里の要求とほぼ同時に、長谷川は足元目掛けて鋭いパスを供給する。
パスを受けた悠里は持ち前の身体能力とテクニックを駆使し、マークについているディフェンダーをものともせず、ペナルティエリア内に侵入する。遥や新太のインパクトが強烈なため忘れられがちだが、悠里もあの名古屋FCのユースに昇格内定するほどの選手なのだ――トップレベルの選手であることは言うまでもない。
悠里は相手のゴールキーパーが飛び出してこないことを確認すると、得意の左足でコースを正確に狙ったシャープ足の振りでシュートを放つ。そのボールにキーパーが触れることはなくゴール右隅に突き刺さった。
悠里が左手を高らかに突き上げると同時に、ゴールを告げる審判のホイッスルが鳴り響く。そして、長谷川や斉藤など近くにいた面々が悠里の元へ集まり、肩や頭をたたきながらゴールを祝福する。
「やりやがったな、お前!」
「斉藤さん、
「ナイスシュートだ――」
「長谷川さんもナイスパスです」
それぞれ言葉を交わしながらゆっくり自軍に戻ったところで、試合が再開した。
その後はカクキタイレブンがさらに浮足立ってしまった結果、拙攻となってしまい、今度は康太のところで古川と挟み込む形でボールを奪い取り、再度カウンターを仕掛ける。
古川から、右サイドの吉井に長い縦のパスを供給すると、持ち味のスピードで吉井がそれに追いつくと右足でマイナス気味にクロスを上げる。悠里と入れ替わるようにしてファーサイドにポジショニングしていた斉藤がそのクロスに頭で合わせて追加点を奪取する。
そしてちょうどその瞬間、審判の前半終了を告げるホイッスルが鳴り響き、大垣高校は前半を2-0で折り返すこととなったのだった。
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