朱里先生による特訓 其の2~ディフェンス編~

「今日はディフェンスの基本を教えるわ」


 日課となった朱里と新太のマンツーマンでの練習が始まると、朱里は早速そう告げた。


「君がどのポジションをやることになるのかはわからないけど、どのポジションであってもディフェンスという行為は必要になるわ」

「たしかにそうっすね」


 新太は朱里の話に同意を示す。すると朱里は話を続ける。


「まずディフェンスの大原則はチャレンジ&カバーと呼ばれているわ」

「……チャレンジ&カバー」

「相手のボールホルダーに対してプレスをかけてボールを奪いにいく、あるいはドリブルやシュートのコースを限定するのがチャレンジ――」


 『なるほど』と新太は心の中で思う。以前の紅白戦で自身が長谷川に対して行っていたことがまさにチャレンジであったということがここにきてようやく理解した。


「そしてそのチャレンジに行った人が抜かれたりした場合に代わってボールホルダーにプレスに行く準備をしておくのがカバーよ」

「――そうなると、カバーしていた人が次のチャレンジをする人になって、それをカバーする人がまた出てくるってことっすか?」

「基本的にはそうよ――ただ、例えば人数不利な場面とかだとカバーする人がいないからチャレンジする人もカバーの人が来るのを待ったりするわ――所謂ディレイって呼ばれるプレーね」


 途中まではなんとなく理解できていた新太であったが、やはり頭の中で考えるだけでは限界があったようで、説明の最後の方はイメージできなくなっていた。


「これもやってみないとだけど――本職の人にも話を聞いた方がいいわ――チャレンジは武藤くんが上手だし、カバーリングはお兄ちゃんが得意よ」


 朱里はそう言うと走って2人の下へ向かい、こちらへ連れてきた。


「朱里、どうした?」

「今、丹羽くんにチャレンジ&カバーについて教えてるんだけど、2人からもコツとかを教えてあげてほしいの」

「……なるほどな――武藤、どうだ?」


 康太が恭平に話を振る。


「そうですね……とりあえずコミュニケーションが大事なのと、あとは間合いですかね」

「俺も同意見だ――特に間合いは人によって異なる。例えばスピードで勝っているのであれば多少チャレンジングな間合いにして抜かれてもすぐ追いついてリカバリーできるとかだな」


 康太と恭平が実演しながら間合いに関する説明をする。


「まぁ、でも多分だけどお前がスピードで負けるのは想像できないから――結構シビア目の間合いでいいと思うぜ」

「そうだな――少しやってみるか。朱里と俺が攻撃側をやるから武藤と丹羽でチャレンジ&カバーをやってみてくれ」


 康太がそう言うと2 vs 2形式の練習が始まった。


 最初はチャレンジの役割を新太、カバーの役割を恭平が担っていた。先ほどの恭平のアドバイス通り、ボールホルダーである康太に厳し目の間合いで、プレスをかける。康太は隙を見て新太の股を通すパスを出すとあっさりと朱里にパスが渡る。


「間合いを詰めすぎると今のようなことも起こる――股を抜かれた場合、大抵カバーは間に合わないから要注意だ――」


 その後も何度か挑戦を続け、自分なりの間合いを把握するとチャレンジで抜かれたりパスを通されたりすることはなくなった。

 カバーの役割に入ってからは更に真価を発揮し、持ち前のスピードによるカバー範囲の広さと、勘の鋭さによるインターセプト等、完ぺきなカバーリングとなっていた。


(……このレベルのディフェンスができるなら――最終ラインに組込むこともありだな――)

 

(……こいつとポジションが被る可能性もあるのか――他ポジションもできるようになっといた方がいいか?)

 


 練習に付き合った康太と恭平は新太の能力を改めて目の当たりにし、それぞれ内心に秘めるものが生まれたのであった。

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