紅白戦 後半パート2

 この押されている状況を見かねてか、上級生チームは吉井を下げ、ここまで主審をしていた小湊が右サイドバックに入る。攻撃的な吉井とは対照的に守備的なサイドバックの選手だ。


 危機感を覚えた上級生チームが再び攻勢に出るも、やはり長谷川が機能しないためか、前半のような攻撃にならない。斉藤が下りてきてボールを受けるも恭平がしっかりと対応し、シュートコースを限定する。斉藤が無理やり遠目から放ったシュートは凌に正面でキャッチされる。


 凌はキャッチした後、すぐさま低い弾道のパントキックで遥へボールを送る。浮き球をトラップしたとは思えないほど綺麗にボールを受けるとしっかりと間合いを保った小湊とマッチアップになる。先ほどまでの吉井とは異なり突っ込んで来ないため、得意のダブルタッチでは突破できなかった。


「……ちぇっ――」


 遥はそう呟くとボールをオープンな位置に置きパスコースを探す。それを見た小湊は一旦マッチアップを制したと心を撫で下ろしパスコースの限定、あわよくばパスカットを試みようと一歩前に出る。その瞬間を遥は見逃さなかった。

 オープンな位置にあったボールを右のアウトサイドで引っ掛けるようにして縦に送ると自身も加速――小湊を置き去りにした。


「――まじかっ!!」


 小湊がそう声を上げたときには遥に完全に突破され、2得点目と同様に悠里へのスルーパスを出していた。しかし今回は康太のカバーが早く、スライディングで悠里より先にボールへ触られた。ただ、さすがの康太もスライディングで触れたボールまではコントロールできず、コーナーキックとなった。


「新太くん!上がってきて!」

「よっしゃあ!」


 遥が新太にはゴール近くまで上がってくるように声を掛ける。そしてキッカーである誠にボールを渡す。


「……新太くんを狙って――高さはキャプテンも触れないくらい」

「そ、そんなのさすがの彼でも――」

「いいからやってみて――ダメでも点はまた取るから」


 遥がそう言うのであればということで誠は了承する。そして、遥の指示通り新太のはるか頭上を目掛けてボールを蹴り入れる。

 すると新太は驚異の跳躍を見せる。マークについていた長谷川より遥かに高い打点で、誠が蹴り入れたコーナーキックに合わせる。そしてその高い打点からゴールへ叩きつけるようにして放たれたヘディングシュートは見事ゴール右下に吸い込まれていった。


「うおぉっしゃ!!ゴーーール!!」


 同点のゴールに喜びを爆発させる新太。遥はそれを横目にさっとボールを回収すると、センターサークルへ走って持っていった。


「ねぇ!勝つんでしょ――ならあと1点は取らないと――」

「――そうだったな!」


 新太も遥の言葉で冷静になり自軍へ戻っていく。そうして同点になってから再び試合が再開された。

 

 そこからはなんとしても勝ちたい両チームの意地のぶつかり合いだった。長谷川に新太がマンマークで付いたように、古川と小湊が2人がかりで遥をマークしだした。そうなるとそもそも遥にパスが通りづらくなりお互いに攻め手に欠ける展開となった。


 審判が時計に目をやる終盤の時間帯――古川が遥のマークについたことで生まれた中央のスペースで誠がボールを受けると左サイドの裏のスペースへ浮き球のふわっとしたスルーパスを供給する。

 そこに走り込んだのは遥――ではなく悠里だった。


「――中に流れろっ!」

「――っ」


 悠里のその言葉を聞くやいなや、遥は悠里が元々いたスペースへ斜めに走っていく。お互いが斜めに走りクロスしたことでマークが一瞬ずれる。

 その隙を逃さず悠里が得意の左足でクロスを入れる。そのクロスに走りこんできた遥がぎりぎり間に合い、ジャンプしながらもダイレクトボレーで合わせる。キーパーの後藤は全く動くことができずゴールに突き刺さった。

 ちょうどその瞬間、試合の終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。


 ◇


 大垣高校サッカー部紅白戦 試合結果

 新入生チーム vs 上級生チーム

 前半:0-3

 後半:4-0

 合計:4-3


 得点者 ※()内はアシスト

 14分:牧村 (長谷川)【上級生チーム】

 19分:斉藤 (長谷川)【上級生チーム】

 26分:斉藤 (長谷川)【上級生チーム】

 35分:七海 (杉浦)【新入生チーム】

 40分:甲斐 (七海)【新入生チーム】

 51分:丹羽 (杉浦)【新入生チーム】

 60分:七海 (甲斐)【新入生チーム】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る