それぞれの感想戦(数原&牧村兄妹)
紅白戦が終わり全体でクールダウンを行った後、部活は終了となった。颯爽と帰宅する者もいれば、追加のクールダウンを行う者もいる中で、数原と牧村兄妹は職員室の一角にて先ほどの紅白戦の動画を見ながら意見を交換し合っていた。
「……さて、予想外の結果となったわけですが――まずは朱里さん、どう思いましたか?」
数原が朱里に問いかける。
「……正直理解が追いついていないです。ただ、上級生チームは昨年終盤に対戦相手にことごとく取られた長谷川くん封じをされると相変わらず攻め手がなくなるということは見てわかりました」
「そうですね――そこは要改善事項ですが……新入生の加入で攻撃のバリエーションは増やせそうですね。康太くんどうです?」
今度は康太に話を振る。
「監督の言う通り、1年の加入で長谷川頼みの攻撃を打破できると思います。具体的には――甲斐と杉浦のセットは攻撃に厚みを出せるかと」
数原は康太の言葉に首を縦に振り肯定の意を示す。
「そうなると――やはり問題はあの2人……七海くんと丹羽くんですね。まさに最強の個という感じの2人でしたね」
数原は新入生チームの1得点目――つまり遥の単独突破のシーンを見ながら話を切り出す。
「――お兄ちゃん、七海くんのドリブルってどうだったの?マッチアップしてたよね?」
「……おそらく今後何回やっても止めれん――そう思わせるくらいの破壊力があった」
康太は苦い表情を浮かべながら話を続ける。
「まず、とてつもなく速い――0から一気に100まで加速されている感じだった。そして、俺の一挙手一投足を見たうえで確実に逆を突いてくる、そんな感じのドリブルだったな……」
「お兄ちゃんがそこまで言うなんて……たしかに規格外のドリブラーって感じだったけど」
「……うーん、ドリブラーっていうのはなんか違和感があるな――難しいフェイントやボールタッチをされているわけじゃないのに抜かれるんだよな……」
康太が唸っていると、数原が口を挟む。
「こんな話を知っていますか――スペインではドリブルは2種類存在します。1つはボールを運ぶためのドリブル、
数原は更に言葉を続ける。
「Regateが使われるのは一般的に1 vs 1かつ、躱してシュートに持っていける状況だそうです。思い返せば彼は1 vs1にならない時はパスやターンを選択していました――つまり、彼は2種類のドリブルを意図的に使い分けていて、とりわけRegateに特化した技術を有している。なのでドリブラーというよりはこう称するのが適切かもしれませんね――
「……Regateador――そう言われるとしっくりきますね」
数原の言葉に康太が頷く。
「ですが、彼には明確な課題がありますね――おふたりは、気づきましたか?」
数原の問いかけに答えたのは朱里の方だった。
「ボールを持っていないときの動き――オフザボールの動きができていなかったですね。試合経験がないと言っていたのでそのせいかもですね」
「でも4点目はその動きができていなかったか?」
朱里の意見に対して康太が疑問を投げかける。
「あれは甲斐くんの声かけがあったから動けただけで、自発的に動き出したものじゃなかったよ――まぁ、それで間に合うんだから凄いスピードなんだけど……」
「なるほどな……」
「そうですね――朱里さんに私も同意です。そして彼の起用方法は慎重にしないといけませんね――試合経験を積ませたいところではありますが、彼の個に頼りすぎるといなくなったときにチームが崩壊する可能性がありますしね……」
数原は心の中で贅沢な悩みだなと思い薄ら笑いを浮かべる。
「そして丹羽くんですが――正直私は彼ほどの才能の原石を見たことがありません」
「同じく――長谷川とのマッチアップといい、3点目のシーンといい、身体能力が突出していることはわかりますが……それだけで初心者が長谷川を抑えられるのは天才以外の何者でもない」
「ええ、彼がサッカーに関する知識と経験を身に付けた時――どのような選手になるのか想像もつきません」
「……彼はどうするつもりですか?」
康太の問いかけは暗に新太をリーグ戦のメンバーに入れるかどうかという問いも含んでいた。
「……貴重な選手枠に育成目的の選手を含めるのはデータ的にはありえないですが――化ける速度次第では可能性はあります。新入生は6月上旬まで追加登録ができますので、そこまでに化ければ――」
「わかりました――異論はありません」
「ありがとうございます。丹羽くんの練習メニューですが、暫くは全体練習とは別に個別でサッカーの基本を学んでもらおうと思っています――そのコーチ役を朱里さん、お願いできますか?」
数原からの突然の振りに驚く朱里。
「あ、あたしですか!?そんな男子に教えるなんて――」
「基礎のところは男女そこまで差異はないはずです。貴女の経験と知識を彼に還元してあげてくれませんか?」
朱里は懇願する様子の数原を見て、渋々ながら了承することとなった。
「いずれにしても今年の新入生は良い意味で誤算でしたね――目標としていたG1リーグ制覇にとっても良い影響をもたらすと思いますよ。牧村さんにとっては最後の年ですからね――目標、達成しましょう」
「――はい」
康太の重く決意のこもった返事が職員室に静かに響いたのだった。
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