異世界転生に物申す!〜転生って何ですか、科学的に説明してください〜

朝顔

転生

「誠に残念ながら────様はもう────」


 声が聞こえる。誰だ?


「う、うぅ、そんな────」


 泣いている。何があったんだろう。


「───。落ち着いて────」


 何を言っているかわからないが、恐らく慰めているんだろう。


「うう、なんで―――」


「でも―――!」


 そうか。


「―――はもう―――んだよ!」


 僕は死んだんだ。






『こんにちは』


「え、あ、こんにちは」


 気が付けばそこは光り輝く空間だった。しかし、何か変だ。


「僕は……死んだはずじゃ」


『ええ』


 答えたのは白く輝く人型の何か。やはり、僕は死んでいたのだ。だが、まだ疑問は残る。


「あなたは?」


『私は運命の女神リンネ。貴方は今から転生するのです』


 ……リンネ?……転生?いや、その前に。


「……僕は死んだはずです。なのに何故、僕には意識があるのです?」


『今の貴方は魂、そのものですから』


 魂、そんなものが本当にあるなんて。


「魂は本当にあったんですね」


『ええ』


「魂って質量あるんですか?」


『ええ?』


「ですから、魂に質量は存在するのか、と」


『貴方のような人は初めてです……あるんじゃないですか、恐らく』


 質量があるということは、確かに物質として存在するということだ。そして魂には本人の意識が残る。これは世紀の大発見だぞ。


「成る程。そして……ここはどこなんです?」


『ここは天界。魂が還る場所です』


 魂が還る……?勝手にここへ来るということは、魂は電気でも帯びているのだろうか。もしくは磁力で引きつけられるのか?


「神社とか寺ではないんですね」


『あれはあくまで中継地点ですから』


「……天界、ということは空にあるんですか?」


『はい』


「ではこの部屋はどうやって浮いているんですか?」


 今僕は四角い部屋の中にいる。ここが天界で、空にあるというのなら、どうやって浮遊しているのか。


『え、えーと……神の力で浮いています』


「神の力……ではこの部屋は地上からは観測できなかったりするんですか?」


 上空に輝く箱があったら、目立つだろう。ということは、この部屋は神の力とやらで隠されているんじゃないか?


『はい。ここは死者しか訪れることが出来ない場所です。生者には見ることも、感じることも出来ません』


「そんなものが。では、具体的に神の力とはどういうものなのですか?」


『神は、あらゆる物質、存在、概念を創り出すことができるのです。これが神の力です』


「そのエネルギーはどこから供給されるのですか?」


『我々神はエネルギーの概念そのもの。つまり、全てのエネルギーの源なのです』


 成る程、神はエネルギーの塊ということか。


「我々? 貴方の他にも神がいるということですか?」


『ええ、その通りです』


「成る程……実に興味深い。……ところで、この床は何で出来ているんですか?」


『ですから神の力で……』


「そういうことではなく。どのような物質なのか、と」


『いえ、私が神の力で創ったものですので……構成は知りません』


「そうですか。残念です」


『もう質問はいいですね? 転生の準備をしましょう』


「転生? なんですかそれは」


『転生は魂を新たな肉体に移すことです。あなたの魂の情報を参照し、肉体を創生します』


 魂の情報?魂は機械的な何かなのだろうか?

いや、情報記憶器官を備えた生物的なものかもしれない。


「肉体を創生って、どこから元になる物質を集めるのですか?」


『空気です。空気を神の力で別の物質に変化させます』


 原子の陽子、電子、中性子の数を自由に変えれるといったところか。


「要は原子同士をぶつけて作るんですね」


『……多分そうです』


「多分……?……で、転生って言ってましたけど、どこに転生するんです?」


『地球ではない、異世界と言ったところでしょうか』


「異世界? それはどこの銀河にあるんですか?」


『いいえ、あなたの住んでいた宇宙とは別の宇宙にあります』


「宇宙は何個もあるんですか?」


『ええ、様々な宇宙が存在しています』


 平行宇宙って存在したのか。世紀の大発見がどんどん増えていくなぁ。


『そろそろいいですか? もう転生の準備は終わりましたよ。次の質問で最後にしてください』


「では、最後に一つだけ。地球にも転生者は居るんですか?」


 死んだ生物が皆転生するならば―――そう、地球にも居たはずだ。


『ええ、居ますよ。かの―――や、―――なども、転生者でした』


「ではその人達は―――」


『さあ、行きますよ―――』


 ああ!待って下さああぁぁぁぁーーーーーーー…………い…………







「ハッ!」


 ここは……?


『やべ』


 ん?何か聞こえたような。


「そんな……奇跡だ、まさかこんな……!」


 目の前に白衣を着た人がいる。医者だろうか。しかし、酷く狼狽えているようだ。


「―――さんに伝えなければ!」


 次の瞬間、医者らしき男の人は部屋を飛び出し駆けていった。

でかい照明、沢山の機械、器具。……この部屋…………手術室では?ここが異世界?


『大変申し訳ないのですが……』


「うおっ」


 びっくりした。周りを見渡しても姿が見えない。この声、どこから聞こえるんだ。


『脳に直接……いえ、なんでもないです。それより、伝えたいことが―――』


「―――!!」


 医者が戻ってきたと思えば、その後ろには女性と男性が。

女性が何かを喋ったと思うと、勢い良くこちらに走ってくる。


「――ウ! ―ョウ!!」


「ま、まだ状態がわからないので無闇に触れたり……」


「わかってるわよ! ―――翔!! あんた、無事でェッ……!!」


 なんだ?懐かしい感じがする。それに、この女性の顔も見覚えがある。


『間に合いませんでしたか……』


 なんて?


「翔……!」


 遅れて男性の方もやってくる。不思議だ、この人も見覚えがある。…………ん?


 ―――しょう、ショウ、翔…………


 ―――そうだ、僕は翔だった。


 ―――僕は確か…………車に轢かれて…………死んだ。

 

 ―――この女性はお母さんで、男性はお父さんだ。名前もわかる。

 

 ―――僕は転生したはずだ。何故、親を知っている?


『あの……その……あまりにも質問してきたので……正直、面倒だったというか……』


 はぁ。あの状況で質問しない人はいないと思うんですけど。


『量が多いんですよ! あっ……すいません。で、それで……地球の転生者のことを考えてたので……つい』


 ふむふむ。それでどうなったんです?


『間違えて地球に転生させてしまいました』


 なんじゃそりゃ。それじゃ"転生"じゃなくて"復活"ですよ。


『なので……! あっちで起こった事とか、言わないでください! お願いしますから!』


 言っても信じてくれないと思うけど、お願いされたら仕方ないか…………というか、さっきから僕声に出してないし、考えてるだけなのにどうして会話が成立するんですか?神の力とやらで心とか読めちゃうんですか?それと、脳に直接?ってどうやってやってるんですか?


『あぁもう!!!!』


 …………居なくなった、のかな。


「翔、さっきの声、誰…………?」


 あれ。さっきの声、聞こえてたのか。


「きっと……僕を助けてくれた神様だよ」

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