第2話 呪い

 「エルフィナ。先日のテスト、又、全校一番だったそうじゃないか?

 しかも全科目満点で……凄いなエルフィナは。

 どれ程の努力を重ねているのか……わしは、お前を誇りに思うぞ」

 校舎に入るなり、後ろから優しく頭に手を置き、言葉を掛けられた。

 エスティア王国王立学園アルガルド学園長だ。

 アルガルドは極度に目が悪く、眼鏡を掛けていても、

 近付かないと、ものを認識出来ない程だった。

 その為、普段から、目で見えるものだけに頼らず、

 ものの本質を見る様に心掛けていた。

 エルフィナの事も、呪いには囚とらわれず、

 美少女である事も、優しい心を持っている事も認識していた。

 アルガルドはエルフィナの、数少ない理解者だったのだ。


「おはようございます。アルガルド先生」

「ん?どうした?目に涙を溜めて……又嫌な事でもあったのかな?」

「アルガルド先生……違うのです……昔の事を思い出して……」

「それだけでもあるまい?あれ程皆に言い聞かせても……理解されず……

 わしがいくら解呪かいじゅしてみても、解けない……

 その呪いは、この世の者が掛けたとは思えん程、強い物じゃな……

 これ程迄に、身も心も美しいなのに……」

 (先生がおっしゃる通り、本当に私の醜い顔は呪いなのかしら……)

「何もしてやれず、辛い思いをさせて申し訳ないの」

「アルガルド先生……先生は何も悪く無い……

 何時もお気遣い頂き有難うございます」

 エルフィナはアルガルドの優しい言葉に、涙が止まらなくなってしまった。


「エルフィナお姉様。どうしたのよ?目を真っ赤に腫らして?

 そんなんじゃ、私が何かしたみたいじゃない……

 何しろ学園内でお姉様に、話しかけるのなんて、私位しか居ないんだから。

 そんな顔をしているなら今日はもうお帰りになったら?」

「だめよ。……昨日から嫌な予感がするのよ?

 今日は裏山での、野外宿泊訓練でしょ?

 魔法がまるでダメでも、私の予感が良く当たる事を、メアリーは知ってるでしょ?」

 盗賊の待ち伏せ、崖崩れからの回避。

 家族を危機から救ったのは1度や2度では無い。

 とくに最近、その頻度も精度も上がっている様だった。

 しかし残念な事に、助けられたと言う思いを、家族は持っていなかった。

 当然、感謝された事も無い。



「何よ?嫌な予感って?お姉様には、

 いつも嫌な事ばかり起きてるじゃない……今更でしょ?」

「私にじゃなくて、貴方によ?それに学園の皆んなにも……かな?」

「どんな事が起きるっていうのよ?」

「それは……私には分からない……いつもそう……胸騒ぎがするだけ」

「相変わらず、役に立たない予感ね?」

「フフ……そうね……でも可愛いメアリーに何か有ったら私……」

「気持ち悪いから、可愛いとか言わないでくれる?

 だいたいお姉様が居たって、魔法も使えないのだし……

 いくら剣の技量が学園始まって以来の天才と言われていても、

 魔物とか相手だったら、お姉様1人じゃどうにも出来ないじゃない?」

 そう言いながらも、少しだけ顔を赤く染めるメアリナ。

 心の底からエルフィナを嫌っている訳ではない様に見える。

 以前アルガルドから聞いていた事を思い出す。

 この呪いには、醜く見える他にも、

 他人からうとまれる要素も付随されているのではないかと。

 家族からも、うとまれているとは言え、

 食事もちゃんと取れているし、服装もまとも……

 こうして学園にも通わせて貰っている。

 心の底から嫌われているのではない……呪いがそうさせている……

 そう思う事で、何とか心の平静を保てていた。


 ************************


「創造神様。あの、能力を押さえ込まれている結界が、綻び始めてません?

 前世であのが得意だった予知能力が、顕現けんげんし始めていますよ?

 それに、神聖魔力も、漏れ出している様な……」

「うむ……そうじゃな……お前も感じるか?しかし最近……ではないぞ。

 5歳を過ぎた頃から、少しずつ漏れ始めておったのだよ?

 わしがあの星を結界で囲ったのも、その為じゃった……」

「そんな前からなのですか?あのが覚醒しつつある事を、

 外の世界に知られない様に……それであの結界を張ったのですね?」

「そうじゃ。別世界の神々共に、あのの桁外れな力を封印し続けられるわけがないじゃろ?

 あやつらは、大きな過ちを犯した。決してやってはいけない事を、やってしまったのだ……

 それを嫌でも知る事になるじゃろう……

 そして、その日は、そう遠くはない……という事じゃ……」


 ************************


「ねえ、お姉様、お弁当は持ってきた?

 今日は野外宿泊訓練だから、学内の食堂はお休みよ?」

「知ってる……昨日ね、うちの料理長にお弁当頼んだら、聞こえないふりして

 〝あっ、もうこんな時間だ!夕食の準備しなきゃ〟

 そう言って、いなくなってしまったから……

 仕方なく自分で、朝早く起きて作ったわよ?

 メアリーは、ちゃんと作ってもらえたんでしょ?」

「うん、でも私、持ってくるの忘れちゃって……

 誰か気付いて、持って来てくれないかしら?」

「どうかしら?この時間になっても届かないんだったら、気付いてないんじゃない?

 ねえ?私の作ったお弁当食べる?」

「え?良いの? お姉様、公爵家の、お嬢様なのに、料理得意だったわよね?

 普通、公爵令嬢は料理なんてしないわよ?

 あっ、でも私にお弁当をくれたら、お姉様は、お昼どうするの?」

「私は、なんだか……胸騒ぎとか……色々……食欲ないの……

 せっかく作ったのだから、メアリーが食べてくれたら嬉しいわ」

 あくまでも妹想い。いかに疎うとまれようと、メアリナを愛していた。

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