第9話 8,呑気者

母のお里にお嫁に来ていた和子伯母ちゃんは、お風呂が好きな人だった。




自らがする入浴ではなくて、子供たちや甥っ子姪っ子達が、お風呂に入ってさっぱりしている様子を見るのが好きな人だった。




まだお天道様が高々と上がって、この後寝るまでの時間もたっぷり汗をかくだろうと思われる時間帯に、伯母ちゃんは早々とお風呂の準備を整え、その辺でウロウロしている小さい子を見つけては「あんた、はよお風呂はいって来んさい。」と元気に掛け声をかけた。




それぞれの遊びに夢中になっている子供たちだったが、和子伯母ちゃんの、腹から響くような野太い声の号令がかかると、シャンとしてさっさかシャツを脱ぎ、狭いけどきれいにお掃除されたお風呂場へと、口答えもせず吸い込まれて行った。




小さい浴槽の、狭いお風呂場だったが、窓から明るい日差しが差し込んで、タイルの壁の水滴がキラキラっと光っていて、妹とも母とも一緒ではなく一人っきりの入浴なのに、なぜだか心細くもなく、入浴剤の良い香りを独占しながら温まっていたものだった。




さっぱりしてお風呂から上がると、


「はい、次の子は誰じゃったかね?次々入りんさい!」と伯母ちゃんがお待ちかね。


男の子たちがふざけて言う事を聞かないとなると、


「調子に乗りなさんな!」


声色を変える訳でもないのに、セリフが変わるだけで、ものすごくドスのきいた響きになり、子供たちは震え上がる。


伯母ちゃんはリアルな魔女の様だった。




夏場、親戚中の子供たちが結集する訳なので、洗濯物の量の多さや、誰の分か、という管理なども、なかなか把握し切れない状態であった。




それでも、洗濯物を山にしておく事はなく、手の空いた大人が、畳むまでは行かずとも、ちょこちょこっと仕分けをして置いておいてくれていた。




ある時、私はお風呂上がりに洗濯物置き場から自分のパンツとパジャマを探していた。




パジャマはすぐ見つかるのだが、パンツが分からない。




同じ様な年齢の女の子が数人いて、似た様なパンツがどっさり出てくるのだ。




困っていると、通りかかった伯母ちゃんだかおばあちゃんだかが、一緒に探してくれた。




「これが珠よっちゃんのやね〜」と、手渡してくれた。私はいつもの様に、うなずくだけか、「うん。」という返事だけで、パンツを受け取った。




パンツをはいて、パジャマを着た。その時だった。




お尻に、強烈な痛みを感じたのである。




刺す様な痛みと熱さみたいな感じが一挙に襲ってきた風だった。




火のついた様に泣き叫ぶ私に、大人たちは慌てて対応し、パジャマを脱がせて調べ、パンツを裏返して調べてみた。


すると、一匹の蜂がブ〜ン、と飛び去って行ったのだ。




パンツの中に蜂が潜んでいようとは、洗濯物を取り込む人も夢にも思わなかっただろう。




更に気付かずにはいてしまう子がいるとは、皆予想もしなかっただろう。




私は、返す返すも折り紙付きの、呑気者の子供だったのだ。




和子伯母ちゃんは、お風呂上がりの子供には皆平等に、お店のドリンクケースから飲み物を出して飲む事を許してくれていたから、その後私も腫れたお尻を持て余しながら飲み物を選びに行った。




お気に入りの炭酸入り乳酸菌飲料は、いつもと同じ味がした。


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