第8話 約束の重み
盗賊団との初回の交渉が終わり、村に戻った直人とエリスは、新たな課題に直面していた。盗賊団との約束が仮に成立したとしても、その約束を確実に守らせる仕組みがなければ、再び襲撃される可能性は排除できない。まずは、盗賊団にとってこの村を襲うことがリスクの高い行動である状況を作り出す必要があった。
「盗賊団に、この村を襲えば痛手を負うと思わせる必要があります。」
直人は集会所で村の代表者たちを前に語った。「具体的には、村の防衛力を見せつけ、簡単には突破できない、無理に攻めれば自分たちも被害を受けると感じさせることです。」
「それで奴らが手を引く保証があるのか?」エディが疑念を投げかける。
「保証はありません。」直人は冷静に答えた。「ですが、確実に攻撃のハードルは上がります。その上で、交渉を進めることで、襲撃するよりも利益を得られると思わせます。」
「なるほどな。」ガードンが頷いた。「具体的にはどうするんだ?」
「見張り台をさらに増やし、村の入り口を堀と柵で強化します。また、村人全員に避難訓練を実施し、緊急時に迅速に動けるようにします。」
エリスが提案を加えた。「さらに、村に武器を持った戦闘員が複数いると思わせる偽装をすれば、効果があるかもしれません。たとえば、村人たちが訓練している様子をあえて見せるのです。」
「それはいい案ですね。」直人は感心したように頷き、作戦に取り入れることを決めた。
村の広場では、村人たちが簡易的な武器を持って訓練をしている姿が見られるようになった。これらは実際に戦闘を行うためではなく、盗賊団への威圧効果を狙ったものだった。
「ほら、もっと力を入れて槍を突け!」
ガードンが指示を飛ばす中、村人たちはぎこちないながらも真剣な表情で訓練を続けていた。その光景を見たエリスが微笑む。
「本当に戦闘をするつもりはないのに、皆さんよく頑張っていますね。」
「村を守るためだって理解してくれたからでしょう。」直人は彼女に答えながら、周囲を見渡した。「でも、こうした訓練が実際に役立つかもしれない状況にならないことを祈りたいです。」
「でも、この訓練を続けるためには、訓練に参加する村人に動機が必要です。」エリスが続けた。「訓練が村を守ることに直結するという説明だけでなく、参加者には報酬や特権を与えるべきかもしれません。」
直人は彼女の意見に頷いた。「そうですね。それなら、訓練に参加した人には、例えば村の収穫物の一部を優先的に分配する権利を与えるとか、防衛の際に避難場所を優先的に確保するという特典を設けるのはどうでしょうか。」
エリスは少し考えた後、提案を補足した。「その案に賛成です。さらに、訓練がある日は簡単な食事を提供するのもいいかもしれません。だって、体を動かすって、お腹が空くでしょう?訓練が負担にならないようにすることが大切です。」
こうして、防衛訓練に参加する村人たちのメリットを明確にすることで、村全体の協力を得る仕組みが整えられた。
防衛準備が整った頃、直人とエリスは再び盗賊団との接触を図った。
「俺たちにまた交渉を求めるのか?」
盗賊団のリーダーが不機嫌そうに問いかける。直人は落ち着いた態度で答えた。
「今回は、あなた方に選択肢を提示するために来ました。私たちの村は、あなた方に物資を提供する代わりに、村を襲わないという条件を提示します。ただし、村を襲撃した場合には、防衛に出るだけでなく、他の地域に情報を流します。」
「情報を流す?」
リーダーの表情が険しくなる。エリスが静かに言葉を継いだ。「はい。あなた方の拠点や動向を近隣の村々に伝え、連携して対抗策を取らせます。」
盗賊団の部下たちがざわつき始める。リーダーは沈黙の後、ニヤリと笑った。「なるほどな。だが、お前たちがそこまでできるとは思えねえ。」
「それはお試しください。」直人が毅然と答える。「私たちの村には、あなた方を迎え撃つ準備があります。そして、この提案は、あなた方にとっても利益になるはずです。」
村に戻った後、直人とエリスは盗賊団との交渉を文書にまとめる作業を進めた。
「この村が彼らにとって価値のある取引相手であることを示す必要がありますね。」エリスが書き加えた内容を指差しながら言う。
「そうですね。」直人は頷いた。「物資の提供条件を明確にし、それを破れば供給が途絶えることを明記します。また、我々の防衛力を過小評価させない記述も加えるべきです。」
エリスはその提案に同意し、書き進める。「これでお互いにリスクと利益が釣り合う文書になりますね。」
最終的に完成した文書には、以下の内容が記されていた:
1,村を襲撃しないこと
2,定期的に物資を提供すること(ただし、村が物資を供給できなかった場合には、盗賊団はこの協定を破棄することができること)
3,条項が破られた場合、村は物資の供給を止めるとともに、他の地域と連携して対抗すること
再び盗賊団のリーダーに会い、文書を手渡した二人。リーダーは文書をじっくりと読んだ後、ニヤリと笑った。
「悪くねえ取引だ。だが、条件が守られなかった場合、どうするかを考えとけよ。」
直人は真剣な表情で答えた。「その場合には、ここにもある通り、この約束は解除されることになります。そして、お互いにとって最悪の結果になるでしょう。」
リーダーは少し考え込み、やがて文書にサインをした。「いいだろう。その条件、受けてやる。」
こうして、村と盗賊団の間に一つの契約が成立した。
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