第6話・両手カニバサミ型女性宇宙人『ロッカク星人』登場【地球安売りします……卑怯もお経もあるものか!南無】

 地上に現れたシュラン ジンの姿に女性たちは興奮して、顔を隠した指の間からジンの姿を覗く者や。

 堂々とスマホのレンズを、巨大裸体男子に向ける腐れ女子もいた。


「服着ているの? 裸なの? どっち?」

「うーっ、乳首は見えるけれど……肝心な部分がモノの陰になっていて見えない」

「あたしは、ルビーの宝石みたいな乳首も、飛んでいる〝ニャンダバダ地域防衛隊〟のヘリコプターと木の枝で邪魔されていて見えない」

「前の人、アフロ頭をどけてください……イケメンの股間が見えません」

「わぁ! メガネにゴミが……お尻の谷間が見えない」


 熱美がジンに言った。

「男だったら堂々と隠さずに、胸のエンジンに火をつけろぅ! 二人で怪獣乙女を倒すよぅ」

 熱美が、アホラスに突進してアホラスの腹に、ボディブローを叩き込んだ。

「がはぁぁ」

 口から白い泡を吐き出して、ニクノ アツミの体に白い泡が降りかかる。

 泡まみれになった、熱美が不敵に微笑む。

「効かんなぁ……その程度の濃度の溶解液……効かんなぁ、古い角質が溶けてお肌スベスベになった……おりゃぁぁぁ!」

 熱美は、アホラスの首をヘッドロックして引っ張った。

 スポーンッと音がして、アホラスの首が抜けて下から別の怪獣の頭が出てきた。

 恐竜の頭蓋骨がモデルのアホラスの首の下からは、一回り小さい頭の尖ったドクロのような怪獣の頭が現れた。

「やばぁ、アホラスの頭の下から、剛力怪獣『レッドクィーン』の頭が出てきた……この怪獣乙女、使い回しの怪獣乙女?」


 怪獣乙女の中には、造形の手を加えて……まったく別の怪獣乙女として、再デビューする怪獣もいる。

 中には十回以上造形遍歴へんれきを重ねて、別の怪獣乙女として生まれ変わる者もいる。


 熱美は、見なかったコトにして落ちたアホラスの頭部をかぶせ直すと、そのまま巨体を持ち上げて空へと飛び上がった。

 アホラスと、古代女王パトラは夜空の星になった。


  ◇◇◇◇◇◇


 ジンは、ヨガのクジャクのポーズで倒立した、トライテールから三本のムチ打ち攻撃を受けていた。

「ほらほら、ムチで打たれて気持ちいいと言え!」


 巨大裸体ヒーローになったジンの体は、高圧電流も寄せ付けない、当然、ムチにも耐性はあった。

 ムチの一本をつかんでジンが、柔らかな口調で言った。

「やめよぅ、君にムチは似合わない」


 トライテールの心の中でキュンと、疼くほのかな感情が芽生えた。

 トライテールは、ジンに恋をした。

 ジンが優しい口調で言った。

「海にお還り」

 うなづいたトライテールは、ピョンピョンと跳ねて海へと帰っていくと。

 ジンの姿も、光りの中に消えた。


 教室の机に、横顔伏せで見ていた華奈の顔からソバカスが消えて、華奈が呟く声が聞こえた。

「女の子に優しくし過ぎだよジンくん、嫉妬しっとしちゃうよ」


  ◆◆◆◆◆◆


 翌日、朱乱 ジンは華奈の部屋に、パンツだ穿いた裸でいた。

 ジンの目には、巨大裸体ヒーローになった昨日からタマタマンの姿が見えていた。

 ホワイトボードの前で、タマタマンが言った。

「ジン、オレの姿は見えているな」

「はい、見えています」

 ジンの隣には、全裸になった華奈が座っている。

「よし、講義をはじめるぞ……パンツ脱いで、素っ裸になれ」

 ジンは言われた通りに、パンツを脱いで華奈の隣に座った。


 女子高校生と男子高校生が、同じ部屋で全裸で並んで座っている……普通に考えたら、大変な状況なのだが。怪獣や怪人と裸のような姿で戦う非日常が、二人の感覚を麻痺させていた。


 タマタマンが、ホワイトボードに図を描きながら説明する。

「巨大ヒーローの中にも、いろいろのパターンがあってな……ジンのような〝巨大ヒーロー因子〟を持って生まれてきた者もいる」

「〝巨大ヒーロー因子〟?」

「先祖に巨人がいた者だ……なん世代か前にジンの血族系列に巨人の血が混じった……熱美は、ジンの体の中に秘められていた巨大ヒーロー因子を見抜いたんだろうな……この巨大ヒーロー因子には、ある特徴がある」

 ジンがタマタマンに質問する。

「どんな特徴ですか?」

「等身の単体ヒーローにも、ジンはなれるんだよ……改造されていなくても」


 タマタマンが、講義を続けていると、タマタマンの姿が見えない華奈の母親が、いきなりドアを開けて部屋を覗き込んで言った。

「あらぁ、玄関にスニーカーがあったわね。ジンくん……いつの間に来てい……」


 裸で座っている娘と、娘が最近つき合いはじめた男の子が 裸で並んで座っているのを見た母親は……見てはいけないモノを見たように、静かにドアを閉めた。


 華奈の母親の姿が見えなくなると、タマタマンが言った。

「銀河のすっげぇウルトラ警備隊から連絡が届いている……性格がややこしい『ロッカク星人』が地球に侵入したそうだ」


 ジンがタマタマンの、宇宙人地球侵入を無視して、気になっていた事柄を質問してみた。

「先祖に巨人がいたコトは理解しました……一つだけ疑問なのはボクの先祖は、どうやって子孫を残したんですか? 男巨人でも女巨人でも、相手のサイズが違うのに?」

「そこは、気づいちゃいけない部分なんだよ! 愛だよ愛!」


  ◆◆◆◆◆◆


 ニャゴ博士が身を寄せている『ブロンズ星人』の秘密基地アジトに、両手がカニバサミの『ロッカク星人』が円盤に乗ってやって来た。

 肩当てや腰当ての防具を付けたような格好をした女性型宇宙人のロッカク星人は、ニャゴ博士を抱きしめてスリスリする。


「本当に、ニャゴ博士は、毛並みがフワフワで癒されるカニィ」

「離すのニャ、おまえのように得体が知れない、多重人格みたいな宇宙人は苦手ニャ」


「そんなツンデレなニャゴ博士も可愛い……一言【地球をあげる】と言って……それだけで侵略は完成するからカニィ」

「そんな禁じられた言葉、死んでも、おまえなんかに言わないニャ! カニ臭いニャ」


 白猫のニャゴ博士が拒否した途端に。

 ロッカク星人の態度が一変する。

 顔面が回転して別の顔が現れる、ロッカク星人は三面宇宙人怪人だった。

「けっ! 可愛げがねぇネコだな……ほらよ、頼まれていた合体変形宇宙船ロボットの設計図だ、これで『メカ・カナ』とかいうロボット怪獣乙女を作りな」

「そういった、コロコロ変わる性格が大嫌いニャ……一人で三人に見せかけていても、バレバレニャ」


 また、顔が変わる。

卑怯ひきょうもお経もあるものか……勝負は勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ」


 ロッカク星人の顔が最初の顔に戻る。

「それでは、出陣してサカナ カナと少し遊んできます……『サカサ カナ』わたしが好きな言葉です……ちなみに」

 ロッカク星人の胸の防具が、フロントホックブラのように観音開きをして反射鏡面が現れる。

「この胸のブラで、サカナ カナから発射された光線を弾き返しますカニ、カニ」


 ロッカク星人が部屋からいなくなると、ブロンズ像に憑依しているブロン星人が口を開く。

 等身でまきを背負った、二宮 尊徳そんとく像に憑依している、ブロンズ星人のボスが言った。

「ニャゴ博士、あのロッカク星人って信用できるんですか? 卑怯者だって、もっぱら悪評ですよ……土下座して謝るフリをして、近くにあった風車を引き抜いて巨大ヒーローに襲いかかったとか」


 ニャゴ博士が開けたネコ缶を食べながら言った。

「時には紳士的、時にはおちゃらけ、時には卑怯者……あまり関わりたくはない宇宙人だけけれど、あのカニ手で文明を発展させたのだけはすごいニャ」

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