中途半端な錬金術師は、異世界でのんびり生活はじめます

とまと

第1話

 突然異世界の人里近くの森に放り込まれた。

 そう、放り込まれたんだ。

 召喚されたわけでも、神様の手違いでもなさそう。

 あえて言うなら……巻き込まれた?

 色々疲れ気味の社会人女子。残業終わりで帰宅途中。目の前でぴかりと光って魔法陣みたいなのが現れて、その上に載っていた男女が姿を消した。

 うわー、これって、異世界召喚とか?ってぼんやり見ながら歩いてたんだけど、なんか魔法陣が思ったより消えるの遅くて、うっかり端っこ踏んじゃった記憶はある。

 いや、だって、残業で疲れてたし、まさか男女が消えてから5秒以上光ってるなんて思うわけないよね?あれ、もっと人が多いところだったらスマホで撮影して拡散する人や、興味本位で光に飛び込む人続出してたよ?

 ……と、いうわけで。

 人里……里というより街を森の入り口から眺めながら、切り株に腰を下ろした。

 コンビニの袋から家で食べようと思っていたお弁当とコーラを取り出す。

 夜の9時。遅めの夕飯。……のはずが、こっちは太陽が真上。真昼間らしい。時差があるんだ、異世界って……。なんてどうでもいいことを考えながらもぐもぐ。

 さて、腹が膨れて、コーラでカフェインを摂取したので多少は頭が働き始めた。

「どうするかなぁ……」

 服装は黒ズボン、濃紺のTシャツ、黒薄手カーディガン、革製大き目リュック。

 はげかけた薄化粧に、後ろで一本結びをした黒髪。

 街に行けば目立つだろうか?

 森でサバイバル生活は無理なのは確かだけど、街に行って最悪不審人物として捕まり処刑も困る。

 ……っていうか、ほぼ全身黒って不審人物の定番っ!

 奴隷としてひどい生活や娼館送りなんてコースも……。怖いな。どうしようかな……。

「あ!そういえば」

 召喚されたってことは、魔法があるってことじゃない?

 魔法があるってことは……。

 魔物がいる可能性!召喚するくらいだから、勇者だとか聖女だとかが必要なくらい魔物がヤバイ可能性!

 魔物と言えば……。森の奥に視線を向ける。

 ここは森の入り口で明るい。目の前には整備された一本道。

 街から、森の中を通って別の街へ移動するための道だよね。

 右を向けば森の奥。左を向けば、遠くに城壁っぽいものが見えている。

 森の奥ならいざ知らず、ここはそこそこ安全なはず。だって街からこの辺りも見えてるだろうから、魔物が出たら街が襲われるってことになるし?

 どうしよう。魔物も怖いけど人も怖い。どうしよう……。街に行く?しばらくこの辺りにとどまる?

 そもそも、城壁が見えているって言っても見える場所にあるってだけで歩いたら30分くらいかかりそうなんだよね……。今はもう少し休みたい。朝の8時から夜の8時まで12時間労働した後なんだよ。

「はぁー」

 ため息をつく。

 流石に日が暮れる前には、街へ向かうか、森で野宿をするのか決断しなくちゃいけない。

 ……今は魔物の姿はなくても夜は分からないし、結局街へ向かうしかないとは思ってるんだよね。

 街の様子が分かる場所まで行って人の姿を確認してから決める方向ね。言葉が通じるか、姿かたちは同じようなのか……。なんとなく召喚系なら言語翻訳能力と収納魔法とか基本オプションついてそうだけど……。

「あ!そうだ、そうだ!」

 魔法があるんだと思ってたところだった。

 だめだ、疲れすぎていて思考能力が落ちまくり。

 魔法があるならば、自分の確認。

「ステータス」

 ぶおおんっ。

 っていう音とともに、目の前に半透明の画面が現れた。

 よかった!ステータスが見られるタイプの異世界だ。

「えっと、何々?」


 名前:佐藤 佳利菜 Lv1

 種族:人間

 職業:中途半端な錬金術師

 称号:喪女

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