第13話 パニックパーティープレイ

 ミヤモトが役割分担を決めた時。

 遥か空から遠吠えのような鳴き声が響いた。

 ミヤモト達が空を見上げると、そこから巨大なドラゴンが滑空飛行を始めて、まっすぐこちらに向かってくる。


 どうやら大きなテントが獲物に見えたみたいだ。


「全員迎え撃て」


 ミヤモトが叫ぶと。


「ほれ、わしぃの出番じゃ」


 セバスが2本の杖を掴む。

 そして、空高くに振り上げてぶん投げたではないか。


 聞いた事がない、魔法使いが武器である杖をぶん投げるとは。

 高速回転しながら空中で雷撃の魔法を遠隔発動しているようだ。


「わしぃの得意な魔法は遠隔魔法じゃ【スキル:遠隔使い】それが唯一1つのスキルじゃて、さぁてと」


 赤黒いドラゴンが真っ黒こげになり、近くの森に墜落していった。

 ドスンと大地が壊れてしまう音を響かせて。


 しばらくの間の沈黙。

 だが、次の瞬間。


 雪崩の如く、オーガの群れがこちらに向かってくる。

 人間を筋骨逞しくさせ、ゴブリンをさらに大きくさせ、角と牙があればオーガそのものだったはずだ。


 その数200体は超えるだろう。


「あ、やらかしたぁ~」


 セバスが後ろに尻餅をつくと。


「まったく、これだから」


 とロリババアのラリィが拳に包帯を巻いていく。

 赤毛の少女の姿。

 彼女が地面を疾駆するだけで、バネのように地面をジャンプ移動していく。

 オーガが1体ぶっ飛んだ。

 また1体ぶっ飛ぶ。

 まるで巨大なハンマーをぶつけているようだ。


「それは勇者のする仕事だあああああ」


 片手剣を片手にオーガの群れに突っ込んで行ったのは、偽勇者のラルスバッドだった。

 彼はくるくると剣を回転させ、オーガの胸を両断。

 一応恰好をつけて、クロスに斬り上げる事を忘れないようだ。


「クロス、クロス、クロス斬りいいいい」


「こ、怖いですわ、でもやらなくちゃ」


 なんとバリィチャンは修道女のはずだったが、ステッキを片手に、オーガをヒールし始めた。


 だがそれはヒールではなく浄化。

 オーガが1体また1体と蒸発していく。


「お、恐ろしいい、逃げねば」


 キャッドがあらぬ方向に逃げ始める。

 それも見えないスピードで。

 しかし戻ってきた。


「ぎゃああああああ」


 さらなるモンスターを引き連れて、バリアウルフ。バリア魔法を展開させながらやってくる狼型モンスター。


 その数20頭。


「たーすーけてー」


 バリアウルフのスピードは普通人間より早いはずだが、キャッドの方が遥かに早い。


 さらに、変な方向に消えると。

 また戻ってきた。


「たーすけてえええええ」


 次は巨大なマンモス型のモンスターを30頭引き連れてきた。


 もはやそこはパニック。

 5人のSSS級の冒険者達が暴れていて、指揮系統も何もない。

 みんな勝手に戦い勝手に逃げている人1名。


「これはこれでありだけど、俺はこれからゼーニャとお茶しなくちゃいけないんだよ、約束破ると怖いからねー」


「あ、まず」


 ガルフ様が剣を抜き放つ。

 その時、その場の空気が凍り付く。

 5人の冒険者達も何事かとガルフ様を見る。


 ガルフ様はゆっくりと歩きながら。


 まるで散歩しているかのように、モンスターも動けなくなっている。

 おかしい、これほどまでに強くなっていたのか?


「あれぇ? 皆どうしたのそんなに怖い顔しちゃって、これからぶっ殺すんだから、そんなにかしこまらないでよ」


 オーガが一瞬にして全滅。

 バリアウルフも全滅。

 マンモスも全滅。


 全ての工程を言葉で表す事が不可能。

 なぜなら、ミヤモトは何が起きているか理解不能で頭が追い付けない。


 ガルフ様はその場を動かず。

 ただ剣を動かしただけで、遠距離から全部を殺害せしめた。


「ふぅ、俺はゼーニャの所にくからね、ミヤモト、資材の件よろしくね」


「は、はい」


 ミヤモトの額から冷たい汗が流れてくる。

 あれが本物の化け物?

 侍の世界でも見た事がない。

 剣術の話ではない。

 剣をおもちゃのように使いこなしている話でもない。

 剣を扱っている。

 それが相応しい言葉だった。

 剣を丁重に丁重に。


「はぁはぁ、あのお方についていこう、昔、俺はこの世界にやってきて、剣豪として名をはせた。それが赤ん坊のようだ」


 他の5人もがくりと膝をつく。

 

「が、ガルフ様」

「ガルフ様」

「ガルフガルフ」

「ガールフさまー」

「これが領主の力? いや王様じゃぞ」


 最後はセバスが付け加えた。


 恐らくその日、ガルフ様は気の触れた仲間を5人獲得したはずだ。

 


「全員モンスターから素材をはきとれ、仕事は続くぞー」



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