第10話 計略は成功する?

 鬱蒼と茂る森の中、ライクド領地より北を目指す事2時間歩き続ける。

 賢者ナタリーは心の中でほくそ笑む。

 ハルガド様、ナタリーはやりました! と心の中でガッツポーズを取る事を忘れない。

 問題はガルフ領主から武器を取り上げる方法だ。

 あの武器を抜かれては豹変されかねない。


「まだか、魔王軍の魔族、あまり見た事がないが、そもそも活性化しているのは噂程度だと思っていたんだがな」


「はい、魔王軍は今や活性化しております」


 これは事実だ。賢者ナタリーは魔王軍の残党を発見している。

 問題はどこに魔王の城が出現したかと言う事。


 魔王とは自然災害のゆえんから来ている。

 ある魔族にある力を宿されると魔王が生まれる。

 魔王が生まれると城が自然に生まれる。

 魔王城が生まれれば、そこに魔族が生まれる。

 魔族は自然の産物とされるが、異世界からの産物と認識してよい。

 異世界から魔族が自然発生し、こちらの世界に渡ってくる。

 彼等は人間に害をなす事が当たり前。


 賢者ナタリーは今魔王城を探している。

 どこにあるか分からないが。


 だが、それはここではない。

 ここには兵士が100人隠れている。

 森のあちこちだ。

 それも曲者揃い。

 冒険者ランクにしてS級相当。

 

「ガルフ様、良ければ剣を見せてもらえないでしょうか、ワタクシの父は鍛冶屋でして、その業物を見て見たく」


「へぇ、良いね、見て見てよ」


 ガルフは鞘に入った剣をぽいっと投げてくる。

 賢者ナタリーは勝利を確信した。


「今です!」


 森のあちこちから兵士100名が出現する。 

 全員が抜刀し、遠距離から斬撃を飛ばす。

 それは剣術の熟練でしか出来ない芸当。

 賢者ナタリーは命からがら離れると。

 極めつけとばかりに、炎魔法を連打で発射。


 ファイボールが土煙に包まれているガルフの体をさらに煙で覆う。

 さらにファイアーウォールを発動。

 炎の壁が生まれ逃げ道を失くす。


「やりましたかね」


 その場の全員がごくりと生唾を飲み込み、煙が消えるのを待つ。


「ひっどいなー死ぬかと思いましたよー」


 無傷。

 なぜ、全ての攻撃が効かない?

 どういう事?


「あれ、なんでだ? あそうか、世界樹のジュースの力か、どうやら1度死んじゃったみたいだ」


「え」


 賢者ナタリー達は確かに攻撃する事に成功し、殺す事に成功した。

 しかし、世界樹の力により蘇ったのだ。


「なら、もう一度殺すのみ」


「ナタリーそれはひどいじゃないかー」


 優しい眼差し。

 ダメだ殺せない。

 でも、あれは嘘の姿。


 剣が消滅した。


「あれ」


 ガルフの手には剣が握られている。


「ふぅ、てめーら分かってんのか」


「あ、終わった」


 ガルフ・ライクド領主、剣を持つと性格が豹変するという噂。

 それを直で見ている。

 

「この、剣、魔法の剣だったの」


「命が危なくなったら、剣がやってくるって父上に言われた事があったけど、1度死んでから来ても嬉しくないんだがな、ふ、ふははははっははは、分かってんのか、血祭に上げるぞ」


「斬撃だ。飛ばせええええええ」


「ま、魔法よ」


 ずるり、1人の兵士の首が落下する。

 ガルフの動きが見えない。

 風のように消えている。

 見えたと思ったら散歩するように歩いている。

 

「ひ、ひいいいい」


 兵士が1人また1人と体をばらばらにされていく。


「うらうらうらうらあああああ」


 倒れた兵士の顔面に剣を突き立てめった刺し。


 兵士が90人になった。

 もう大パニック。


「斬撃だああああ。近づくなああ化物だぞおおお、あ」


 右腕が落下する兵士。

 次に左腕が落下する。


「おらよでくのぼう」


 両足も両断。


「ざ、残酷すぎる」


 まったく、意味不明、あれだけ好青年の男が。

 どうやったらここまで残酷になれるのか。


 賢者ナタリーは死を覚悟していたのだが。

 兵士が一人残らず殺害されると。


「おい、ナタリーお前最高だな」


「は?」


「俺は1度死んだようだしおもしれー人生で初めて殺された。お前気に入ったぞ」


「はい?」


「どうだ。俺の配下になれ、そうしたらおもしれ―こと色々教えてやるぞ」


 どうやらこの人は頭が狂ってしまってるようです。

 ハルガド様、ワタクシ賢者ナタリーはこれから修羅の領地で生活しなくてはいけないようです。


「は、はい、どうか、どうか命だけは」

「ふははっはははははっは、お前魔法使いか、なら色々と教えて欲しい、魔法でもなんでも使い方を教えてくれや、そして俺はお前に人生の怖さって奴を教えてやんよ」


「ひ、ひいいいいいいいい」


 賢者ナタリー運命は修羅と共にあったようだ。

 その日、流れ星が沢山流れたけど、賢者ナタリーの記憶にはさほど残らなかった。

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