第9話 賢者ナタリーの色仕掛け


 ライクド領地。かつては2つの領地があった場所は1つの領地へと発展していった~

 そこでは数えきれないほどのゴーレムを利用して採掘をし続ける自動採掘が広がっていた~

 そこでは世界樹の樹が生えており、エルフが1人木々を風魔法で伐採しまくり、増殖スキルでチート級に成長させていた~

 そこではたった1人の建築家のノームがチートスキルを使って建物を建設しまくっていた~

 そこでは農業に詳しい冒険者ギルドマスターが畑作業をしていた~

 そこでは子供の将軍がダンジョンを攻略すべく、モンスターを殺しつくして、龍王を殺していた~

 そこではモンスターを使役出来る元魔王がモンスターを指導していた~

 そこでは天使王と呼ばれた天使軍師が物語を人々に聞かせていた~

 そこでは三つ目の青年がお酒に酔っぱらって世界樹の酒を製造していた~


「というのがワタクシが調べてきた情報になりますわ」


 淑女、いや桃色の髪の毛をツインテールに縛りながら。

 紺レザーのスカートに柔らかそうな白シャツを身に着けている。

 頭には赤いリボンが付けられている。


「賢者ナタリーあなたが魔法鑑定で調べた情報はとても助かります」


 インテリメガネ。

 紺色の長髪。ネクタイを身に着け、紳士服を着用した男性。

 フォボメット領地の領主。

 ハルガド・フォボメットであった。


「ですが、ハルガド様、一番の問題は領主であるガルフ・ライクドです。あいつの強さは異常です」


「ふむ。剣を持つと豹変するんだよな」


「そうです」


「なら、剣を持たぬうちに殺してしまえばよい」


「それが出来ません、周りにはリンデルバルク執事長、あの戦乙女とも狂戦士とも呼ばれたゼーニャがおります」


「ふむ、困りましたね、私の領地統一にはガルフ・ライクドが邪魔なのですが」


「方法はない事はないのですが」


「なんですか?」


「色仕掛けです」


「ほう、誰がやるんですか?」


「ワタクシしかいないじゃないですかー」


「任せましたよ、賢者ナタリー私は攻める口実を考えておきますから、こちらには3万の兵力があります。ジンネ・ギャロフの敗退の原因は力押しがごとくです。軍師と呼ばれたこの私なら可能性があるかもしれません、保険であなたの色仕掛けも期待しましょう」


「はは、ハルガド様はいつもお冷たい」


 賢者ナタリーはふわりとその場から消失した。

 賢者世界。

 そこは賢者が作り出したと呼ばれる魔法世界。

 そこには賢者ナタリーしか入る事が出来ないのだが。


「よぉお」


「はいいいいいいい」


 そこには三つ目の緑色の髪の毛をした青年がいた。

 賢者ナタリーは即座に杖を向けるのだが。

 細長い槍を空に向けている三つ目の青年は笑っている。


「やめろやめろ。この時代にも賢者世界を使ってる奴がいるのか」

「あなたは?」


「しがない領主の配下ってところだ。賢者世界を広めた賢者バタリーとはお前の何だ?」

「え、その人は祖先ですけど」


「そうか、あいつに遠いい子供が出来たか、じゃあな」

「あなたは?」


「ロイガルド、地下都市の王子、天地戦争のきっかけを作った。異世界人さ」


 ロイガルドの体が緑の塵みたいに消滅していった。


「あーもう何なのよ、この世界はワタクシしかいられないはずなのにいいいいいい」


 賢者ナタリーの慟哭。

 誰もいない賢者世界。

 そこは遥か異空間にあるとされる。 

 賢者バタリーが命を掛けて作り出した賢者の為の賢者の空間。


「さてと、色仕掛け―色仕掛け―」


 賢者ナタリーは女らしさをアピールする為にお洒落をし始めた。



 領主の屋敷にて、ガルフ・ライクドは爆睡していた。

 それも盛大に机に脚をかけての爆睡。

 壁には父親から譲り受けた大事な剣が飾られている。


「ガルフ様、いい加減起きてください、今日は世界樹のお酒のお披露目ですよ、あなたが一番最初に飲むんでしょ」


「お、でも酒飲めないしな、まだ15歳だし」


「その為に、世界樹のお酒のアルコール度を蒸発させたものを作らせましたから」


「ほほう、やるな、ゼーニャ、行くか」


 かつて、ライクド領地とギャロフ領地があった。

 2つの領地の狭間に領主の屋敷を設立。

 ちなみに建設にかかった時間は数秒であったとされる。


 城壁の壁伝い。 

 さすれば、世界樹の酒を製造する場所に辿り着く訳だが。

 

「いやーオリハルコンの城壁は最高だな」


「ええ、どこの世界にオリハルコンを城壁にしてしまう領主がいるんでしょうね」


「いいか、見た目は大事だぞ」


「いえ、その効果が絶大すぎるかと、もはや誰も破壊出来ませんよ城壁」


「ウィンダムさんのスキルって凄いよなー変換機能チートだよ」


「それは痛感しています」


「お、ついたついた」


 そこには10名程の人々がいた。

 エルフ族のパトロシアさんと三つ目族のロイガルドさんが立っている。


「世界樹のお酒飲んでみたい」

「おう、パトロシア、お前の口に合うぞきっと」

 

 パトロシアさんが少し頬を染めながら、お酒を飲むのを楽しみにしているようだ。

 さらにロイガルドさんは樽を用意させているのだが、すでに酔っぱらっていた。


 お酒の製造する建物。

 基本的に果物から取れる果樹を発酵させるのだが、そこに世界樹の葉を入れる事で世界樹の酒を造る。アルコール度数を蒸発させる事でジュース化させるとかなんとか、やり方はきっとロイガルドさんが知っているのだろう。


「見て驚け、この樽の中には世界樹のジュースが入っている、こちらの樽には世界樹の酒が入っている。飲んだらどうなるかなんて知った事ではないが、飲んでみろ、激うまだぞ」


 その場にいた全員がごくりと生唾を飲み込む。


 かくして試飲が開始された。

 パトロシアさんはぐびぐびとのジョッキに注ぎ飲み干している。

 するとパトロシアさんの体の表面に緑色のオーラのようなものが出現。

 魔力を可視化出来る程の濃厚さ。

 ガルフも飲んでみると。


 感覚が研ぎ澄まされてくる。

 音や臭いや光やそういったものが敏感に反応し。

 人々の思念が頭に入ってくる。

 数えきれない思念に頭がパンクしそうになるが。

 少しずつ少しずつコントロールしつつ。


【告知 意識の繋がりを感じ始めています】


「意識の繋がり?」


【意識を繋ぎ、テレパシーのような事が可能です】


「へぇ、やってみるか【ゼーニャのバーカ】」


「なんですってえええええ」


「いや、やっぱり聞こえるのか」


「え」


「ロイガルド、主要メンバーに世界樹の酒かジュースを飲ませろ」


「どういう」


「離れていても意思疎通が出来るかもしれない」


【告知 条件世界樹の酒またはジュースを飲む】


「ほう、それは興味深いな」


 その場の全員が飲み干すと。

 その場は御開きとなった。

 帰り道、ゼーニャが買い物に行くとかでいなくなると。

 1人とぼとぼと歩き出す。

 誰か、桃色の髪の毛のポニーテールの女性がぶつかってきた。


「ご、ごめんなさい」


「いえ、良いんですよ」


「あら、ガルフ様ではございませんか?」


「誰です?」


「ワタクシですよ、この前助けて頂いた」


「へぇ、助けたっけ?」


「もう、忘れたんですかーそうだお礼に食事とかどうです?」


「良いけど、今日は暇だしな」


「ワタクシ、ナタリーと申します」

「ほいほい」


 ウィンダムさんが建設した建物の酒場。

 蝋燭の火が辺りを灯しており、お酒の臭いが充満している。

 酒場の亭主がミルクを二つ出してくれた。

 さらに肉の塊まで出てきたが、ナタリーには生クリームのついたお菓子が当てられる。


「この領地の食べ物は珍しいですわ、あまり見た事がないのです」


「そうだろうね、別な世界のレシピだから」


「本当に別な世界なんてあるんですか?」


「あるんだろうさ」


 ガルフ脳裏にガチャで手に入れたレシピがよぎる。 

 あれを領地に広めてもらったのは軍師ババスだ。

 ババスは本のようなものを作り、各担当の人々に配ると言う事をした。


「ガルフ様、お願いがあります」

「なんだい」


「ガルフ様に助けて頂きたく」

「へぇ」


「近くに魔王軍の魔族がいまして、弟が捕まってしまったのです。どうかお助け頂きたく」


「それなら、今から行こうか」


「え、連絡しなくて良いんですか?」


「良いってことよ」


 ガルフの腰には剣が帯剣されている。

 その剣を軽く触るガルフ。

 父親の温もりを感じさせながら。


 ナタリーと共に、領地を身1つで出発した。


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